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『痴漢電車 極秘本番』:1984、日本

 慶長二十年、大坂城。真田幸村に呼ばれた忍者の猿飛佐助は、「大坂城はこの夏、落ちる。冬の陣は何とか持ち堪えたが、もはや豊臣家の命運は尽きた」と告げられる。「討死なさるおつもりですか」という問い掛けに幸村は頷き、豊臣家の財宝を守り通すよう命じた。そして、時が来れば兵を整え、天下を取るよう促す。
 彼は江戸に移した埋蔵金の在り処を示す暗号文を佐助に渡し、密書の半分は霧隠才蔵に託してあることを教えた。幸村は「その密書、服部半蔵の手に渡してはならぬぞ」と告げ、江戸へ向かうよう佐助に命じた。

 城を出た佐助は、腹を押さえて苦しんでいる女と遭遇する。佐助が介抱しようと近付くと、いきなり女が襲い掛かった。女は半蔵配下のくノ一である陽炎だったのだ。2人が刀を抜いて激しく戦っていると、地震が発生した。
 佐助と陽炎は時間の割れ目に紛れ込み、現代の東京にタイムスリップしてしまった。佐助が意識を取り戻すと、満員電車の中にいた。密書を探して車内を移動した佐助は、女子大生の服部鳶子に「これじゃないの?」と渡されて礼を言う。佐助は彼女に欲情し、痴漢行為を働いた。

 新宿駅で下車した佐助は陽炎と遭遇し、戦いになった。駅から逃亡した佐助を追った陽炎は、開店したばかりのトルコ風呂『三浦屋』を見て「臭い」と口にする。店内に潜入した彼女は、大奥だと思い込んだ。
 人の声がしたので陽炎が隠れると、トルコ嬢の淀君が江口という若者の客を案内して部屋に入って来た。江口とセックスしていた淀君は、のぼせて気絶した陽炎に気付いた。一方、宿を探している佐助は鳶子と再会し、「旅籠を知らんかの?」と問い掛けた。

 鳶子は実家が旅館だと言うが、「その格好、何とかなんない?」と口にする。彼女は佐助を丸井に連れて行き、服を着替えさせた。佐助はクレジットカードを渡され、そこにある番号を「暗号か」と感じる。陽炎は淀君からセックスすれば金が貰えると聞き、しばらく三浦屋で働くことにした。
 鳶子の家でカレーを御馳走になった佐助は、世話になった礼として小判を渡した。鳶子は相手が本物の猿飛佐助だと知り、夏の陣で大坂城が落ちたこと、徳川家康が天下を統一したことを教えた。

 鳶子は東大で戦国時代の歴史を勉強しており、研究材料になってほしいと佐助に持ち掛けた。佐助は彼女に、暗号を解読すれば埋蔵金の在り処が分かることを教えた。陽炎は入店2日目にして、ナンバー1の売れっ子となった。
 しかしSMプレイで淀君に鞭打つヤクザを見た彼女は曲者と思い込み、「成敗してくれる」と斬り捨ててしまう。驚いた淀君から逃げるよう促され、陽炎は店を去った。電車に乗った彼女は、男から痴漢される。我に返った彼女が「何者じゃ」とジャンプして逃げると、男は「カッコイイ」と感嘆した。

 男は「芸能界に青春賭けてみない?」と言い、月給百万を約束された陽炎は快諾した。男は霧隠留蔵という名前で、霧隠芸能社という零細プロダクションの社長だった。文字の読めない佐助は鳶子に暗号の解読を要請し、彼女とセックスした。
 街へ繰り出した佐助は、映画館でポルノ映画を観賞した。陽炎は芸能社の事務所に飾られている掛け軸に目を留め、留蔵から「霧隠家に伝わる物で、命の次に大切な物よ」と聞かされる。掛け軸には「霧」という文字が幾つも書かれていたが、その意味は分からないのだと彼は話す。

 掛け軸を見ていた陽炎は、それが密書の片割れではないかと推理する。陽炎はテレビ出演が決定するが、女2人のペアでなければ困ると局の人間に言われた留蔵は人材を見つけることにした。彼は電車で痴漢を働いて女をスカウトするが、傍らにいた男に邪魔されてしまった。
 事務所に戻った留蔵は陽炎が29歳だと知り、「テレビでは17歳、堀越学園2年生でーすって言うのよ」と指示した。彼は「明日に備えて体を綺麗にしましょう」と告げ、陽炎とセックスした。

 鳶子は暗号の解読に取り組みながら公園を歩いている最中、男2人が将棋を指している様子を目撃した。すぐに彼女は将棋盤の桝目が鍵だと気付き、密書の数字を当てはめた表を作成する。しかし数字を「いろは」の言葉に変換したものの、意味不明な文字列になってしまった。
 鳶子は「もう1つ暗号があって、2つを組み合わせた時に初めて埋蔵金の隠し場所を示す文章になるのかも」と語り、佐助は雪村が「霧隠才歳に密書の半分を渡した」と言っていたことを思い出した。

