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『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』:2018、アメリカ

 13歳でエイス・グレード(8年生)のケイラ・デイは、ユーチューブに「私みたいな子に送る人生の秘訣」のタイトルで幾つもの動画を投稿している。彼女は学校で無口と思われていること、でも友達のように話し掛けてくれれば面白い子だと分かってもらえることを語った。動画の視聴回数は、全く増えていなかった。
 8年生の最後の1週間になり、ケイラが通うマイルズ・グローヴ中学では教師のローチが各最優秀賞を発表した。 ケイラは無口賞に選ばれ、すっかり落ち込んだ。

 6年生の時に埋めたタイムカプセルが生徒たちに返却され、ケイラの箱には「世界一クールな女の子へ」と書かれていた。ステキな瞳賞に選ばれたケネディーが写真撮影に向かう時、ケイラは「良かったね」と小声で言うが無視された。ケネディーと一緒に選ばれたエイデンに、ケイラは心を奪われていた。
 学校を出たケイラは、ケネディーの母のグレイヴス夫人に話し掛けられた。彼女はケイラの父のマークに募金で世話になっていることを語り、ケネディーの誕生日祝いのプールパーティーに招待する。ケイラはケネディーが歓迎していないことに気付き、「もし行けたら。でも、たぶん無理」と答えた。

 夕食の時、ケイラはイヤホンを付けてスマホの動画に夢中だった。マークが話し掛けても、彼女は適当に相槌を打つだけだった。マークがグレイヴス夫人からメールが来たことを話すと、ケイラは「ケネディーは私を嫌ってる」とパーティーに行く気が無いことを告げた。もう少し社交的になるようマークが諭すと、ケイラは疎ましそうに拒絶した。
 自室に戻った彼女の元には、ケネディーから「ママに言われたから誘う」とメールが届いた。ケイラはエイデンの動画を見ながら、キスをする妄想を膨らませて自分の拳で練習する。マークが部屋に来たのでケイラは咄嗟にスマホを投げてしまい、画面に大きなヒビが入った。

 翌日、ケイラはプールパーティーに参加するが、緊張して誰にも話し掛けられなかった。そこへ冴えないタイプの男子が現れ、「潜水で回り切った」と自慢した。彼はケネディーの従兄のゲイブで、逆立ちを披露しようとするが失敗した。
 集合写真を撮影した後、プレゼントを渡す時間になった。ケイラはカードゲームを用意したが、ケネディーは全く喜ばなかった。耐え切れなくなったケイラはマークに電話を掛け、「もうパーティーは終わった。早く迎えに来て」と告げた。そこへエイデンが来て「みんな向こうにいるよ」と言うと、ケイラは勇気を振り絞ってカラオケに参加した。

 翌日、ケイラは学校でケネディーに声を掛け、お礼の手紙を渡した。防犯訓練の最中、ケイラがエイデンを見つめていると、クラスメイトが「ゲス男よ。裸の写真を送らない子を捨てた」と教える。ケイラはエイデンに話し掛け、「彼氏が出来た時のために自分のエッチ画像を溜めてる」と嘘をついた。エイデンから「フェラは出来る?」と訊かれた彼女は、得意だと告げた。
 帰宅したケイラはネットでフェラの情報を調べ、バナナを使って練習しようとする。そこへマークが来たので彼女は慌てて誤魔化すが、「バナナは嫌いだろ?」と言われる。ケイラは「好きになった」と嘘をついて食べようとするが吐き出してしまい、マークに逆ギレした。

 次の日、ケイラは高校の体験入学へ行き、在校生のオリヴィアとペアを組んで案内してもらった。彼女はオリヴィアから親切にしてもらい、すっかり嬉しくなった。ケイラは帰宅してからお礼の電話を掛け、話を聞いてもらった。
 「友達とモールに行くの。良かったら来ない?」とオリヴィアに誘われ、ケイラは快諾した。彼女はマークに許可を貰い、車でモールへ送ってもらった。ケイラはフードコートへ行き、オリヴィアから友人のライリー、トレヴァー、アナイヤを紹介された。

 ケイラはオリヴィアたちの会話を聞くが、なかなか口を挟めなかった。トレヴァーが「4歳も離れていると話が合わないんじゃないか」と言うと、オリヴィアは軽くたしなめた。アナイヤが「キモい男が見てる」と言うのでケイラが視線を向けると、マークが隠れるように監視していた。
 ケイラは「忘れ物をした」と嘘をついてフードコートを離れ、父の元へ赴いた。マークが謝罪して「迎えに来るから、メールをくれ」と告げると、彼女は「友達に頼む」と拒否した。

