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銀座の夜

珍しく、夜の銀座で金曜の夜のひとときを過ごす。久方ぶりに行く、ビアガーデン。夏の風物詩である。

いつ行っても、銀座という街は落ち着かないようで落ち着く、不思議なところだ。
ハイブランドの路面店はどこも入口にスーツを着込んだ男性が立っていて、中を覗くことすら叶わない。それでも、新宿や渋谷の賑わいとはまたどこか違って、人の流れが比較的整然としているからか、変な疲れ方はしない。立ち並ぶビルを見ているだけでも、様々な意匠のものがあって飽きない。
表通りから一本中に入れば、昔からの店も残っていたりして、意外な発見もある。鳩居堂の前を通ると、ふんわりとお香の匂いが漂ってくるのも良い。

それに、なんと言っても様々な言葉を話す人が歩いている。とりわけ多いのは、やはり中国語。
銀座を歩いていると、さながらリスニングの授業気分で中国語を聴けるから楽しい。今日も、かなりの数の中国語の会話が聞こえてきた。ティファニーのお店を覗きながら話していた男の子二人は、何を話していたのだろう。

同じ中国語でも当然、地方によってまったく音の響きが違っていて、一人で歩いているとなんとなくしか分からないが、中国語話者の友人と歩いていると、「あれはたぶん東北の人」とか「これは南の方の訛り」とか教えてくれて、勉強になる。

私の勝手な思い込みだが、綺麗な中国語を話す人は、きっと歌も上手い(これは件の友人には同意してもらえなかったので、合ってはいないのだろう)。声調の上げ下げが上手いということは、メロディーを奏でるのが上手いのではないか、という理屈。思えば様々な外国語を齧ってきたが、英語を除けば、一番始めに出会ったのは中国語。その音の響きの美しさに惹かれたのを覚えている。

そんなことを考えながら歩いていて、ふと空を見上げる。
そこには、朧気ながらもほぼ真ん丸の月が輝いていて、銀座の夜を照らしていた。ビルの高さ制限のためか、銀座は月が見えやすい気がする。思わず、連れ立って歩いていた仲間たちの前で「見て!月が綺麗だよ!」とはしゃいでしまった。

路上でパフォーマンスしていたサックス奏者の奏でる音色が、空に溶けていった。


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