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時価総額の図解 #会計の地図

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それではここから本文つづきです。

時価総額

世の中の人々の期待を合わせたもの

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会計の地図_2刷重版分修正.005

時価総額は、株価と株数を掛けたものだ。1株100円で1万株あれば、100万円の時価総額になる。世の中の人が株を買えば買うほど、株の値段も上がる。

そもそも、人はなぜ株を買うのだろうか? 

儲けるため。会社を応援したいから。動機や理由はいろいろあるが、多くの人は「本当はこの会社にもっと価値があると思っているから」株を買う。

たとえば、ある会社が新製品を出すとわかり、その製品が売れると思われたら時価総額は上がる。その会社の評価が上がると、株は買われる。つまり、「世の中の人の期待が集まっている」ということだ。反対に、ある会社が不正に売上を増やしていたことがわかったら、すぐに時価総額は下がる。その会社の評価が下がると、株は売られる。

このように、会社に対する期待の上がり下がりは、社会を構成する僕たち一人ひとりの評価によって成り立っているのだ。

時価総額は、いろんな人のいろんな期待や気持ちが集まった結果なので、必ずしも「会社の本当の価値」を表すわけじゃない。ただし、「集合知」という言葉もあるように、大きな規模で株が買われたら、市場での価値を決める1つのヒントにはなる。

上場企業に勤めている人は、自分の会社の現在の時価総額がどれくらいか、そして同程度の時価総額にはどんな会社があるのかをみてみよう。上場企業に勤めていなくても、自分が知っている会社や、取引先が上場していれば、その会社でもいい。

時価総額を押し上げるものの正体

図解について1つだけ補足する。図をみて違和感を覚えた人もいるかもしれない。本来は、BS上の「純資産」が記載されるところに、「時価総額」と書いたからだ。

それには理由がある。純資産は、あくまでBSをつくるときの価格(「簿価」という)を示しているが、時価総額はリアルタイムに価格が変わっていくもので(「時価」という)、この2つは両方とも会社の価格を表している。

そのため、本来その会社が持っている「純資産」を時価総額が上回ることがある。反対に、下回ることもある。この、純資産と時価総額の差が、「のれん」と呼ばれる無形の資産になる。

「時価総額」を考えるための事例

会計の地図_3刷.020

2020年6月、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社の時価総額を、電気自動車メーカーTESLAの時価総額が上回ったことが話題になった。トヨタ自動車は1937年に創業され、2019年の販売台数はグループ全体で1000万台を超えるほどの規模。

一方のTESLAは2003年に設立されてまだ17年、2019年の販売台数は約36万台(トヨタ自動車の4%弱)しかない。それにもかかわらず、時価総額ではトヨタ自動車を上回った。

なぜ、TESLAはここまでの時価総額になったのか。まず、電気自動車の市場に対する期待がある。世界中で環境問題が大変な状況になっていることが、環境に配慮した電気自動車のニーズを生み、TESLAに追い風になっている。イーロン・マスクという著名な連続起業家への期待もある。

今後の推移を見るポイントとして、TESLAは利益の半分を「温室効果ガスの排出権」の販売で稼いでいることが挙げられる。

企業や国などが温室効果ガスを排出できる量を「排出枠」として定める制度がある。その排出枠を超えて温室効果ガスを排出すると罰則が課せられる。しかし、自社だけでその排出枠に収まるように温室効果ガスを削減することは難しい。

そのため、「排出権取引」という制度が設けられた。排出枠を超えて排出をしてしまった会社が、排出枠より実際の排出量が少ない会社から排出枠を買うことで、その購入分に値する温室効果ガスを削減したとみなすことができる。つまり、排出枠よりも少なくできた会社は、その分を売却して利益とすることができる。

TESLAは電気自動車メーカーであり、そもそも電気自動車が温室効果ガスの排出の面で従来の自動車メーカーより優位であるため、罰則を受けることなく新たな収益源を生み出せている。世界共通の課題である「環境問題」にうまく適応し、かつ利益を生み出している点も、株主にとっての期待の材料になっているのかもしれない。

ただし、この時価総額は、あくまでも株を買う投資家の期待値を受けたものであり、必ずしもその会社の価値を表しているわけではない。そのため、この高い評価が、ある日突然崩れることも想定される。だからこそ、今だけの時価をみるのではなく、今後の推移にも注目していきたい。

会計の地図.126

「時価総額」が埋まった。これまでと色を分けて、簿価は黄色、時価は紫色にしている。リアルタイムに価格が決まる時価は、社会からの評価が直接影響するのだ。次は、いよいよ「のれん」を紹介する。この本で最も伝えたいことの1つだ。

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