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『痴漢通勤バス』:1985、日本

 バスガイドの高橋マコは乗客に痴漢され、戸惑いながらも喘ぎ声を発してしまった。その夜、バス会社の営業所長を務める熊田は乗客の少なさを嘆き、「どうにかしなきゃ、このままじゃ会社が倒産してしまう」と漏らす。彼は経理係として働く安子の体を弄び、喘ぎ声を発する彼女とセックスした。
 上京した元刑事の薩摩平八は競馬場へ行き、17年前に起きた事件の犯人である俊藤喜一を発見する。3年前から待ち続けていた喜一を捕まえようとする平八だが、逃げられたので慌てて追い掛けた。

 熊田はバスガイドと運転手に、人民バス公社からの研修生である張郎平を紹介する。それから彼は、会社が倒産の危機にあること、経営再建のために風俗業として「おさわりバス」を始めることを話す。
 運賃にサービス料を加え、指名料はバスガイドに全て還元するという説明に、バスガイドたちは激しく抗議する。しかし「月給百万円は固いと思いますが」と言われると、やる気になった。喜一は平八の追跡を撒くため、停留所を出るバスに飛び乗った。それはおさわりバスで、マコと郎平が男性客に性的なサービスを施していた。

 マコは喜一を座席に座らせると、チンコをしごいてオッパイを触らせた。平八は車内の様子など全く知らず、タクシーで後を追う。するとタクシー運転手の山崎文治は、「アンタ、ひょっとして捜査一家の薩摩刑事じゃ?」と口にした。彼は17年前の事件で現金輸送車を運転していたのだ。
 平八は3年前に刑事を辞職したこと、喜一を追っていることを彼に話す。2人が17年前の昭和43年に関わったのは、あの三億円事件だった。

 バスが停留所に到着して乗客たちが降りて来る中、喜一は心臓発作を起こして倒れてしまう。マコが慌てて駆け寄ると、彼は「鞄の中にビデオテープが」と口にする。マコが鞄を開けてビデオテープを確認すると、喜一は「息子に渡してくれ」と言う。
 彼は息子である秋夫の写真をマコに渡し、「他の者には渡しちゃいかん」と告げて息を引き取った。異変に気付いて駆け付けた平八は喜一の死を知り、文治に三億円を横取りする目論みを明かした。

 仕事を終えた郎平は運転手から「一発だけやらせて」と頼まれ、2万円の報酬で承諾した。マコが営業所を去ると、平八と文治が尾行した。マコは女子寮に戻り、ビデオテープの映像を確認した。すると喜一がカメラに向かい、家出した秋夫に「全ての財産を渡すが、手に入れるためには頭を使ってもらわなくちゃならない」と話し掛けた。
 平八と文治がブレーカーを落としたので、マコの部屋は停電になる。しかし彼らより先に、郎平がマコの部屋へやって来た。落雷を怖がった郎平はマコに抱き付いてオッパイを揉み、2人は服を脱いで体を重ねる。平八と文治は当初の目的を忘れ、部屋を覗いて興奮した。

 翌日、おさわりバスで仕事をしていたマコは、乗客の中にいた秋夫に気付いた。その夜、平八と文治はマコの部屋に侵入し、喜一のビデオテープを盗み出そうとする。しかし何本もビデオテープがあるので、どれなのか分からない。
 マコが秋夫を連れて戻って来たので、2人は全てのビデオテープを持って窓から逃亡した。部屋が荒らされているのを見たマコは、泥棒に入られたことに気付く。しかし喜一のビデオテープはデッキに入れたままだったため、盗まれていなかった。

 マコと秋夫がテープの内容を確認すると、喜一は「このテープに三億円の隠し場所の鍵が隠されている。良く見るんだ」と語る。映像が切り替わると、秋夫が4歳の頃に死んだ母親、そして彼女の好きだったマーガレットが写し出された。最後に写し出されたのは、どこかの景色だった。秋夫には見覚えがあったが、「東京のどこか」としか分からなかった。
 次の日、平八と文治は郎平を追って電車に乗り込み、彼女に痴漢を働いた。2人は郎平を人質に取り、マコに電話を掛けてビデオテープとの交換を要求した。

 マコは入船団地から晴海埠頭へ向かうバスに乗るよう要求され、指示に従った。彼女が乗り込んだ客のいないバスは、文治が運転手を務めていた。発進したバスの座席に隠れていた平八は姿を現し、「ビデオテープが本物だったら後輩は返してやる」とマコに告げた。
 マコがテープを渡すと、平八は持参したデッキで本物だと確認した。平八は郎平が女子寮へ戻っていることを話し、マコに拳銃を突き付けて座らせた。マコが怯えながら座ると、平八は彼女の陰部を弄んだ…。

 監督は滝田洋二郎、脚本は高木功、企画は奥村幸士、撮影は志賀葉一、照明は吉角荘介、編集は酒井正次、助監督は佐藤寿保、録音は銀座サウンド、挿入曲『ダンシング・レディ』は滝川真子。

