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「ショートショート」2人だけの空中庭園に最近、双葉が咲きましたよ。

みーちゃんは、今日、サクラがたくさんさいている、おかで手が長いロボットにスキっていってみた。そしたらそのロボットは「スキ……?ソレハナンダイ?」ってサクラの花びらをくれた。だから「ありがとう」って言って「手が長くてかっこいいね」ってお母さんがくれた白花タンポポの種をあげた。

「いっしょにうめようよ。ちかくに来てしゃがんでって」いうと、ギガギガ。ギガギガってかっこいい音を鳴らしながら近くに来てしゃがんでくれた。

「それかして」って言って土をほって白花タンポポの種をうめた。そしてとなりでしゃがんでくれているロボットのほっぺたにチュッてした。少しだけオイルのにおいがして、口にすながついた。でもドキドキした。ロボットはこれからフウシャの小屋にいるお兄ちゃんのお手つだいをするっていってかえっていった。

今日は私の16の誕生日なので、ロボットの彼をラベンダーが咲く広場に誘ってみた。

「イイヨ」って言ってくれたから、私の弾けそうな心はその日から支度をはじめだした。

 白粉花の種を集めて種を割って白い粉や時々当たりの赤い粉に紫の粉を湿気ない様に別々の瓶に集めて、当日に大人がする様に見よう見まねでお化粧をした。

藁で編んだランチボックスにハムとチーズのサンドイッチとサトウキビのジュース。後、お小遣いを叩いて買ったロボットの彼に食べてもらうための綺麗なオイルと体を拭く為の綺麗な布。女の子っぽく見てもらいたくてラベンダーの花びらを数枚も入れてみた。もちろん、お気に入りのランチョンマットと彼のお尻が傷つかない様にピクニックシートも入れて準備は完了。

私はロボットの彼との待ち合わせ場所へ向かうために、村の中心街を歩いていた。

すると、何処かからクスクスと笑い声がした。笑い声のする方を向くと男の村人が2人驚いた顔を一瞬見せ、そして私から視線を逸らしまたクスクスと笑っていた。

私はそれを深く考えず、ロボットの彼が待つ丘へと駆け上がった。

丘につくと、彼はラベンダーの咲く広場の真ん中で長い腕で長い脚を組み座っていた。

私が近づくと角ばっていない三角の頭を私の方に向け、キラキラと赤く目を輝かせていた。彼で言うところの「ごきげんよう」の挨拶だと言う事を昔教えてもらっていた。

私はちょこんとロボットの彼の横に座ると、ピクニックシートを広げ「どうぞ」っとロボットの彼を座る様促した。

ロボットの彼はガシャガシャと音を立てて立ち上がるとピクニックシートの上に体には似つかわしくないほどの小さなお尻を落とし座った。

「じゃ、先にランチに準備をするね」っと私はお気に入りのランチョンマットをロボットの彼の前に広げ、綺麗なオイルを置いた。

彼は風車小屋での仕事の後なのか汚れていたので、持ってきた布で先にロボットの彼の体を拭いてあげた。ロボットの彼は抵抗する事なく、長い手で脚を組み座っている。

すぐに土ぼこりとオイルで、茶色くなった布を洗うために私はラベンダー畑の横にある、小さな池に布を洗いに行った。

バシャバシャと布を綺麗に洗い、水の波紋が緩やかに鏡になった時、私はやっと村人の人がクスクス笑っている理由を知った。

私の顔に塗られた白粉花が、汗でぐちゃぐちゃに崩れていたのだ。

頬に塗ったピンクのチークと目の上に塗った紫のお化粧と黒いラインが汗で崩れ、混ざり合って燻んで目にできたアザみたいになっていた。そしてそれに気付かずここに来てしまっていた。

これで、街中を歩いていた事とロボットの彼に見られた恥ずかしさで水面に映るお化けがどんどんぼやけていった。

私は水面に映るお化けの皮を剥がすために、顔を小さな池につけた。目の熱さが水面に溶けていくと同時に多少の冷静さも取り戻した様な気になった。

綺麗に洗った布を持ってラベンダー畑の真ん中で黄昏ているロボットの彼の元に戻ると、私に気づいたのか顔をこちらに向けて、目をキラキラと2回輝かせた。これは多分おかえりの挨拶なんだろうって思った。

私はロボットの後ろに周りゴツゴツした背中を綺麗な布で拭いてあげていると、ロボットの彼は顔を180度後ろに回し私の顔を見ると「ボク モ コワレタラ メ カラ オイル ガ モレルヨ」っと言ってゆっくりピカピカ目を光らせた。

冷静になってたつもりだったけど、ロボットの彼の言葉で色んな感情が大波となって溢れ出し、ロボットの彼の背中を借りてわんわんと泣いた。彼は私が泣き止むまで、ピクリともせず座っていた。

