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科学的アプローチによるパーソナル栄養学

バイオハッカーセンターJapan代表として、栄養学について一番最初にお伝えしたいことはBiochemical Individualityです。直訳すると、「生化学的個性」と言えばよろしいでしょうか?各個人の栄養学的にも化学的構成がそれぞれ異なり、そのため食事やその他の栄養の必要性も人によって異なるという概念です。人はそれぞれの遺伝子構造、栄養状態、環境に基づいて、固有の生化学的プロフィールを持っています。

人類共通の最高の食事を見つけようと世界中で研究が行われていますが、実際にヒトは皆、食べ物に対する個々の違った生物学的反応を持っています。これらの反応は遺伝、ライフスタイル、腸内細菌叢、環境、性別、活動レベルなどの変数に基づいています。そのため友人が成功したダイエットを実行しても、あなたの体重は減らなかったり、気分が落ちたり、よく眠れなかったり悪化する事さえありえます。

テレビで話題のダイエットやSNSで話題のダイエットに従うのではなく、ここ数年に発表された科学的根拠をもとに自分の体に合わせて食事をカスタマイズする方が良いとされています。もちろん健康的な食生活を送るためには、誰でも参考にできる共通した原理・原則があります。

この記事では自分の身体を分析し、自分にぴったりの食事を作るためのいくつかの方法をご紹介します。

自分の為だけのダイエットが必要な理由

まだまだ新しい分野ではありますが、ここ10年で個人に合わせた栄養学が研究者の間で注目を集めています。中でも、イスラエルにあるワイツマン科学研究所が発表した研究は個人に合わせた食事法を裏付けるものとして注目されています。これは代表・松田干城のポッドキャスト「黄金の経験」第一話で紹介している研究です。

“Here, we continuously monitored week-long glucose levels in an 800-person cohort, measured responses to 46,898 meals, and found high variability in the response to identical meals, suggesting that universal dietary recommendations may have limited utility.”

研究要旨より引用

"ここでは,800人のコホートにおいて,1週間のグルコースレベルを連続的にモニタリングし,46,898回の食事に対する反応を測定したところ,同一の食事に対する反応に高いばらつきが見られ,普遍的な食事の推奨は実用性が低いことが示唆された。"

和訳

この研究では同じ一の食事に対するグルコースの反応(血糖値の上がり具合)に大きなばらつきがあることが確認されました。クッキー、バナナ、寿司、全粒粉のパンなど、一般的に「血糖値を急激に上げる」と考えられている食品は確かに一部の参加者の血糖値を急激に上昇させました。しかし、興味深いことに中程度の反応しか示さなかったり、まったく反応しなかったりする被験者もいました。

クッキーを食べても血糖値が上がらない遺伝子で生まれてきたらよかった...と思う方も少なくないと思います。

つまり、この研究結果は個々の食品について教科書やガイドラインに表記されている固定的な数値を示すグリセミック・インデックスなどを頼ることは、個々の血糖値の反応を考慮するモノサシにはあまり意味がないことを示している、というところです。栄養士さんの顔が真っ青になる事実です。この論文を読んだ5、6年前に実際タテキも真っ青になりました。

読者の皆さんも気持ちを切り替えて、研究結果の情報を適切な方法で応用すれば非常に価値のあるものになります。イスラエルの科学者たちは私たち一人一人が栄養素をどのように吸収し、代謝するかが異なることを明らかにした上で機械学習を利用して、学習データーから食事に対する個人の反応を正確に予測するアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムは血液パラメータ、家族の歴史(移民国家においては重要な情報の一つ)、身体活動、腸内細菌叢などの多くの要素を統合し、高度にカスタマイズされた食事のアドバイスをします。

「Food4Meプロジェクト」と呼ばれる別の研究ではヨーロッパの7つの国の1,269人の参加者を6カ月間にわたって調査しました。参加者は自分の遺伝子情報に基づいて個人に合った食事のアドバイスを受ける、または野菜や果物、赤身肉、全粒穀物をたくさん食べるような標準的な食事アドバイスに従うかランダムに決められました。

個人に合わせた食事を提供されたグループは、一律の食事を提供されたグループに比べて健康状態に関連する結果が非常に良好でした。イスラエルとヨーロッパの両研究とも、健康全般のためには一般的な食事アドバイスよりも、個人に合わせた食事の方が良い可能性があると結論づけています。もちろんここで紹介した2つの研究が全て正しい、と言っている訳ではありませんが、〇〇食品は身体に良い、悪い、または、〇〇ダイエットが健康に良い、悪い、という従来の意見や考えを圧倒する内容であることを認識していただければ幸いです。

パーフェクトな食事とは?

個人に合わせた栄養摂取が注目すべき選択肢であることは明らかです。しかし、自分に最適な食事を選ぶためには、どのような要素を考慮する必要があるのでしょうか?一概には言えませんが、自分にぴったりの食事を見つけるため方法を紹介します。

1:遺伝子検査

米を中心とした戦前の和食文化の日本でもトロピカルフルーツや地球の裏側の国から輸入された食品を食べられるようになリました。我々の食生活は周囲の環境に大きく左右されてきました。

もう少し抽象度を上げて世界の食文化を見てみると、北欧の人々の食生活はサブサハラ(サハラ以南のアフリカ)や東南アジアの人々の食生活とは大きく異なっています。ご存知の通り、各民族の原住民は何千年もかけて、自然に手に入る食物に適応するように遺伝子を進化させてきたのです。もちろん我々日本人の食文化もそうですし、ここ100年で大分、我々の「基準」が変わってきました。単一民族の日本と比べて、海外の移民国家では、あなたの祖先がどこに住んでいるかによって、特定の食べ物と相性の良い傾向があるという点に注目しています。

