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びっクリエイティブ

 その昔はグリーン車に乗って通勤してだんだがなぁって俺、広告代理店勤務。若い頃は紙媒体の広告を取り仕切ってブイブイ言わせてた。そんでもって北鎌倉に家を建て、ザ・クリエイターって感じでイケイケドンドンな生活だったのよ。ところが今や満員電車のつり革につかまり半眼状態。なぜそうなったかは諸般の事情があって。ま、平たく言えば酒なのよ。クラインアントを招いた酒席でやらかしちゃったの。詳しくはウェブでー。       今朝も覚悟のつり革立ち通勤、半眼で。やれんわ。ところが急に前の席が空く。なんてラッキーなの今日は。人生はバランスよな。

 仕事をやっつけ終電ちかく。ほろ酔いの乗客に混じり俺シラフ。飲める時間に退社できんくらい日々雑務。もはやクリエイティブ職ではない。帰りも新橋駅から運よく座席をゲット。何気なく中吊りをながめると弊社制作の広告。まっ、俺はノータッチなんだけど。して、ふと前に立つ乗客を見ると弊社受付の女子、前川敦子。半眼であーる。かなり酔っておーる。さぞ女子会やら合コンやらなんやらで発砲した酒をしこたま飲んだのであろう。して、チラと前川敦子を見ると様子がおかしい。半眼であーるのは最初からであって、ほっぺがふくれたりへっこんだりしているのだ。これはまずい。このままだと俺の薄くなった頭にキラキラシャワーが降り注ぐ。これは人生のバランスを考えても受け入れがたい事案。せっかく座って帰れるのに席を立って譲るべきかどうしようか鈍になったクリエイティブ脳を働かせていた刹那。前川敦子はおもむろに弊社制作の中吊り広告をひっぺがしメガホンの様に筒状に丸めるとそのなかに吐瀉。しかも漏れないように持ち手の円すいの頂点を折り込んであーる。なんちゅうクリエイティブ思考やねん。てか、ゲロを包む中吊り広告を手に前川敦子はもはや素。なんならクレープでもお持ち帰りしてる風。若干の酸い匂いは、加齢臭やらなんやらに中和されて。

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