幾何かの時間が流れ、彼の中で脈打つカシャカシャの音が聞こえるまでに冷静になった私は「ありがとう」っとじっと動かず私に背中を貸してくれたロボットの彼の前に回ると、サンドイッチとサトウキビジュースを出し「いただきます」っと一口齧り付いた。それを見ていたロボットの彼も綺麗なオイルの栓を抜き一口飲むと「オイシイ」っと言い全てのオイルを一気に飲み干した。

そして、食べ終わりロボットの彼が長い手でささっと片付けると、また膝を抱えちょこんと座ったので、私はロボットの彼の横に座り何故泣いたのかを話した。すると、カシャカシャと機械音が早くなりロボットの彼は一点を見つめながら話し始めた。

「ボク モ キョウ オヤカタ ニ オコラレタ ウデ ガ ナガクテ フウシャ ノ ハネ ヲ コワシテ シマッタ コノ ウデ ミンナト オナジ モウスコシ ミジカクテ イイ」

ロボットの彼の胸の音がカシャカシャと早くなりだし、今にも壊れそうな胸をじっと耐え我慢している様に見えた。でも、私は初めて会った嵐の中で小さな私を長い腕で器用に雨から守り、大きな体で風を遮ってくれた彼の姿にかっこいいって思えたので「長い腕がかっこいいよ。だって食器をパパッと出せるし、それに大好きな人をその長い腕で守れるじゃん」っとロボットの彼が見つめる先を見ながら話した。

「ソウダネ。マダ ボク ヤクニ タテルネ」

そう言うと、ロボットの彼の中で鳴るカシャカシャっと言う音が小さく元の早さと大きさに戻っていくのが分かった。

そして、ロボットの彼は立ち上がると「オヤカタ ノ トコロニ モドッテ ナオス テツダイ ヲ スル」っと言い目をギラギラ2回輝かせた。

「うん。しっかりね」っと私が小さく手を振ると「16サイ タンジョウビ オメデトウ アト オイルヲ フイテクレテ アリガトウ」っとラベンダーの花を一輪摘み、私の背の高さまで前屈みになるとラベンダーの花を私の前に差し出した。

私が一輪の紫色のラベンダーを受け取るとピカピカと2回目を光らせ「ボクハ ミンナ ニ ワラワレタ ホウガ ウレシイヨ ダカラ ソンナニ オイル ナガシタラ ダメダヨ」っと言い振り返りると大きく一歩踏み出し歩き始めと見る見るうちに小さくなり、丘を下って行った。

ロボットの彼が彼なりに考えた慰め方だろう。私は丘からそんな格好いいロボットの彼が見えなくなるのを見届け、彼とは反対の自分の家の方へ歩いて帰った。

          *

厳しい夏の暑さも秋の涼しさに溶け出し、18歳から始めた刺繍屋の仕事ももう彼此20年を迎える。

街の風景も私と同じ歳の人達も色んな部分で変わり、木造だった建物も石造りになり、子供だった人も大人になり、夫婦そして親になっていた。

私ももちろん、これまでに縁談の話もあったけど私は昔と変わらず彼への気持ちが消える事なく時々、町外れの丘で会っては色んな話をしている。

最近は風車小屋の親方の体調が良くないらしく「オヤカタ ガ コワレナイ ヨウニ ボク ガ ガンバラナイト」っとギシギシさせながら毎回丘を下って帰っている。

そんなある日、私はいつもの様に仕事をしていると、新聞屋が私の職場へ来て「風車小屋の親方が倒れた」っと慌てた様子で駆け込んできた。

風車小屋の親方の親戚に当たる私の雇い主がそれを聞くと書きかけの帳簿を投げ出し、新聞屋と大急ぎで出ていった。

私も店の鍵を閉め、急いで風車小屋へ行くと小屋の周りに沢山の人が押し寄せていた。

雑踏の中で2つばかり頭が高かった彼を見つけたが、彼は大きな体を前屈みにし群衆の真ん中で一点を見つめていた。

彼の目線の先には風車小屋の親方が横たわり、私が群衆の隙間から様子を見ると、風車小屋の親方の横にいる町医者が丁度横に首を振っていた。

この街ができた時に水路を引っ張り生活に欠かせない水を提供して来た風車小屋の親方は、この街の人からも愛され、そんな人達に見守られながら天国に旅立った。

葬儀も終わり、風車小屋は親方の息子が引き継ぎ、街が徐々にその悲しみを受け入れようとしていた。

丘から見える山々はオレンジに染められ、通り過ぎる風は時々冷たいそんな丘に私と彼はいつもの様に座っていた。すると彼は「オヤカタ コワレテ シマッタ。デモ アタラシイ オヤカタ ガンバッテル ダカラ ボクモ コワレナイ ヨウニ ガンバル」っとチカチカとオイルが流れた後の目を光らせながら言った。