 出演は滝川真子、中根徹、螢雪次朗、星野マリ、姫川京子、彰佳響子、姫川艶、吉沢栄子、池島ゆたか、ルパン鈴木、笠松夢路。

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 滝田洋二郎が獅子プロダクション時代に手掛けたピンク映画。脚本は「痴漢電車」シリーズなどで滝田洋二郎と何度も組んだ盟友の高木功。2人のコンビ作である『痴漢保険室』で映画デビューした滝川真子が、ヒロインのマコを演じている。
 平八を螢雪次朗、喜一&秋夫を中根徹、郎平を星野マリ、安子を京子、文治を池島ゆたか、熊田をコントグループ「螢雪次朗一座」で螢雪次朗の相方だったルパン鈴木、バスの運転手を笠松夢路が演じている。

 滝田洋二郎は1981年から、獅子プロの監督としてピンク映画を何本も手掛けてきた。彼は1982年の『痴漢電車 もっと続けて』から始まる「痴漢電車」シリーズをヒットさせ、ピンク映画界での評価と知名度をアップさせていった。
 そんな彼にとって、1984年に大きな変化があった。それまでの作品は新東宝の配給だったが、『痴漢保険室』が日活ロマンポルノとして公開されたのだ。日活としては、滝田洋二郎が「客を呼べる監督」という判断に至ったのだろう。

 その後、『桃色身体検査』に続き、本作品も日活ロマンポルノとして配給された。ただし、あくまでも「買い取り」作品であって、日活が製作したわけではない。
 当時の日活は、外部から人材をヘッドハントすることもあったが、それだけでなく独立プロのピンク映画を買い取って「ロマンポルノ」として配給するケースもあった。日活製作のロマンポルノならスタジオが使えるし、ピンク映画に比べれば予算も潤沢だ。しかし本作品は「買い取り」なので、「痴漢電車」シリーズと予算的には変わらない状態だったようだ。

 ただし、買い取り作品であるものの、ヒロインは日活ロマンポルノ女優である滝川真子が務めている。つまり『痴漢保険室』にしろ、本作品にしろ、「日活がヒロインだけを獅子プロに預けて、製作を下請けに出した」という形ってことだ。
 ちなみに、この次に滝田洋二郎が監督を務めた「痴漢電車」シリーズ最終作『あと奥まで1cm』が、新東宝で配給された最後の作品となる。以降は、成人映画へ転向するまでの全てのピンク映画が日活から配給された。 

 たぶん日活サイドから「痴漢電車」シリーズっぽいモノを作ってほしいというリクエストがあって、「じゃあ電車の代わりにバスで」ということになったんじゃないかと推測される。ただし「痴漢OKのバスを運行させる」という風に、痴漢がメインとして話が進むのは、「痴漢電車」シリーズと異なっている。
 でも、それは前半だけで、やがて痴漢とは全く関係の無い方向へ物語が転がって行く。滝田洋二郎&高木功のコンビにとって「痴漢」ってのは、あくまでもピンク映画の条件を満たすための要素に過ぎず、それ以外の部分で面白いことをやろうという意識が強かったのだ。

 熊田は「このままじゃ会社が倒産する。何とかしなきゃ」と言っているので、翌朝の朝礼で解決策を離すのかと思いきや、いきなり中国からの研修生が登場する。
 彼女は分かりやすい中華服を着ており、「よろしくするアルよ」と言い、「いかにも誇張された中国人キャラ」のように両手を組み、ドラが鳴るという演出になっている。「張郎平」ってのは全く女性らしくない名前だが、もしかすると「いかにも中国人っぽい女性名」が思い付かなかったのかねえ。

 っていうか、もっと根本的なことを言うと、「唐突に中国人キャラを登場させる意味って何なのか」ってことではあるんだよな。前述したように、「会社が倒産の危機にある」というトコから始まっているわけだから、「それを解決するための方法を取る」という流れになっていくわけで。その中で、「中国からの研修生が来る」ってのは、まるで馴染んでいない要素なのよね。

 ピンク映画だから、のっけからエロいシーンを入れたいってのは分かる。ただ、冒頭で「マコが乗客に痴漢されて感じる」というシーンを入れてしまうと、「熊田がおさわりバスを発案し、マコたちが乗り気になる」という展開への流れが良くない。
 おさわりバスをスタートさせることで、初めてバスガイドが乗客から痴漢される形にしておいた方がスムーズだ。マコの前に女性客が痴漢されているシーンが描写されているので、それだけで充分だし。もしくは、「マコから痴漢被害を報告され熊田が、おさわりバスを着想する」という流れなら、マコが痴漢されるシーンも活きてくるだろう。

 「痴漢電車」シリーズで張作霖事件やロス疑惑といった実際の事件を取り込んで来た滝田洋二郎&高木功だが、今回は三億円事件をネタに使っている。途中でモノクロの回想シーンを挿入し、「白バイ警官に化けた犯人が輸送車の面々を騙して煙幕を噴射させ、ダイナマイトが爆発すると騒いで避難させ、車を奪って逃走する」というシーンも描いている。
 ぶっちゃけ、「三億円事件」というだけで詳しい説明は無くても大丈夫なんだけど、そこは丁寧にやっているのね。

