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人のものが欲しくなっちゃう女②

あまりに堂々と言うので一瞬聞き間違いかと思った。

「私、人のものが欲しくなっちゃうんだよね。」

いや、服とか持ち物ならわかるよ、私もそうだ。
素敵だと思うコーディネイトをしている人の服が欲しくなったり、CMで見たマスカラを友だちが使っていて自分も欲しくなったとかならある。全然ある。

ただ、恋愛に関しては…理解できなかった。
私の場合は気になった男性が彼女持ちということがわかるととたんに興味がなくなる。
彼女がいることで今のその人が出来上がっていると考えると、彼女の影を感じて自分の出る幕はないとササッと幕引きをしている感覚というのだろうか。
奪ってでもこの人がいい、という情熱が湧くほどではない気持ち、ということかもしれないし、傷つかないように深入りしないよう自然と距離を保つのかもしれない。


「私は彼女持ちは興味わかないかなー」
と言うと、


「…人のもの、欲しくならないんだね。
私は人のものの方が魅力的に見えちゃうな。婚約者の彼もそうだし、これまでもほとんどそうかな…。
でもみんな付き合うと本性出してきて、束縛彼氏とかストーカーみたいになっちゃって。付き合うとみんな変わっちゃうの。
で、相談しているうちにその人と気がつけば、、、みたいな感じになっちゃう。」
そう言ってタバコを吸い、ふぅーっとため息交じりに細く煙を吐き出した。


マミちゃんはいわゆるメンヘラ製造機だった。
彼氏がみんな必死になって彼女を囲い込もうとするのもなんとなくわかる気がした。
自分がそうしたように、他の男が彼女を奪って行くのではないかと思うと怖いのだろう。

後からふと、優子ちゃんが「私が好きな人はみんなマミちゃんと付き合う」と言っていたことを思い出した。
偶然なのか、それとも優子ちゃんの気持ちを知っていてわざと落としにかかっていたのか。
さすがに親友レベルの仲の2人だからそんなことはないと思うが、たまたまであってほしいと願わずにはいられなかった。

そして1ヶ月ほど経ったある日、優子ちゃんと2人で会う機会があった。
その後彼とは順調なのかと思ったら、暗雲が立ち込めていた。

なんと彼は彼女持ちだったのだ。

彼は優子ちゃんには「こっちに来てから付き合った彼女がいたが、最近自分の国に帰国してしまい別れたばかり」と話しており、優子ちゃんはそれを信じていた。

だが実際には彼女はビザの更新手続きの関係で自国に一時帰国しているだけで、ビザが無事に更新できれば近々戻って来る予定だった。
彼の部屋に遊びに行ったときPCの画面が開きっぱなしになっており、
「早く逢いたいよ、絶対空港まで迎えに行くからね」と彼女とやり取りしているメールを見てしまった。

優子ちゃんは自分の見る目のなさにほとほとうんざりした。
もう不倫や2番手はゴメンだと思っていたのに、傷心を癒そうと外国に来たのに、またいいように扱われてしまった。

彼は「別れるつもりでいるけど彼女が精神的に不安定な子で、今はまだタイミングじゃないから、こちらに戻って来たら別れようと思っている。
もう彼女に気持ちはない。
そんな時に君に出会ってしまって、ダメだと思いながらも強く惹かれる思いを止められなかった、本当に申し訳なかった」と言った。
だがそんな話が信じられるはずもなく、優子ちゃんは怒って彼の家を出た。

それから何度も彼から連絡がきているが、どう対応したら良いのかわからず、無視したままマミちゃんに相談した。
自分一人で彼に向き合うと、許したくないのに言いくるめられて許してしまいそうだったからだ。優子ちゃんはいつも自分の気持ちより相手のことを優先してしまい、我慢してしまうクセがある。
昔から優子ちゃんは恋愛で悩むと違う視点で見てくれるマミちゃんにいつも相談してきた。
常に彼氏を切らさないでいて、どの彼からも溺愛されるマミちゃんは、仲良しグループの中でもみんなから恋愛相談を持ちかけられる存在だった。
優子ちゃんはいつも「優しすぎる、ちゃんと自分の気持ちを言ったり怒ったりしないと相手に舐められるよ」とお説教されていた。
実際にアドバイス通りのことをしたらうまくいったり、喧嘩から仲直りできたり、その実績は仲間内でお墨付きだった。

彼女がいることが発覚する少し前、優子ちゃん、マミちゃん、彼の3人で会う場を設けており、すでにマミちゃんと彼は顔見知りになっていた。
「そんなこと隠してたなんて信じられない!優子を傷つけるなんて許せない!こんな奴には痛い目に合ってもらわなきゃ気が済まない!!」
と相当激おこだったらしく、優子ちゃんもずっと悲しみと怒りの狭間を行ったり来たりしていた。

そんな2人は、復讐計画を企て始めた。

マミちゃんの提案で、こういう奴は一回調子に乗らせて持ち上げてから、一気に地獄に落とそう!ということになった。
モラルもへったくれもないようなやつだから、女子から近寄って来られたらきっと相手のことを拒まないはず。たとえそれが優子ちゃんの親友だったとしても…。
そう、マミちゃんが彼に近づきその気にさせて、とことん夢中にさせてから「あんたなんか興味ないわよ調子のんなよ」と振る計画になった。
私や優子ちゃんみたいなタイプには到底できない芸当である。

そんなハニートラップみたいなこと、うまくいくのかね?と尋ねると、優子ちゃんは
「うん、たぶん大丈夫だと思う。マミちゃんはこれまで自分が狙いを定めた人は彼女がいようが自分に興味がなさそうだろうが100発100中で落としてきてるから。それに…彼は自分と似たタイプだから、どういう思考回路でどんな行動をするか手に取るようにわかるって言ってて…。ほんとすごいよね。」と言った。

まだよくマミちゃんのことをそこまで知らなかった当時は、か弱くて守ってあげたい女子な雰囲気だと思っていた。
私達の共通の友達でクズ男がいるのだが、そいつが以前「マミちゃんの中身はクズな男と同じだよ、俺と考えてること近いもん。だから俺らは絶対付き合うとかないね。でもあれだよ、優子ちゃんとあしたばちゃんはわかんないよ?ねぇ、おれはアリかナシならどっち?」
なんてアホなことを言っていて当時はハイハイと思って聞き流していたが、マミちゃんの恋愛観や考え、今回の復讐計画を聞くうちに嘘じゃないなと思えてきた。

マミちゃんと彼は3人で会った時に連絡先を交換していたので、計画が固まるとさっそくマミちゃんがメッセージを送った。


「話したいことがあるんだけど…時間取れないかな?優子には内緒で。」


彼の下に甘い蜜が垂らされた。




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