 ケイラはライリーの車で、オリヴィアと共に送ってもらう。先にオリヴィアが下りた後、ライリーは車を停めてケイラの隣に移動した。彼は「真実か挑戦か」ゲームを持ち掛け、性体験について質問する。「キスは1塁」と彼が例を出すと、ケイラは「2塁」と嘘をついた。彼は挑戦を宣言し、Tシャツを脱いで上半身裸になった。
 ケイラが挑戦を選ぶと、ライリーはTシャツを脱ぐよう要求した。ケイラが嫌がると、彼は途端に不機嫌になった。ケイラが謝ると、彼は「高校に入ったらナンパされてヤルけど、その時に未経験だと笑い者になる。君のために手を貸そうと思った」と語った…。

 脚本&監督はボー・バーナム、製作はスコット・ルーディン&イーライ・ブッシュ&リラ・ヤコブ&クリストファー・ストーラー、製作総指揮はジャミン・オブライエン、製作協力はトム・イシヅカ、撮影はアンドリュー・ウィード、美術はサム・リセンコ、編集はジェニファー・リリー、衣装はミッチェル・トラヴァース、音楽はアンナ・メレディス、音楽監修はジョー・ラッジ。

 出演はエルシー・フィッシャー、ジョシュ・ハミルトン、エミリー・ロビンソン、ジェイク・ライアン、ダニエル・ゾルガードリ、フレッド・ヘッチンガー、イマニ・ルイス、ルーク・プラエル、キャサリン・オリヴィエ、ノーラ・マリンズ、ジェラルド・W・ジョーンズ、ミッシー・イェーガー、サッシャ・テミロフ、グレッグ・クロウ、トーマス・ジョン・オライリー、フランク・ディール、J・タッカー・スミス、ティファニー・スミス、デヴィッド・シー、トリニティー・ゴシンスキー=リンチ、ナタリー・カーター、ケヴィン・R・フリー、キース・モーリス・デイヴィス、デボラ・アンガー、ウィリアム・アレクサンダー・ウンシュ、マーガレット・スティンプソン他。

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 撮影当時は27歳だった元ユーチューバーでコメディアンのボー・バーナムが映画初監督&脚本を務めた作品。製作費は2億円で初週は4館公開だったが口コミで評判が広まり、4週目には1084館まで上映館が拡大した。ニューヨーク映画批評家協会賞新人監督賞、全米脚本家組合賞脚本賞、放送映画批評家協会賞新人俳優賞など、数々の映画賞を受賞した。
 ケイラを演じたのは『怪盗グルー』シリーズでアグネスの声を担当していたエルシー・フィッシャーで、これが初主演。マークをジョシュ・ハミルトン、オリヴィアをエミリー・ロビンソン、ゲイブをジェイク・ライアン、ライリーをダニエル・ゾルガードリ、トレヴァーをフレッド・ヘッチンガー、アナイヤをイマニ・ルイス、エイデンをルーク・プラエル、ケネディーをキャサリン・オリヴィエが演じている。

 ここ最近、アメリカのZ世代の青春映画の作り手や受け手から、ジョン・ヒューズ監督の映画に関するコメントが多く出るようになっている。たぶん、モリー・リングウォルドの発言が引き金ではないかと思う。
 ジョン・ヒューズ監督作品に対して「自分の年代では面白さが分からない」とか、「当時の感覚が無いから楽しめない」とか、そんな風に思うのは自由だ。ただ、批判するようなコメントを出すのは、どうかと思う。その当時に青春を過ごし、ジョン・ヒューズ作品を楽しんでいた「かつての若者」も大勢いるわけで。
 古い物をなんでもかんでも安易に「エモい」と言うのも違うとは思うけど、非難するのもどうなのかと。ジョン・ヒューズが出演者に酷い仕打ちをしていたわけでもなければ、デートレイプを推奨していたわけでもないんだからさ。ここ最近のアメリカで蔓延している、歪んだ反アメリカ思想に通じる感覚を覚えてしまうなあ。

 それはとかもく、Z世代の人間にとって、ユーチューブは特別な道具ではない、生まれた時から当たり前のように存在していた、身の回りにある道具だ。だから古い人間がテレビを見たりラジオを聴いたりするのと同じような感覚で、日記を書いたり電話を掛けたりするのも同じような感覚で、ユーチューブを利用する。
 単に視聴するだけでなく、動画をアップするのも、そんなに特別なことではない。承認欲求はあるが、世界中で有名な大人気ユーチューバーになりたい願望があるわけではない。実生活で友達がいないので、ネットの世界で自分を認めてくれる相手が欲しい、誰かと繋がりを持ちたいと思っているのだ。

