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絵本探求講座 第4期、第1回講座を終えて

2023年9月10日(日)絵本探求講座 第4期(ミッキー絵本ゼミ)第1回講座の振り返りをします。


1.受講動機と目標

【受講動機】
第1期「絵本概論」・第2期「ジャンル別絵本」・第3期「絵本賞と受賞作」と学んできた。第4期は「絵本の絵を読み解く・翻訳」、また違う切り口で学びたいと思った。
いろいろな視点を持って、絵本の魅力を再発見し、その魅力を自分の言葉で伝えられるように言語化トレーニングを積んで、学んだことを仕事や自分が関わっている活動に活かしていきたい!という思いで継続受講を決めた。
【目標】
・自分に響いたことを引き寄せ言語化する。第1期の時から始めた読書日記を継続する。
・子ども達の心に寄り添う中で、自分で選書した絵本を紹介し、活用する。
・支援団体の活動の一環である児童養護施設(幼児から高校生)へ絵本の選書と郵送のお手伝いをしている。いい絵本の選書ができるよう学びを深めて、災害を経験している子ども達の心のオアシス的な文庫に育てる。
・チーム1のFA(ファシリテータ)として、勉強会やコミュニケーションを重ねながら、楽しく学んでいけるようサポートする。層雲峡の発表に向けて、力を合わせて目標達成できるチームを作る。
 チーム名は「🍄はいほ~」(副題:お話の金鉱を掘り当てる)
・講義の振り返りをする。

2.自己紹介の翻訳絵本

『はなをくんくん』
ルース・クラウス:文 マーク・シーモント:絵  きじま はじめ:訳
福音館書店 1967年発行
原書 1949年発行
コールデコット・オナー賞 1950年受賞

選書理由

長女の出産祝いにいただいた大切にしている1冊。やわらかいタッチの美しい絵で、動物たちの喜びが感じられる。チームメンバー7人が一緒に学びながらゴールを目指す。春の訪れを見つけた動物たちのように、私達も層雲峡でその幸福感を味わえると思い、この絵本を選んだ。

翻訳に注目して読む

原書、翻訳アプリDeepⅬの訳、きじまはじめ訳、それぞれを文字に起こして比較してみた。
   原書
  (翻訳アプリ)
  【きじまはじめ訳】

このお話は、雪深い森の中を、冬眠から目覚めた動物達が、鼻をくんくんさせて、走り出し、雪の中にお花を一輪みつけるというお話。
・原書のテキストは、一文が短く、シンプルだ。
Snow is falling. The field mice are sleep,
  (雪が降っている。野ネズミが眠っている)
  【ゆきが ふってるよ。のねずみが ねむってるよ、】
絵は雪が降る中、動物達がまだ静かに眠っているシーンだ。
きじま訳は、「ゆきがふってる。」「ねむってる、」と動詞の語尾に”よ”をつけて、語りかける文章にしている。”よ”は、聞き手が知らないことを知らせたり(情報の伝達)、注意や理解を進めてもらうときに使う。
the little snails sleep in their shells;
  (小さなカタツムリは殻の中で眠る。)
  【ちっちゃな かたつむりが からのなかで ねむってるよ、】
きじま訳は、「ちっちゃな かたつむり」とかわいい表現になっている。温かくて親近感を感じる。
They sniff.
  (彼らは匂いを嗅ぐ。)
  【みんな はなを くんくん。】
原書では動詞だが、きじま訳は「みんな はなを くんくん。」とオノマトペを使っている。音としてもとても心地いい。
the little snails run with their shells,
  (小さなカタツムリは殻の中で匂いを嗅ぐ。)
  【ちっちゃな かたつむりが からのなかから はなをくんくん、】
きじま訳は、「からをおんぶして」という表現がおもしろい。子どもにも想像しやすい言葉を選び、子どもに寄り添っていることが感じられる。
They sniff. They run. They run. They sniff. They sniff.
 They run. They stop.

  (匂いを嗅ぐ。走る。走る。匂いを嗅ぐ。匂いを嗅ぐ。走る。止まる。)
  【みんな はなを くんくん。 みんな かけてく。
   みんな かけてく。みんな はなを くんくん。
   みんな はなを くんくん。みんな かけてく。みんな ぴたり。】

動詞が繰り返されている。きじま訳は、「走る」「かけてく」と訳され、「くんくん」との繰り返しが、絵に連動してリズムがあり、躍動感を感じる。絵は、どんどん増えていく動物達が、同じ方向に向かって走っているシーンは読者の期待を高め、ページをどんどん捲りたくなる。そして、動物たちは、突然止まる。「みんな ぴたり」と表現されている。動物たちの驚きが伝わってくる。動と静のメリハリが感じられる。
They stop. They laugh.
  (立ち止まる。笑う。)
  【みんな とまった。みんな うっふっふっ、】 
きじま訳は、「笑う」「うっふっふっ」オノマトペで表現。春を待っていた動物たちの喜びが感じられる。
・They cry, "Oh! A flower is growing in the snow."
  (彼らは叫ぶ、ああ!雪の中に花が咲いている。)
  【みんな「うわあい!」さけびだす、
  「ゆきのなかに おはなが ひとつ さいてるぞ!」】
 
