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【梅の花】#シロクマ文芸部

「『梅の花』という店だった」
「ほう。今回の怪異に似合いの名じゃねぇか。飲み屋か何かか?」
「占いの店だ」
「占い?」
「和服の似合う若い女性だった」
「おまえ好みのか?」
「『どうぞこちらへ』と通された」
「おい。無視するなよ」
「部屋にはもうひとり。こちらは年配の女性だった」
「ほう。如何にもだな。で、そこでおまえが何をみてもらったんだい?」
「別に占ってもらうために行ったんじゃねぇ」
「はん?」
「桃源に言われて行ったんだ」
「桃源?そりゃあ、胡散臭いな」
「おいおい。仮にも俺たちの師匠だ」
「その師匠を呼び捨てにするおまえもどうかと思うがな?」
「師匠だが友人でもある」
「その女のどちらかが梅だったのか?」
「いんや。ふたりともだ」
「差し詰め、白梅と紅梅といったところか?」
「ご明察」
「若い女が白梅で、年増女が紅梅」
「なんか悪意を感じるな」
「言ってろ。仇に媚売るほど俺は優しくない」
「優しい、優しくないの問題か?」
「違うのか?」
「でも桃源はなんでその店、いや、そいつらのことを知っていたんだ?」
「そりゃあ。前回奴らを封じたのが桃源だったからだ」
「どういうことだ?」
「桜たちがやられた話をした時、桃源は人数やら日付やら方角やら、やたらと訊いてくるものだからどういうことか訊ねたら、心当たりがある、と」
「それがその店だったのか?」
「店というか、そこに塚と梅の木があるはずだ、と」
「ほう」
「もしも塚が壊れていたら、封印は解けたということだと」
「なるほどね。で、その通りだったと」
「あぁ。女たちを斬る前にさっさと店を出て、裏の梅の木を2本切ってやったというわけさ」
「それで怪異はおさまったのか?」
「一応はね。あとは桃源の役目だ」
「そうだな。桃源もさっさと切ってしまえばよかったのに。変に情けをかけるから」
「そうだなぁ」
「まぁ、昔から言うからな『桜切る馬鹿。梅切らぬ馬鹿』」
「確かに言うけど…それとは違うんじゃないか?」
「そうか?」
「おそらくな」