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恐怖を感じた激辛料理

恐怖は刺客である。突然現れるのだから。

ある日、赤い看板の前で直立した。
 
食べられるか、私よ。

辛いのには弱くはないはずだ。

私なら完食出来るはずだ。
 
自問自答を店の前で繰り返す。
 
「入りますか?」後ろの人に言われた。
「は、はい。入ります。」入ってしまった。
 
ここは蒙古タンメンラーメン中本。
 
暑苦しい情熱の一杯と真剣勝負。
 
大人が汗水垂らす青春現場だ。
 
東日本における辛味麺の総本山。
 
関西人の敵地戦闘力が今試される。
 
友達が五目蒙古タンメンを
麻婆豆腐とライスで
チェイサーするのが
お勧めと言っていた。
 
訳が分からなかったが
五目蒙古タンメン・麻婆豆腐・ライス
のチケットを購入した。
 
お昼時の前に入ったので列は長くなかった。
 
ただ、カウンターの食べている人の
後ろで並ぶのは少し緊張感がある。
 
ラーメンを啜る音
 
店員さんの掛け声

大きな声でのご馳走様
 
妙な連帯感を感じてしまっていた。
 
カウンターの真ん中の席が空いて
遂に僕は椅子に着席した。
 
野菜を炒める音が心地良い。
 
僕はお店に入ると
店内を見渡す癖がある。
 
どんな人がいるのだろう。
 
やはり男性は多い。
 
当時の僕世代のメンズや
おじ様世代が大半だ。
 
右横にはダンディーな男爵が
ラーメンを掻っ込んでいた。

食べる姿は高校生のラガーマンだ。
 
勢いよくタンメンをずるりと吸い上げ
空を見上げる。高校生から大人の顔に。
 
蒙古タンメンを前にすれば
人は一瞬だけ童心に帰れるのだ。
 
左横には
 
僕より少し年齢が高そうな
お姉さんがいた。
 
群青日和のMVかよ。
 
熱気と汗を帯びながら
一杯に集中するお姿は
椎名林檎の面影があった。

ゲレンデマジックならぬ
タンメンマジックである。
 
あまりキョロキョロすると
怒られそうなので
店内観察を終えた。
 
熱々のタンメン・麻婆豆腐・ライスが着丼。
 
蓮華たっぷりに光るスープを一口。
 
肉味噌ってのは、やっぱ良い。
味噌のコクと肉の脂が噛み合って
濃・・・あい?
 
普通に辛いじゃないか。
 
胃袋が焼けてきているぞ。
 
頭皮の毛穴がガッ!と開門。
 
滴る冷たい汗。
 
脳内食レポをする余裕がなくなった。
 
ドロリとしたスープから麺を引き出す。
 
食す、美味辛い。汗ドバドバドバドバ。
 
こんな時のチェイサーね。
 
麻婆豆腐を掻っ込む。コクうまが広がる。
 
空を見上る。からすぎるじゃああ、ねえか。
 
水を流し込む。あは、ラッシーはないかい?

ライス君。完食出来そうなの君だけだわ。
 
箸を置く。
 
「ご馳走様でした。」
 
ダンディー男爵と椎名林檎は颯爽と帰っていった。
 
僕が箸を置いても、店内は回っていく。

誰かが座り、誰かが帰っていく。
 
僕は回転の輪についていけず
真ん中で体育座りをしている気分だ。
 
カウンターの後ろで待つ
挑戦者達の視線が刺さってくる。
 
「食べんの、遅いなあ。」
「残せばいいのに。」
「早よ、いね!」

突如周りの刺すような視線から
恐怖を感じ取ってしまった。

もう残そうかな。
 
「お残しは許しまへんで。」
 
忍たま乱太郎のおばちゃんの声が
20歳を過ぎて久しぶりに聴こえた。
 
僕は目を瞑り、心を整える。
 
これは早食い競争ではないのだ。
 
普段のラーメンのようにガツガツと
食することは出来ないが
ゆっくり啜って飲んでライス掻っ込んで。
 
美味しいのは知っていた。

辛味噌ベースのスープに絡んだ麺。

スープも辛くて飲み干せないけど
味噌汁のようにじっくり味わえる。

麻婆豆腐は舌に響く美味辛さがある。

右手を自動的にライスに向かわせる。
 
完食。ご馳走様でした!
 
保健室に行けば、早退出来そうなくらい
顔を真っ赤にして、平らげた。
 
挑戦者達の視線は気にならなくなっていた。

後ろを振り返る。
 
全員、スマホのスクリーンに夢中だ。
 
涙と汗を流せる時間はいつだって美しい。
 
残さなかった自身を褒めてやりたい。

艶やかなドヤ顔と少量のガッツポーズをして
 
赤い看板にさよならした。



↓ご紹介。


とらねこさんの文豪へのいざないに参加致しました。
お題は、「恐怖を感じた激辛料理。」でした。

たまに自身のラインを超えた
激辛料理に出会うことがあります。

その度に腹を壊す繊細な身体のようです。

蒙古タンメンも例外に漏れず、暫く寝込みました。

ただ、また食べたくなる中毒性は何なんでしょうか。

こんなふうに身体を傷つけながら
辛いものを体内に入れることで
細胞が進化してきている気がします。

辛いものが目に入れば、
頼んでみようぜ。
と細胞がそそのかしてきます。

書いていたら、スンドゥブ食べたくなってきました。

今週のお題のリンクと前回の投稿はこちらから!↓



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