見出し画像

未来の建設業を考える:建設論評「半導体不足から学ぶ」(2021年9月14日)

半導体不足

 半導体不足が世界的な課題となっている。
 トヨタでさえ、半導体不足で減産を余儀なくされたと聞く。建設業界でも、一部空調機などの設備機器で半導体が不足し、生産できない事態に直面している。
 いま世界の半導体生産の現状は、米IC インサイツの調べによれば、米国、台湾、中国がおもな生産国で、1990年当時は日本の世界シェアが49%もあったのに、今ではわずか世界の6%でしかない。
 そのおもな理由は、①日本の半導体企業が総合電機メーカーの事業として展開されたため、自社利用が優先されたこと、②外部で起こった急激なIT化、AI化、スマート化といった分野への新たな技術への投資、対応ができなかったこと、③マーケティング軽視で、顧客が求める画像解析技術や認識技術などへの対応ができなかったこと、④半導体市場が1990年の6兆円から、2022年度には63兆円となり、さらに2030年には100兆円市場まで成長する見込みだが、早い成長を見据え、迅速に長期的な投資を行う経営者が不在であったことにある、と言われる。
 さらには半導体が、単純に自動で機械などを動かすためのものから、日本が得意とする微細技術へのこだわりを超えて、携帯電話などの通信、データセンターなどの大規模なデータ処理・分析、ひいては都市全体のデジタル化、スマートシティ化、画像認識が必要な自動運転技術など、大規模かつ瞬間的な判断が求められるハイスペックなものとなり、常に顧客と一緒になって長期にイノベーション開発することが求められるものとなっていったことが大きい。

日本は顧客視点で長期的な観点で経営

 一般に、日本は顧客視点で長期的な観点で経営ができる、一方で、欧米の経営者は目先の株価をあげる短期的な利益を追求する経営が多い、と言われていた。しかし、米ガートナーの調べ(2018)によれば、いまの実態は、長期投資への許容度が欧米や中国と比べて半分程度と著しく低いのが日本だそうだ。その理由は、次々と新しいものに手を出しては結果がでず、まったく別の方式に手を出す繰り返しとなっており、中期経営計画や成果主義、費用対効果の徹底などにより、ものすごく短期志向の国に変貌しているためだ、と指摘している。
 また、日本では企業内にプロフィットセンターとコストセンターという単純な発想から分社化や部門売却を進めてきたが、その結果、社内のAIやIT部門の担い手が不足し、急にDX(デジタル・トランスフォーメーション)と言い出しても、結局ITベンダーに頼るしかなく、会社としての本当の課題を解決するためのDXが推進できない状態にあるそうだ。
 いつの間にか、わが国の経営が短期的志向へと大きく変わっており、長期的視点が欠けていたようだ。

建設業は長寿命化すべきインフラや施設建設、維持修繕に責任

 一方で、建設業は長寿命化すべきインフラや施設建設、維持修繕に責任を持つ企業だ。
 維持更新分野、環境対策、自然災害対策、日常的なアフターケアなど、まだまだ多くの解決すべき分野が存在する。企業として利益を得ることは重要だが、それ以上に長期的な視点で社会の発展に資する産業として、建設業の経営者には独自のノウハウを構築するような長期を見据えた「人・モノ」への投資が求められる。
 いまやあらゆる製品に半導体が組み込まれ自動化が進むが、最後は、長期的視点でひとりひとりが賢く考え、世界をリードする建設産業としたいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?