見出し画像

SF小説-民営自衛隊㈱ #8:閣議了承から法案発表へ

Chapter8:閣議了承から法案発表へ


 自民調(自衛隊の民営化に関する調査委員会)がまとめた自衛隊民営化案は、閣議ではほとんど議論なく了承された。防衛庁長官が、「私はどうなるのか・・?」と小声でつぶやいただけである。国民には定例の官房長官ブリーフィングで、関連法案整備と併行して自衛隊民営化を進める、と正式に発表された。

 国会各会派の反応は概ね好意的である。というより、与党自民・公明はもとより、最大野党の民主党は以前から基本的に賛成の意向を示していた。
 民主党党首は「本来なら憲法改正まで踏み込むべきだが、民営化自体は国家予算削減の面から好ましい」との談話を発表した。
 一応、反対の立場をとったのは社民党と共産党である。社民党は「民間になっても自衛隊と名がつく以上、違憲である。海外派兵は絶対に許されない」との見解を示した。共産党は自衛隊の存在は容認するものの、「自衛隊が巨大企業となることで、従来の民間業者の経営を圧迫する恐れがある」との書記長談話を出した。

 マスコミの反応も見ておこう。まずはテレビ各局。
 NNKは大相撲中継をしていたが、速報でテロップを流した。7時のニュースはトップで扱い、官房長官の発表を仔細に報じた。
 民放10時のニュースショーでは、人気司会者が「この分だと、日本全体が株式会社になるかもしれませんね(笑)」とコメントした。当人はジョークのつもりだったようだが、後に本当のことになる(その話はまた別の機会に書くことになるだろう)。
 11時のNEWS123は、ネットと電話による緊急世論調査を実施した。結果は自衛隊民営化に賛成28%、反対15%、どちらでもいい19%、わからない38%となった。老キャスターはこの件には触れることなく、今年はワインの出来がいいという話題には笑顔でコメントした。
 ワールドビジネスニュースは、今後は軍事サービスの質が問われる時代になると述べ、付加価値をとらえることでビジネスチャンスが増えると報じた。

 新聞各社は夕刊トップで第一報。朝日の素粒子は「民営化へと草木もなびく、自衛隊がJRみたいにならねばよいが・・」と例の調子で書いている。
 翌朝刊の主要各紙、社説の見出しを拾っておく。朝日は「アジア諸国との関係に配慮を」。毎日は「憲法との整合性は本当にあるのか」。読売は「大泉内閣は民営化の総仕上げを」。日経は「より一層の規制緩和で市場拡大」・・・である。
 最後に海外メディア。CNNは「米大統領、日米同盟は今後も変わらぬ」との談話を発表。BBCは早くも、自衛隊の海外進出で経済摩擦の恐れがあるとのEC代表のコメントを報じた。尚、新華社は今のところ沈黙している。

>>第9話へつづく
<<第7話に戻る
<<第1話からお読みになりたい方はこちらへ

※この記事は2005年5月20日にブログ『tanpopost』に掲載したものです。
内容はフィクション(SF)であり、実在の団体・人物等とはまったく関係ありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?