「そうだね。でも、時々体を見てもらわなきゃ駄目だよ。そうしないと仕事できないよ」っと立ち上がり、彼の顔を持っていたハンカチで拭いてあげるとピカピカも目を輝かせた「ワカッタ」っと言った。

少しの間、涼しい風の音を聞いていると彼はキシッと脚を組んでいた腕を鳴らし、「イマ ノ オヤカタ チイサイ トキカラ シッテル。イマ ハ マタ チイサイ オヤカタ ウマレテ スゴク カワイイ。ボク モ イツカ ジブンノ チイサイ ジブンガ ホシイ」っと言った。

それを聞いた時私の胸に冷たい風が流れた。もちろん、私も彼と同じ気持ちだ。背中の汚れも汚れた顔のオイルも今まで何百回も何千回も拭いて来たが、そればかりは無理な話だからだ。

小さい彼はきっと可愛い。優しくて長い腕はきっと力強くて、誰からも愛される子になる。

でも、それは私にはできない……

「うん。そうだね。私もお手伝いできる事あったら言ってね」

私は初めて彼に嘘と隠し事をした。

「ワカッタ」

彼はキラリキラリっと目を嬉しそうに2回輝かせると立ち上がりガチャガチャと体を鳴らせながら丘を下って行った。

今朝は特に寒かった。食器を洗っていると歳から来る乾燥のせいで手にヒビが入り水仕事が辛くなっていた。

やっとの思いで水仕事を終え、窓から外を見ると、年の瀬と言うこともあり、私と同じ歳の人達が孫を迎えるためにご馳走を作っているのか、家から伸びる煙突から白煙が出て、窓の隙間から美味しそうな匂いが入って来た。

私はまた1人台所に戻ると、すり潰しておいたヒマシを煮沸し、凝縮されたオイルを瓶に詰め革のバックに入れた。

あの人が最近、ガタガタと体から異音がすると言っていたので、体の良いって本に書いてあった通りの製法でひまし油を作って、いつもの丘で飲んでもらおうと思っていた。

私が家を出て丘へ続く街を歩いていると、あの人が世話になっている風車小屋の親方が私を見つけ慌てて駆け寄ってきた。

「家に行ったんですよ」

白い息を吐きながらそう言うと再度大きく息を吸い落ち着いたのか「それより、ロボットが壊れてしまって。あなたの所に呼びに行ってくる様にって言われましたので、慌てて呼びに来たんですよ」っと身振り手振りで説明してくれた。

どうやら、土地を広げるために邪魔な木を伐採する作業を手伝っていた時に倒れて、地面で強く打ったのか、ギシギシガシャガシャと音を立てて動かなくなったようで、風車小屋の新しい親方に私への言伝を頼んだ様だった。

「分かりました。何処ですか?」

私は呼んでいる彼の元へ案内された。

山が切り開かれた広場の真ん中に数人の人が集まっていて、そこの真ん中に彼が倒れていた。

私が彼の近くへ寄ると、長い腕と長い脚を伸ばしうつ伏せで大の字の状態で倒れており、体の中からはギリギリと異音を鳴らしていた。

「今、来ましたよ。痛くない?」っと私が聞くと、首を180度回し「イタクナイ。デモ ウゴケナイ」っとゆっくり目をチカチカと光らせた。

「いいのよ。それより飲む?ひまし油?体に良いって聞いたから今日作ったのよ」

私はバックからひまし油の入った瓶と綺麗な布を取り出した。

「ウン。ノム。ノメバ ダイジョウブ」

私はそう言った彼の口にひまし油を流し込むと彼は生き返った様にキラキラと目を2回輝かせた。

そして、私はいつもの様に綺麗な布で彼の背中を拭いた。

「最近のあなたは本当に汚れが取れないわ。特に繋ぎ目は錆てしまってるじゃない」

っと背中と長い足と長い腕を拭いた。

ギシギシと擦れる音が背中から聞こえる。

そして、最後に綺麗洗った布で顔を拭こうとした時に彼の赤い目から透明のオイルが流れゆっくりチカチカと2回光らせ最後に大きくさっきよりさらにゆっくりと光らせ、ギシギシと言う音が小さくなりカシャンっと止まった。

「最後までかっこよかったわ。お疲れ様でした」っと言い目から流れたオイルを拭いてあげた。

初めて見た光っていない彼の目の中は傷ついてない赤いビー玉の様に綺麗だった。

長い冬も終わり、春の暖かな風が吹く頃私はあの人と沢山話した丘に家を建てた。

「今日の風も気持ちいいですね」

部屋には長い腕で長い脚を組んだまま動かない彼があの時と同じ様にちょこんと座っている。

「うわー。ねーねー。見てくださいよ。あの時埋めた私達の庭園に双葉が咲きましたよ」

外を見ると沢山の白花たんぽぽの双葉が青々と絨毯の様に広がっていた。


おしまい。


-tano-

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