きじま訳は、『みんな「うわあい!」さけびだす、
「ゆきのなかに おはなが ひとつ さいてるぞ!」』
語順が変わっている。雪の中に春の訪れを見つけた感動がより伝わってくる。
・原書には、「. period」「, comma」「; semicolon」があったが、日本語は「、読点」「。句点」の2種類。
原題は『THE HAPPY DAY』、直訳すると『しあわせな日』、きじま訳は全く違う意味に訳されている。『はなをくんくん』という単語は、表紙のどこにもない。表紙は、黄色を背景に白く抜かれた楕円の中にお話に出てくる動物達が描かれている。大きい熊から小さなかたつむりまで、笑って踊っている様子は、とても嬉しそうで喜びに満ち溢れている。季節は五感で感じるもの。本文とも連動している「くんくん」というオノマトペが、楽しいお話の世界へいざなってくれる感じがする。

・絵本は絵も訳す。絵本の翻訳は片目で文字を、片目で絵を見ながらする。
・読みやすい文章は、メリハリのある文章
・作者への理解はホットに。読者としての点検はクールにをモットーに。
・子どもの会話を知る。
・オノマトペは、英語では、約3,000語、日本語には約12,000語あると言われています。(中略)効果的なオノマトペを使うことで、状況をいきいきと伝えることが出来ます。
・翻訳者自身が、日本語の美しい響きを知っていること。
・翻訳の神様は、文章の細部に宿っている。
・キーワードは「リズム」。音楽の言葉に例えると、リズム(身体をはずませるかどうか)、メロディ(言いたいことが伝わってくるか)、そしてハーモニー(前後の文章とのバランス)この3つが魅力の要素になる。

『絵本翻訳教室へようこそ』より灰島かり著

3.講義から

声の文化について

「文字を持たない民族の物事の認識の仕方は、子どものそれと似ている。」(『声の文化と文字の文化』ウオーター・J・オング著)
私達大人は、文字の文化に生きている。読んであげる対象の子ども達は、まだ文字を知らない子ども達。声の文化にどっぷり浸かっている。同じ空間にいるが、違う文化に属している人達。その人達にわかるように翻訳しないと、納得する物語にならない。
声の文化で代表的な物は、昔話。常に耳から、繰り返しの中で大事なことを伝える。自分達が、生活実感したものでないと受け入れられない。著作権なし。
文字の文化は、活版印刷が出来てから、ある時から声の文化に置き換わった。文字の文化は、書き直すことが出来る。著作権あり。
ミッキー先生の先生、灰島かり先生は「訳者は文・口・口」と言われたそうだ。1回書いたら、2度3度読んで、文体を直していく。書いたより何倍も読んでいる。息遣いなどその訳者の特徴が出る。どちらがいいということはない。いろんな視点がある。「今日、小学校で読むなら、瀬田訳で読むかな」という見方をする。

4.まとめ

これまで翻訳の視点から、作品を見たことがなかった。まず、題名の大胆な訳に驚いた。中学校の英語の試験なら✖だ。
原書・翻訳アプリ・きじま訳を文字に起こし、声に出しても比べてみた。絵本の翻訳は、単純に意味を日本語に移せばよいというものではないことがわかった。絵本の読者の中心は子どもであること。簡単な単語ほど、読み取りの解釈も幾通りもあって、それを日本語に置き換えていく作業は、訳者の力量となる。センスもある。
訳者・木島始の経歴を調べると、日本の詩人英米文学者、翻訳家童話作家作詞家。詩作品は多くの作曲家により合唱曲となって楽譜出版されている。また林光間宮芳生など現代音楽の作曲家の作品に詞を提供していることがわかった。木島始が詩人であり、作詞家であることは、訳にも反映されていると思った。
『はなをくんくん』の対象年齢は、「読んであげるなら3歳から」となっているが、長女が生まれてすぐからよく読んでいた。成長と共に、読み聞かせの時「くんくん」っていうところになると、一緒になって言っていたことを思い出す。歩けるようになると、庭の花壇に出た時や散歩中に「鼻をくんくん」って、言っていたことも。絵本の中のフレーズが、自然と日常会話に溶け込んでいた。季節の変化を五感で感じることを絵本でも体験していたこと、そこには心地いい日本語があることがわかる。息が長い作品は言葉のセレクトが最高だ。
きじま訳は、「はなをくんくん」が耳で聞く音としての効果を高めている。リズムがとても心地いいし、楽しくなってくる。31年前の絵本を、丁寧に読み返すことで、当時、母子でこのリズムを心地よく感じた音の記憶を思い出すこともできた。

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