 その夜、鳶子は佐助に、自分が服部半蔵の子孫であることを打ち明ける。「もしかすると佐助さんに嫌われたくなかったのかもしれない」と鳶子が恋心を吐露すると、佐助は彼女を受け入れてセックスした。翌日、電車に乗っていた鳶子は留蔵に痴漢され、「スターになる気ない?」とスカウトされる。彼が霧隠という苗字だと知り、鳶子は事務所へ赴いた。
 掛け軸を見た鳶子は留蔵が霧隠才歳の子孫だと知り、大喜びした。留蔵は陽炎と鳶子に「お忍びシスターズ」というグループ名を付け、忍者装束でテレビの歌番組に出演させる…。

 監督は滝田洋二郎、企画 制作は伊能龍(向井寛)、脚本は高木功、撮影は倉本和人(倉本和比人)、照明は石部肇、助監督は佐藤寿保、録音は銀座サウンド、協力はトルコ三浦屋吉原店、音楽は恵応泉。

 出演は竹村祐佳、螢雪次朗、真堂ありさ、青木祐子、池島ゆたか、外波山文明、荒木太郎、江口高信、五味慶太、高円寺誠、本橋真美、周知安(片岡修二)、弁天太郎、工藤一平、幡寿一(佐藤寿保)、江戸川乱。

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 滝田洋二郎監督が獅子プロダクション時代に手掛けた痴漢電車シリーズの第8作。脚本はシリーズ1作目から組んでいる盟友の高木功。竹村祐佳と螢雪次朗は3作目からのレギュラー出演者だが、今回は「黒田一平」シリーズではないので役柄が異なる。
 陽炎を竹村祐佳、鳶子を真堂ありさ、佐助を螢雪次朗、淀君を青木祐子、留蔵を池島ゆたか、徳川家康を外波山文明、茶坊主を荒木太郎、江口を江口高信、留蔵に電車で痴漢される女性を本橋真美、テレビ番組の司会者を周知安(片岡修二)が演じている。

 前作まで続いて黒田一平シリーズは探偵物だったので、密室トリックやダイイング・メッセージといった要素を持ち込んでいた。そんなシリーズを終わらせた滝田洋二郎&高木功のコンビが本作品で持ち込んだのは、タイムスリップという要素だった。そして、それをSFスラップスティック・コメディーとして仕上げている。
 高木功という人は38歳の若さで亡くなってしまったが、製作期間の短いピンク映画業界で様々なことに挑戦した脚本家だったのだ。滝田洋二郎はピンク映画での活躍が評価されて一般映画に進出するが、その裏には間違いなく高木功の貢献があったと言えよう。

 単にタイムスリップを取り込んでいるだけでなく、そこに史実を絡めて歴史上の人物を登場させている。シリーズ第6作『下着検札』では張作霖事件を使っていたが、何かしらの事実や実在の人物を絡めることで観客の興味を引き付けやすくしようという狙いがあったのかもしれない。
 実際、この映画にしても、「戦国時代にいた架空の人物」としてキャラクターが登場するよりも、猿飛佐助や霧隠才歳といった有名な人物が登場した方が、遥かに食い付きやすいしね。架空の人物が現代にタイムスリップして痴漢したりセックスしたりするよりは、そりゃあ猿飛佐助が痴漢したりセックスしたりする方が面白いに決まってるわな。
 そういう意味ではヒロインも有名な人物の方が良かったとは思うけど、知名度の高いくノ一なんて見当たらないし、そこを姫君にすると話が作りにくいし、色々と難しいかな。

 もちろん低予算なのでチープではあるが、「一瞬にして佐助が城に出現したり姿を消したりする」という特撮や、佐助と陽炎が高い木の上にジャンプするというアクションなどが導入部から用意されている。で、タイムスリップした途端、佐助は電車で痴漢を働く。
 かなり唐突で何の脈絡も無い展開だが、そこに文句を言い出したら何も出来なくなってしまう。何しろ、このシリーズって「痴漢電車」と付いているにも関わらず、「電車内で痴漢を働く」という行為に直結しない内容ばかりなのだ。それでもタイトルに合わせるためには「主人公が電車で痴漢を働く」というシーンを盛り込む必要があるので、そこの強引さには目をつぶっておこう。
 ちなみに、このシーンは許可を取らないゲリラ撮影だったようで、佐助に話し掛けられた乗客がホントに困惑している様子をカメラが捉えている。