 ケイラは動画撮影で、「無口だと思われているが、向こうから友達のように話し掛けてくれれば面白いことは分かってもらえる」と話す。しかし実際の彼女は、決して面白い人間とは言えない。イケてない女の子で、地味で目立たない。
 イジメを受けるようなことは無いものの、ほぼ存在を認識されていない。これといった才能も無く、明るさや活発さに欠けている。友達は1人もいない。学校の楽団の練習では、シンバルを1度鳴らすだけの役目だ。

 ケイラは自分らしくありたいとは思うが、今のままで簡単に友達が作れるとは思っていない。だから何かを変えたいとは思っているけど、なかなか踏み出せずにいる。人付き合いが下手で不器用で、それでも一歩踏み出して変わりたい、本当の自分を分かってほしいと思っている。
 ユーチューブで視聴者にアドバイスする内容は、実質的には自分に言い聞かせているようなモノだ。しかし実のところ、みんなが思っている「地味で陰気なケイラ」こそが、本当のケイラなのだ。

 ケイラはプール・パーティーでカラオケに参加しただけで、すっかりクールになったと感じる。クールな女子として喋る練習をしてから、ケネディーに話し掛ける。彼女に手紙を渡せただけで、すっかり嬉しくなる。
 それはケイラの柄に合わないことであり、自分に無理をしてクールになろうとしているだけだ。でもケイラにとってケネディーはクールの象徴のような存在なので、少しでも近付きたいのだ。まだ未熟で見ている世界が狭いので、愚かしい過ちがあっても、簡単には気付かないのだ。

 ケイラがエイデンへに惚れるのも、まさに「クールに憧れる未熟さ」から来ている。クラスメイトが「裸の写真を送らない子を捨てたゲスな男」と教えているのに、全く恋心は揺るがない。それどころか、その情報を利用して、エイデンに気に入ってもらおうと考える。
 自分がエッチな女の子だと装い、フェラが何かも知らずに得意だと嘘をつく。フェラが何なのかを知っても全く動じず、練習してエイデンに気に入ってもらおうとする。彼の恋人になれば、自分もクールなグループの仲間入りが出来ると思っているのだ。

 中学生のケイラからすると、オリヴィアは4歳も年上の高校生というだけでもクールな存在だ。しかも優しくしてもらったので、まるでクールな姉が出来たような感覚になる。
 背伸びしたい年頃なので、オリヴィアと友人たちの輪に入れてもらっただけでも、自分も少し大人になったような気分にさせられる。学校では友達が1人もいないケイラにとって、イケてるグループちと仲良くしてもらうことは、とても大きな価値を持った出来事だ。

 オリヴィアはホントに親切な年上女性だったが、ケイラに近付く誰もが優しいだけの善人ではない。ライリーなどは、分かりやすいクズ男になっている。先に自分がTシャツを脱いで環境を整えておいて、ケイラにもTシャツを脱がせようと目論む。
 もちろん服を脱がせるだけで終わらせる気など無く、セックスに持ち込もうと企んでいる。この策略に失敗すると、それまで穏やかだった彼は、途端に不機嫌になる。そして「君のためだった。手を貸そうとした」と、下手すぎる嘘をつく。どこまでもカッコ悪い男だ。

 終盤、ライリーの行動にショックを受けたケイラはユーチューバー活動の終了を決め、「私は助言できるような人間じゃない。私自身が何も出来ない。ウジウジしていて、いつも緊張する」と漏らす。オンでもオフでも、すっかり前向きな気持ちや自信を失ってしまう。そんな彼女が頼るのは、それまで疎んじていたマークだ。
 そもそもケイラはマークに反発していたものの、決して心から嫌っていたわけではない。ただ、早く大人になりたい彼女にとって、いつまでも子供扱いして干渉したがる父が疎ましかっただけだ。しかし信じていた年上の人間に裏切られた時、ケイラが頼れるのは身内であるマークだ。そしてマークは、そっと優しくケイラに寄り添い、無償の愛を注ぐ。これは、Z世代の青春映画というだけでなく、現代の親子関係を描く作品でもあるのだ。

 ケイラの「私、悲しませた?」という問い掛けに、マークは「お前はどれだけパパを幸せにしているか分かってない。お前の父親でいることが、とんでもなく幸せだよ」と優しく告げる。この言葉にケイラは救われ、父に抱き付く。
 インターネットで世界中の人と繋がることが当たり前になったZ世代の子供たちだが、多かれ少なかれ孤独を抱えている。そんな子供たちにとって、対面して直接的に語り掛けてくれる本当の言葉が、どれだけ心の救いになってくれることか。
 最終的にケイラは、無理に背伸びせず、自分のペースで進んで行こうと考えるようになる。次に何が起きるかわからないけど、きっと楽しいことも多いはず。自分がクールじゃないと思っている女の子に、勇気を与えてくれる作品だ。

(観賞日:2021年11月21日)

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