恋と、嫉妬と、ないものねだり

誰かを好きになるとき。
その相手の次元など関係なく、ただ惹かれて。
四六時中、その人のことを考えるようになる。
それは、間違いなく幸せなこと。
少なくとも、私にとっては。
…けれど。
心のどこかに、得体の知れない何かがあって、
それが私の心を締め付ける。

好きになるほど、相手のことをよりよく見る。
立ち姿、振り返り方。話し方、言葉遣い、声色。
手入れの行き届いた靴。カッチリしたシルエットのスーツ。広い肩幅。キリっとした眉。

…私は、気がつく。
彼は、「男性」なのだ、と。
同時に、私は「女の身」なのだ、と。
当然のこと。ただの事実。初めから分かっていたこと。なにも不思議じゃない。
彼が男であるのは、出会ったときから分かっていたこと。それに、私だって生まれたときから女の身体で過ごしてきた。それで問題なかった。
それなのに、心が乱される。

彼は、優しくて、誠実な、いい人。
出会ってから、いろんな言葉を聞いてきたけれど、その真っ直ぐさと優しさは、嘘ではないと思う。
私にかけてくれた言葉も、本心からの思いやりのはず。…本当に、優しい人、素敵な人。
だから、私は彼を好きになった。

ちょっと低くて、よく響く声。高い身長。頼もしさを感じさせる背中。友人と話をしているときに見える子どもっぽさ。私の知らないことをたくさん知っているのに、ヘンなところに無頓着な性格…
そんな、彼らしさが。彼のすべてが。
これ以上なく好きだと思うと同時に、同じだけ憎いと感じる。

…憎い、というより、羨ましい、か。
もしかしたら、嫉妬なのかもしれない。
彼に恋をすると同時に、彼に憧れている。
彼という人物に。
私の持たないものを持つ、彼という男性に。
…彼の人間性に憧れているのか。それとも、彼が男性であるという点に憧れているのか。

…どちらにせよ、ないものねだりだ。

好きだけれど、憎い。羨ましい。
この気持ちの、折り合いの付け方が分からない。
一般に、誰かを好きになった時。
人は、身も心も惹かれるという。身体を許しさえする。誰かを好きになる、恋をするというのは、そこまでしたいと思うものだ、と聞いた。
でも、私は。
彼を見るほど、彼を好きになるほど、憎くなる。
自分が。私らしさが。弱くて小さいこの身体が。

私も彼も、なにも悪くない。ただあるがままに存在しているだけ。それは分かっているけれど。
私は自分が許せないし認められない。だからこそ、私には無いものを持つ彼に嫉妬している。
こんな身勝手な理由で人を嫌いになるなんて、許されるはずがない。

ないものねだりをやめて、自分の持つものに目を向けられるようになれば、彼のことも、自分のことも認められるようになれるのか。そうすれば今より楽になれるのか…





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