 続く新宿駅での撮影も同様にゲリラ撮影だったようで(っていうかピンク映画の撮影を許可してくれる鉄道会社なんて無かっただろうから、基本的には全て無許可の撮影なんだろう)、佐助と陽炎が戦う様子を困惑しながら見学する人々の様子が写っている。
 で、佐助は逃げる途中でぶつかった男を「無礼者」と斬り捨てるんだけど、簡単に人を殺させるのはマズいだろ。現代人と絡むことでタイム・パラドックスが云々とか、そんな細かいことは気にしないけど、殺人行為は喜劇として受け入れられないなあ。陽炎がSMプレイの客を殺害するのも同様で、そういうのは笑えないのよね。

 忍者装束の陽炎を見た留蔵は、「テクノだねえ」と口にする。テクノが流行していた時代ではあるが、でも陽炎の格好は全くテクノではない。流行を積極的に取り入れるのは大いに結構だが、さすがに無理があり過ぎるだろ。
 ちなみに彼は痴漢を働く際、バイブレーターを使用している。これまでのシリーズでの痴漢は全て素手オンリーだったが、バイブを使うのは新しい試みだ。まあ、「だから何なのか」と言われたら、返す言葉も無いんだけどね。

 街に繰り出した佐助がポルノ映画館へ赴くと、『セックス・ルーム/異常快楽』と『腫れた果肉』という洋ピンの二本立て興行をやっている(その2本のポスターが貼ってある)。しかし佐助が映画館に入ると、実際にスクリーンで流されるのは『痴漢電車 百恵のお尻』の1シーン。
 で、佐助がオナニーしていると画面に螢雪次朗(もしかすると黒田一平としての彼なのかな)が現れ、「お前だよ、そんなトコでマスかいてんじゃねえよ。他のお客さんに迷惑だよ」と注意するというネタがある。

 「今回は探偵物じゃない」と前述したが、「暗号文の解読」というミステリーの要素が持ち込まれている。ただし、「2つの数字を組み合わせて1つの文字を示している。将棋盤のマス目に合わせて“いろは”の表を作り、それと暗号文の数字を照らし合わせると1つの文章になる」と言われても、あらかじめ観客に与えられた手掛かりは皆無に等しい。
 なので、黒田一平シリーズと同じく、謎解きの醍醐味を味わうことは難しい。ただ、とりあえず滝田洋二郎&高木功のコンビがミステリー好きってことは良く分かる。

 鳶子は佐助に服部半蔵の子孫であることを打ち明け、恋心をぶつける。最初は「拙者のことは忘れて下され。我らは結ばれぬ定めじゃ」と告げた佐助だが、「イヤ。別れるぐらいなら、死ねと言って下さい」と鳶子が情熱的に告げると、佐助は彼女に接吻してセックスに及ぶ。
 このシーンをキッチリと機能させたいのであれば、ホントは「そこが初めてのセックス」にしておくべきだろう。しかし実際には、その前にも2人のセックスシーンが用意されている。まあピンク映画なので、そこは「話としての流れ」よりも「濡れ場のボリューム」を優先しなきゃいけないってことよね。
 翌日に鳶子が留蔵に痴漢されるシーンも、「佐助に対する本気の恋心」を示した直後ってことを考えれば、ホントは留蔵のテクニックに喘いだらマズいんだけど、「それよりもエロ」ってことよ。

 陽炎と鳶子は「お忍びシスターズ」としてテレビ出演し、歌を披露する。「熱い視線が絡み合ったら、白い火花がバチバチ心はメラメラ、燃えそう、燃えそう」という歌詞だが、メロディーは完全にピンクレディーの『サウスポー』である。
 っていうか伴奏も『サウスポー』を拝借しており、替え歌にしているだけだ。もちろん著作権なんて完全に無視して、勝手に使っている。こういうことが、当時は普通に罷り通っていたんだよなあ。ある意味では、いい時代だったわけだよ。

 さて、暗号文の解読だが、終盤に掛け軸を手に入れた鳶子が「これは暗号じゃなくて枠組みだったのよ」と口にする。49のマス目の中に「霧」の文字が13あり、霧が晴れれば全てが分かるという意味なのだと彼女は解説する。
 彼女は「霧」の文字を全て取り除いた枠組みを作り、佐助の密書を解読して導き出した文章に重ねる。すると「しなかわやしろおちそうした」となり、「品川・社・お地蔵・下」という場所が判明する。ピンク映画なのに本格的な暗号ミステリーを持ち込むんだから、そういうのがホントに好きなのね。

 とは言え、佐助が豊臣家の埋蔵金を手に入れたら、歴史が改変される恐れがある。っていうか、そのままだと佐助は元の時代に戻ることが出来ないので、埋蔵金を手に入れても物語としての着地が難しい。ベタに考えれば、「また地震が発生して元の時代に戻る」ってのが筋だ。
 そして本作品は、そのベタを使って佐助と陽炎と鳶子を戦国時代にタイムスリップさせる。そして「家康が3人から埋蔵金を奪い、大阪夏の陣で豊臣方を滅ぼして天下を統一する」という筋書きにして、歴史の改変を防ぐのでありました。

(観賞日:2016年4月27日)

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