“スイスの千畝”に着想を得た、少年たちの友情(園部哲)

「園部哲のイギリス通信」第8回
"THE GUSTAV SONATA"(グスタフ・ソナタ)
by Rose Tremain(ローズ・トレメイン)2016年出版

著者は1943年生まれの英国人でイースト・アングリア大学の現総長。余談ながら同大学はカズオ・イシグロやイアン・マキューアンなどの作家を輩出していることで有名だ。
さて、トレメイン。彼女は1976年以降14冊の小説を刊行しているが、邦訳は1

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うれしいです! 今後とも「翻訳書ときどき洋書」をよろしくお願いします。
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日の名残り(著者:カズオ・イシグロ)

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。(Amazo

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わたしを離さないで

自らに課せられた宿命を静かに受け入れること。あるいは、無常の風に逆らうことなく、儚い諦念とともに理不尽な死を迎え入れること。沢木耕太郎が的確に指摘したように、本作は英米映画であるにもかかわらず、じつに日本的な印象を感じさせる映画である。

臓器移植やクローン技術といったテーマが物語に独特の緊張感を与えているが、登場人物の若者たちは不当な運命に抗うこともないまま、物語は淡々と進行する。その静かな佇ま

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静かに広がる痛み。 カズオ・イシグロ「私を離さないで」

優秀でいて、介護という仕事に誇りをもつ介護人キャシーの語りから、これから語られる登場人物が既にこの世に居ないことを知る。介護の物語において、亡くなった人たちのことをまず語り始めるというのは、おや、という感じだ。こういった語り口をはじめ、全ページにわたって「何か伏線があるのでは?」と思わされた。

さて、物語における介護とは、私たちの知るような、生活を豊かにするケアというより、臓器提供者の痛みを和

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カズオイシグロの書き方

ノーベル文学賞も受賞した世界的な作家、カズオイシグロは、出世作である「日の名残り」をほぼ4週間で書いたという。

その時の書き方が面白くて、とにかく文体とか整合性とか稚拙な表現とかを構わずに、頭に思い浮かんだことをとにかく書くやり方だったらしい。

そして4週間後には書くべき要素がすべて揃っていたそうだ。

カズオイシグロだから、才能があるから、という話はさておき、このやり方は企画書を書くときも有

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玉置浩二「GOLD」とカズオ・イシグロ『忘れらた巨人』。老夫婦の愛について。

昨夜、玉置浩二のシンフォニックコンサート 上野 東京文化会館に、妻と聞きに行って。

 カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』という小説は、英国、円卓の騎士の時代を舞台に、主人公老夫婦が、行方不明になった息子を探しに、おそらくは人生最後になるであろう覚悟をして、二人で旅に出る話です。
玉置浩二さんの「GOLD」という歌もまた、老夫婦(おそらくは玉置浩二青田典子夫人)が、人生の最後の旅に旅立つ情景を描

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カズオイシグロをめぐる、しむちょんとの対話

前のノート、(初めはFacebookに投稿しているのだが)、ジョン・バンヴィルについて書く中で、カズオイシグロについて言及したところ、読書人生師匠のしむちょんこと志村浩二君が反応してくれて、面白いやりとりになったので、記録のためにアップしておこう。今、きちんと書こうとしているカズオイシグロ論の要旨、のような形になっています。

私の投稿の一部抜粋

「人生の後半、終わりちょっと手前に来た時に、若い

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悲しく優しい音楽―わたしたちが孤児だったころ

昨年の2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさんの『わたしたちが孤児だったころ』を読んだ。
プルーストの『失われた時を求めて』が近年の継続的な関心でもあるので、「記憶と過去をめぐる冒険譚」と聞いては読まないわけにはいかない。

しかも探偵の主人公が社交界での名声を得ていきながら、恥をかいたり、やり返したり、意中の女性とかけひきをしていく様子が実によく書けていて、「まるでプルーストで探

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『浮世の画家』カズオ・イシグロ ②

物語の終盤に、小野の戦前からの知己・松田は言います。

「きみやおれみたいなのが昔やったことを問題にする人間なんてどこにもいない。みんなおれたちを見て、杖にすがったふたりの年寄りとしか思わんさ」

「気にしているのはおれたちだけだ。過去の人生を振り返り、そこに傷があるのを見て、いまだにくよくよ気に病んでいるのは、世の中できみやおれみたいな人間だけだよ」

と。

あきらめでも開き直りでもなく、また

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『浮世の画家』カズオ・イシグロ ①

『浮世の画家』は、ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロが、1986年に英国で発表した長編小説です。(英題は『An Artist of the Floating World』。)

舞台は戦後の日本。太平洋戦争が終わり、あらゆる価値観が変わってゆく時代に、それに翻弄される或る老画家を描いた作品です。

戦中、画家・小野は日本人への「戦意高揚」的な作風で名を成しました。やがて敗戦を迎え、焼け野原の町

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