見出し画像

さくらももこ『もののかんづめ』 笑えるのに、大人になって読んでみたら意外と深かった

画像1

たまたま手にする機会があったベストセラーエッセイ『もののかんづめ』を久しぶりに読んだ。

健康でランド出くわした“ツボ師”、学生時代のアルバイト、海外旅行やひとり暮らし生活での恐怖体験、じいさんの死、お馴染みの父ヒロシや母、姉など家族の珍発言などなど様々な出来事が綴られた、とにかく笑えるさくらももこの初エッセイ。エッセイ執筆後に書いた「その後の話」や対談も集録されている。

笑える。とにかく笑える。恐怖体験や死をまるで落語のように笑い話に変えているのもすごい。

しかし大人になって読んでみたら、笑えるだけでなく、意外と深かった。特に、巻末の対談がエッセイの面白みを深めていたように感じる。

改めて魅力を感じたのは、さくらももこのどこか達観した視点。例えば、じいさんの死についてはともすると悪口が添えられおもしろおかしく書かれている。このエッセイについて編集部に苦情の手紙も届いたそうだが、事実だから仕方がない私はこれからもこのようなことを書くだろうということを「その後の話」でキッパリと言い放つ。

また、学生時代は、授業中に話を聞いていなくても寝ていても、誰かに迷惑をかけているわけでもないのだから悪いことだと反省したことはない、朝ギリギリまで寝ていて遅刻寸前の日々に「毎日お母さんを怒らせないでよ!」と言う母に対しては「(何をいっているんだ。お母さんが怒らなければ済む話なのに……)」と思っていたetc……。しかも、無理して反発しているふうではなく、とにかく自分に正直でいるだけというようなスタンスが爽快。昨今、「大切な人ために」とか「思いやり」などの言葉が乱用されているようなシーンに、しばしばゲンナリすることもある私などは、みんな少しはこんなふうに自分に正直なスタンスを取り入れてみては?と思う。

もうひとつ、意外だったのは、家族のあり方。ちびまるこちゃんを見ていると、幸せいっぱいの家族を思い浮かべてしまうが、じいさんの件もそうだけど、お母さんがそこそこの怒りん坊など、完璧な家族ではない。筆者は、他人の私から見ても「そんなことで怒る?」ということでお母さんに非難されることも多かった様子。なんだか自分の母親を思い出し、「めんどくさいことが一切ない家族なんてないよなぁ。どこの家族も似たようなものなのかなあ」と勇気づけられた。それでも筆者は、それはそれ、という感じで、母を大切に思っているところは見習いたい。もっというと、父ヒロシは年がら年中母の小言を聞きながらも、「それも元気な証」と受け流しているそうで、このヒロシの姿勢も人として大いに見習いたいと思った。

正直さと笑いのセンスと文章力で、世の中に蓄積された重苦しさをあっけらかんと吹き飛ばしてくれるような一冊。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?