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カズオ・イシグロさんの「未公開」インタビュー


ニュースが少しだけスキになるノート 池田誠

2011年、カズオ・イシグロさんにインタビューをさせてもらう機会があったのだけれど、直後に震災が起きて日の目を見ていなかった。「いつか文学賞を取ったら・・」という願いが昨夜現実になって、もう別の仕事をしている身ながら、テレビ屋だった頃の高揚感を久々に感じた。NEWS23、日本との関わりについての部分をちょっとつまむだけかなと思っていたら、「良い人生とは何か」とか「時代の犠牲者の悲しみ」とか、コアのパートを長く使ってくれていて嬉しかった。編集担当に感謝。個人的には、最も好きな作品は「わたしたちが孤児だったころ」です。さて、今日もくさらず頑張ろう。(以上、先輩のフェイスブックより)



カズオ・イシグロさんのノーベル文学賞の受賞が決まった翌朝、私はフェイスブックで先輩の書き込みを見つけた。今は報道局ではない部署で働いている先輩と一緒に仕事をした時間は短かったが、いつも冷静で素敵な言葉を選ぶ先輩だな、と密かに尊敬していた。

もっとカズオ・イシグロさんのインタビューが聞きたい・・・NEWS23のオンエアを見た後、ひとりの視聴者としてそう感じていた私は、国際ニュースを担当する外信部に向かった。そこには、2011年に先輩が心をこめて訳した言葉が残っていた。


カズオ・イシグロさん インタビュー(2011年取材)
「私は1954年に生まれました。世界大戦の終結から10年後です」
「成長する過程で、いつも意識し、自問自答していたことがあります。それは、もし自分が20年、30年前に生まれていたら、両親が生き抜いたその時代を、どのように生きただろうかということです」「私は『歴史の犠牲者』『時代の犠牲者』と言うべき人々について、深く考えるようになりました。彼らは特に悪人だったわけでも愚かだったわけでもない、慎み深い、ごく普通の人々でした。ただ、『時代の空気の外側に立つ』という高度な能力は持ち合わせていなかった。結果として、慎み深い人生を送りたいと願っていたにも関わらず、彼らの人生は踏みにじられてしまいました。このことは私に、非常に強烈な印象を与えたのです」


「ヨーロッパや日本での大きな戦争を振り返れば、当時のシステムに対して勇敢に立ち向かった人々も、もちろん多くいたでしょう。しかし大部分の人々は、『これが正義だ』と言われたものを、ただ受け入れた。彼らは自らが正しいと思うことに全力を尽くしましたが、恐ろしい間違いを犯したと気づいた時には、もう遅かったのです」「もし全体像が見えているなら、私たちは立ち向かわなければならないし、知的に立ち向かうなら、さらに良いと思います。しかし通常、ある時点の歴史や社会を動かす力はとても複雑に入り組み、それを読み切ることは非常に難しい。当代の最も著名な知識人が新聞や雑誌に『いま何が起きているか』について書きますが、30年経って振り返れば、おそらく正しい記述はほんの少しに過ぎないでしょう」

【TBS NEWSの公式フェイスブックより】


「『良い人生とは何か』というのは、もっとも深く困難な命題のひとつです。それこそ古代ギリシャの時代から、ソクラテスもプラトンもアリストテレスも、この問題に取り組んで来ました。シンプルな答えを出すことはとても難しいと思いますが、現代の私たちは、おそらく毎日のように無意識的に、『良い人生とは経済的に成功することだ、金を稼ぐことがゴールだ』と教化されています」「だからこそ、『良い人生とは何か』と今一度問い直すことがとても重要だと思うのです。良い人生とは単純に、自らが属する組織のために最大限のお金を稼ぐことでしょうか?そんなはずはありません」「私は『わたしを離さないで』で、ひとつの答えを示したつもりです。もし自分に残された時間がとても短いなら、大切なのは金や力を集めることではなく、愛する人や親しい友人なのです」「私はみなさんに、人生の時間がいかに貴重であるかについて気づいてもらいたい、そして『良い人生とは何か』について問い直してもらいたいと思っています」


10月16日現在、公式フェイスブック上での再生回数は、11万回超・・・
取材した記者の思いは、時を越えて多くの人の心に届いたのではないだろうか

直接、カズオ・イシグロさんを取材したわけでも、言葉を選んだわけでもないが、現場の思いを届けるお手伝いが出来ただけでなんだか幸せな気持ちになる。


さて、私も・・・今日もくさらず頑張ろう(笑)

https://www.facebook.com/tbsnews/


ニュースが少しだけスキになるノート 池田誠