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復讐代行2

チャプター2

 その少女は、あてがわれたソファに腰掛けた途端、辺りをキョロキョロと物色し「ふぅん?」仕舞いには間抜けな相槌を打った。

 差し出された紅茶を何も言わず一口。

「…ねぇ。本っ当に復讐なんて代行出来るの?」
 身を乗り出すように向かいに座るシンに詰め寄る。


「…疑うなら他所へ行け」
 シンは表情を変えず端的に言い放つ。

「あ。怒ったぁ? ただちょっと聞いただけじゃん〜〜」

 悪びれる様子もなくケラケラと笑う少女。少女とは言っても彼女はもう高校生だった。いわゆる『今時』の女子高生。


「あ。アタシィ、『加奈子』って言うの。みんなからは『かなたん』って呼ばれてるの〜」

『よろしくねぇ〜』などと言い、右手でVサインを作りそれを顎にあてがった。それをやると小顔に見えるらしいとか…。


「…お前の名前などどうでもいい。」
 シンは呆れたように溜め息をひとつ。
「要は、誰にどう復讐したいかだ」


「…ヤバ。『お前』って酷くない? 『かなたん』って呼んでよォ〜」
 加奈子は心底驚いたように目を丸くしていたが、次には頬を膨らまし少し拗ねた素振りを見せた。


「…ハァ……」
 シンは思いっきり深い溜め息をつき、
「…写真、寄越せ」と、手のひらを加奈子の前に差し出した。


「えぇ〜? 『かなたん』って呼んでくれなきゃ見せなーい」
 などと、上目遣いでシンを見やる。

「……」再び内心で深い深い溜め息を吐くシン。このやり取りに面倒になったのか、
「写真を見せてください。かなたん」
 これでもか、と言うくらいの笑顔を向けて加奈子に頭を下げる。


「よろしい!」
 加奈子はようやく満足したのか、膝の上に抱えていた鞄を弄ると携帯を取り出し、
「じゃあ見せてあげる」と、慣れた手つきで携帯を操作する。

「これ。この子に復讐したいの!」
 一枚の写真画像を携帯越しにシンに見せてきた。


 そこには、目の前の加奈子とは真逆の、清楚な少女が一人、横姿ではあるが全体像が写っていた。

「横向きだけど、大丈夫そ?」
 シンに携帯を差し向けつつ加奈子は少し不安そうに聞いてくる。先程との元気とはまるで違う。

「ああ、問題はない」
 シンは、そんな加奈子の急激な変化にすぐさま気付いたが、それには触れず、
「…どうやって復讐したい?」静かに問いかけた。


「…あ…うん…」
 加奈子は小さく頷いて携帯をそのままテーブルに置き顔を俯かせ、我が身を守るように自身の腕で肩を抱きかかる。

「…なんか…、死んだほうがマシだって言うくらい……辛い思いを、してほしい……」

 消え入りそうな声で呟いた。

「…成程」

 目の前の少女の不安そうな気配を読み取ったのか、シンもまた呟くように頷いた。


「…出来る?」
 俯かせた顔を上げる加奈子の瞳が、今にも泣き出しそうだった。


「ああ。必ず」

 加奈子の言葉にシンは力強く頷いた。

「それで報酬のほうだが……「シン」

 シンの言葉を突然遮ったのは側にいた神門穢流(みかどえる)だった。

 シンが彼女のほうをチラリと見ると、穢流(える)は首を小さく横に振り、それを見たシンは何か言いたげに口を開きかけたが、観念したように軽い溜め息を吐いた。



「…アタシ、お金ならあるよ?」

 そんな二人のやり取りを見た加奈子が何かに気付いたように鞄から財布を取り出すと、

「いや、いい」
 と、シンに止められてしまう。


「…でも……」
「報酬は金じゃない」

 言い淀む加奈子にシンは端的に返す。


「え? お金じゃないの?」
 目を丸くする加奈子。

「ああ」小さく頷くシン。加奈子の目を真っ直ぐに見つめて、「報酬は、お前の寿命だ」

「…ぇ……?」
 加奈子は何を言われたのか理解出来ずに思わずキョトンし、次に自身に問いかけるようにゆっくりと聞き返した。

「…アタシの? ……寿命…?」

「……」
 シンは黙って頷き、

「…死まで希望しないなら、まあせいぜい半年ってところか」


「…アタシ、の……半年の寿命……」
 加奈子は喉から搾り出すような声で呟き顔を俯かせた。


「…お前の寿命があと半年しかないなら、復讐が遂行された途端にお前は死ぬって事だな」

「ー…ッ、」

 何の感情も読み取れないシンの冷たい言葉に、加奈子は顔を上げ唇を噛み締め目の前のシンを睨みつける。意を決したようにシンに、

「…それでもいい」

 低くではあるがしっかりした口調でそう告げた。


「アイツが再起不能な感じになるんだったら、アタシの半年の寿命あげるからッ」

 早口で言ってシンに詰め寄る。

「アイツを…あの子を必ず……ッ、死んだ方がマシだって思わせるまでにしてほしい!」



「…契約成立だな」

 シンのどこか含みある言い方に若干の違和感を覚えた加奈子だったが、それを無理矢理心の片隅に追いやって、逃げるように背を向けてその場から去った。



 ――その夜に加奈子が依頼した『清楚な少女』は、交通事故により視力と意識はあるものの、それ以外の身体による運動神経は全て麻痺した状態を寿命が尽きるまで過ごす事となった。

―了―




*****
チャプター2あとがき。

今回はチャプター1と違い、登場人物の意思を少なめにしてみました。どちらが読みやすいでしょうか?
意見などあればよろしくお願いします。

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