北米を拠点に日本へ情報発信をしているタテキですが、移民国家であるアメリカにおいて先祖の遺伝子タイプをクライアントに知ってもらう大切さを身に染みて実感しています。もし祖先が炭水化物やデンプンを多く含む伝統的な食べ物を食べてきた南米に住んでいるなら、穀物や塊茎、果物などの炭水化物を多く含む食べ物の消化や処理が容易な可能性があります。

祖先の出身地がはっきりしている場合は、この程度で十分でしょう。その地域の伝統的な食事にできるだけ近いものを食べれば、良い結果が得られるかもしれません。日本人でしたら伝統的な和食です。

しかし、最近のアメリカ人の多くは雑種です。お父さんお母さんの両親が更に別の国出身だった場合、国別で先祖をたどると軽く4−8カ国くらいのミックスになりますので、その人にとっての先祖代々の食事を模索するのは少し難しいです。そこで役立つのが遺伝子検査です。

遺伝子検査では特定の食品に対する反応、好ましい栄養素の比率、栄養素の欠乏の原因となる感受性、特定の生活習慣病などに影響を与える可能性のある遺伝子を調べることができます。

現在では葉酸、コリン、ビタミンC、脂肪酸、でんぷん、カフェインなどの摂取量の増減に影響を与える遺伝子SNP(一塩基多型)が特定されています。個人間の遺伝情報のわずかな違いのことで、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism)とも言います。ヒトが保有する塩基対の配列には人種や個人間で異なる部分があり、1つの塩基だけが別の塩基に置き換わっているものをSNPといいます。

食生活に関連する遺伝子変異としてよく知られているものは以下の通りです。

  • MTHFR (葉酸、ビタミンBの代謝)

  • FTO(体重および脂肪組成)

  • TCF7L2 (血糖値の調節)

  • APOE ε4 (コレステロール)

  • FADS1(脂肪酸の代謝)

  • CYP1A2(カフェインの代謝)

遺伝子検査をすることで自分の持っているSNPを知ることができれば、それに合わせて食事内容を調整することができます。

ただし、ここで大きな注意点があります。遺伝子検査はまだ始まったばかりで、検査結果に記載されている変異が実際に代謝の不具合や異常に関与しているかどうかはわかりません。また、遺伝子検査の中には不正確なものや役に立たないと思われるものもあります。その理由は遺伝子検査を提供している企業のメンバーが生化学や遺伝子学のスペシャリストではなく、ビッグデーターだけに特化したIT専門の人達だけで構成されている場合があるからです。遺伝子検査の結果はあくまでも目安として、日々、自分自身に合った食事を探す努力を続けていきましょう。

2:食品に対する血糖値の反応を調べる

グリセミック・インデックスやグリセミック・ロードのような血糖コントロールの指標は特定の食品がどの程度血糖値を上昇させるかを「見える化」したものです。しかし、上記で紹介したワイツマン研究所で学んだことによると血糖値の反応には個人差があります。

例えば、あなたがバナナを食べるとグルコースがスムーズに吸収され、血糖値がわずかに上昇しますが、違う人が同じ量のバナナを食べると、血糖値が大きく上昇した後に急降下することがあります。誰もが健康的な食べ物だと確信しているバナナが血糖スパイクの原因になるということです。

血糖値の反応を調べるのは難しそうですが、薬局やオンラインで購入できるグルコメーターテストストリップがあれば、手軽に行えます。

糖尿病患者のように食後の血糖値をやみくもに測るのではなく、科学的なアプローチで最も正確な情報を得ることができます。少なくとも1週間、体に入れたものに対する血糖値の反応を記録し、観察します。まず、体が絶食状態にある朝の血糖値を測定することから始めましょう。

米国国立衛生研究所によると、空腹時の血糖値は72〜108mg/dL(4〜6mmol/L)が正常値とされています。この値を基準にして、毎食後すぐと毎食後2時間後に検査を行います(NIHでは、食後2時間後に180mg/dL未満であれば正常としています)。

血糖値を急上昇させたり、長時間上昇させたりする食品を見つけて、その食品を徐々に避けてみましょう。

3:自分自身を観測・記録する

空腹のサイン、パターン、時間帯、欲求(何を食べたいか)を記録し、何をどれだけ食べたか、それによってどう感じたかを記録するだけです。食後に記録して空腹感、気分、活力、満足感やマインドへの影響など、記録が溜まっていけば特徴や今まで気づかなかった部分が見えてきます。そうすることで自分の体が何を必要としているのか、そしてその時の生理学的ニーズを満たすためにはどうすればよいのかをより深く理解することができます。アスリートやスペシャリストは特にその部分に関しては敏感で注目している事も既に皆さんはご存知だと思います。無料ですぐに始めることができるバイオハッキングです。

特定の食物に対する過敏症やストレスを特定したい場合は除去食ダイエットを行うことから始めましょう。

最低でも30日間、原因となりそうなものをすべて(アレルギー反応が出やすい食品・グルテン。乳製品、卵、豆など)取り除き、食品に対する慢性的な炎症反応を抑えることで、改善のする為に先ずはマイナス状態であった場合はゼロに戻す必要があります。ベースラインに戻した30日後に、特定の食品を計画的に再導入し、食べた反応を確認することで、その食品に対する反応が悪くなっていないかを確認します。

まとめ

一昔前では考えられないパターンや近代のテクノロジーで自らの遺伝子を調べられる一方、比較的簡単で無料でできるテストを通じて、自分自身についてどれだけ知ることができるか、ご理解いただけたと思います。そして、その結果をもとに自分に合った食生活を送ることで、テレビやネット情報の食生活アドバイスに振り回されることなく、自分に合った食生活を見つけることができ、個人にあった栄養ニーズを満たすことができると信じています。

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