 ただ、「どうして喜一が犯人と分かったのか」という根拠については、平八が「執念かな」と口にして、犯人が逃走用に使ったカローラの中に競馬新聞が落ちていたことを話すだけ。つまり、「だから競馬場に現れるに違いないと睨み、3年間も張り込み続けていたら彼が姿を見せた」ってことらしい。
 いやあ、なかなか無理がありますなあ。むしろ事件発生当時の様子を描くよりも、「喜一が犯人と突き止めた証拠」の部分に説得力を持たせた方がいいと思うけど。

 おさわりバスの運行2日目のシーンでは、普通に女性客も乗っている。そして、男性客がその女性に痴漢を働くシーンもある。普通に考えれば不自然なのだが、そもそも「おさわりバス」自体に無理があるんだから、そこでマトモな感覚を働かせてツッコミを入れても意味が無い。
 「エロいシーンを入れる」ってのがピンク映画で果たすべき条件であり、その中で「滝川真子と星野マリ以外の女優でも痴漢のシーンを入れたい」ってことになれば、おのずと「女性客が痴漢される」という形を取ることになるわけよ。エロのためなら通らぬ筋も平気で通す、それがピンク映画の神髄なのだ。

 わざわざ説明するまでもないことだが、喜一が心臓発作で死亡した時点で、もはや「痴漢通勤バス」の意味は完全に崩壊している。それとは全く関連性の無い所で、物語は進んでいく。翌日も一応、おさわりバスが運行している様子は描かれる。そして「マコが秋夫と遭遇する」という要素で、おさわりバスの意味を持たせようとしている。
 でも実際は意味なんて死んでいる。それ以降は、もうバスが運行している様子さえ登場しない。その一方、平八と文治が電車で郎平に痴漢を働くシーンが用意されていたりする。もはや「痴漢電車」シリーズになっちゃってるぞ。せめてバスは使おうぜ。

 三億円事件は持ち込んでいるが、「犯人は誰なのか、どういう手口だったのか」といった部分でミステリーの面白さを出そうとしているわけではない。ただし「三億円の隠し場所はどこなのか」という部分で、ビデオテープに隠された手掛かりから突き止めなきゃいけないという展開がある。
 滝田洋二郎監督はミステリー好きであり、「痴漢電車」シリーズでも黒田一平シリーズでミステリーの要素を持ち込んでいたので、今回もそこを重視するんだろうと思っていたら、意外なアプローチが終盤に用意されていた。

 終盤、平八と文治は郎平を誘拐し、バスに乗るようマコを脅す。おさわりバスじゃないから「通勤痴漢バス」に繋げているわけではないが、バスに乗せた理由は別の部分にあった。平八が怯えるマコの体を弄ぼうとしていると、秋夫がバイクで追い掛けて来る。
 マコは隙を見て平八の頭を殴り付け、ビデオテープを秋夫に渡そうとする。しかし文治がハンドルを切って阻止し、平八が拳銃を発砲する。非常口を開けたマコは、別のバイカーの後部座席を踏み台に使い、秋夫のバイクに飛び移る。ハンドルを切り損ねたバスは、埠頭から海へ落下する。
 つまり、この映画は終盤にアクションシーンの見せ場を用意しているのだ。しかも、バスの落下シーンに関してはショッパイけど、そこまでのアクションは一般映画と比較しても充分なほどのクオリティーがある。特にマコがバスからバイクに飛び移るシーンなんて、本物のスタント・アクションだ。

 三億円の隠し場所が判明しなきゃ話が終わらないので、ミステリーの要素がゼロってことではない。アクションシーンが終わった後、その解決篇が用意されている。「テープを良く見るんだぞ」という言葉を思い出したマコがフィルム部分をテープから取り出すと、そこに文字が印刷されている。
 「アキオ ゲンキカ・・・オハカマイリ イッテルカ」という文字で、秋夫は母親の墓へマコを連れて行き、墓石を動かして隠されていた三億円を発見する。ただ、「痴漢電車」シリーズと同様、謎解きの醍醐味は無い。その前のピンク映画らしからぬアクションが、この作品のピークだ。
 ちなみに最後は、古い紙幣を偽札だと思い込んだ郎平が三億円を全て燃やしてしまい、何も知らないマコと秋夫がベランダで楽しく話すシーンで終わっている。「痴漢電車」シリーズと同様、ヒロインが大金を手に入れてハッピーエンドってことは無いのである。

 なお、この映画はピンク映画では珍しく、挿入歌が使われている。獅子プロのピンク映画では考えられないことだが、日活の買い取りであり、人気ロマンポルノ女優の滝川真子が主演ってことで、主題歌が起用されたのだろう。
 そんな滝川真子の歌う挿入歌『ダンシング・レディー』は、三億円を見つけた2人がバイクで疾走するシーンからセックスを始めるシーンまで使われる。どうでもいい情報だが、この曲の12インチシングルレコードは『浮気なバーディーボーイ』と2曲がA面で、B面は『最後のティッシュ・タイム』というラジオ番組のDJに扮した彼女がエロいことを喋る内容になっていた。

(観賞日:2016年5月10日)

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