黄昏の頃、その客人は来店した。 もうこんな時間なのか、と気怠そうに振り子を揺らす柱時計を見て思う。随分と日が延びてきた。あまり冬らしくなかった冬が終わり、次にやって来た春も駆け足で過ぎ去ろうとしている。 楚楚とした空気感を纏わせ、その女性は窓際のカウンター席に静かに着いた。切り揃えられた前髪がどこか古風な日本人形を連想させる。喫茶するのはレモングラスのお茶。温和な表情の内側で、次は何を企画しようか、きっと考えている。 ヤノさん。御庫裏。 もともとヤノ
黄昏の頃、その客人は来店した。 朝晩はずいぶんと涼しくなってきたが日中は季節を感じさせない日が続き、それでも頭を垂れて実った稲穂が健気に秋の訪れを告げている。 躊躇の無い所作でドアを開けるとその女性は店内に歩を進めた。 凛としている。 風の音のみに時間の流れを委ねたような竹藪にイーゼルを置き、ひとり、絵を描いている。そんなイメージが浮かぶ。 女性は窓際のカウンター席に着くと、ホンジュラスを、と店主に告げた。 由美さん。日本画家。 日本画。 絵画の
黄昏の頃、その客人は来店した。 容赦のない残暑に打ちのめされながら、深いブルーのバイクが駐車場に滑り込む。降り立った男性。バイクの部品の一部のような軽量化されたボディをしている。きっとアルミニウムが主食に違いない、と思わせるほどに。 やや挙動不審気味に店内にそっと入る。不法入国してきた東南アジア辺りの青年を連想させる挙動を維持しながら窓際のカウンター席に着く。 店主の出迎えに珈琲とワッフルを注文する。珈琲には砂糖とミルクをたっぷり入れて飲むのがお気に入りである。
黄昏の頃、その客人は来店した。 アースカラーの着こなしに定評がありそうな女性。ゆるくウェーブのかかった髪型がそういった空気感に説得力を持たせている。 鋭角に結ばれた口元は内側に秘めた静かな決意を具現化しているようにも見える。 窓際のカウンター席に着き店主の、いらっしゃいませ、の声にカフェオレをお願いします、とやわらかな口調で返した。 ケイコさん。臨床心理士であり公認心理師。 その昔、精神的に何らかの異常を来した人に対してオカルト的、もしくは超常現象的な
黄昏の頃、その客人は来店した。 淡い緑色の作業服。日に焼けた肌にそれがよく似合う。背丈にも恵まれ、根菜類のような顔立ちである。ただし、なかなかハンサムな根菜類。 いらっしゃいませと出迎えると軽い笑みを返し窓際のカウンター席に腰を落ち着ける。 水とおしぼりが運ばれると、カレーはまだありますか? と問いかける。完売してしまいましたと告げられると少し残念そうな顔をして、ではスコーンと珈琲を、と笑顔を取り戻して注文を終える。 イワイシさん。農業研究家。 今日は