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「にぎり飯」ホラーショートショート

少年はお腹がすくと「にぎり飯」をたべる。

少年は貧しかった。

少年の家族は、母親1人だったが、その母親も少年に関心があるわけではなかった。

母は家にいることも少なく、家に帰ってきても、いつも知らない男が一緒だった。

少年はずっと生きづらさを感じていた。

しかし、少年は懸命に生きていた。

必死に生きていた。

お腹が空いて苦しくなると、必ずにぎり飯を食べて凌いでいた。

凌いで凌いで、なんとか生き延びて、
少年は中学生になった。

生活は変わらなかった。
変わったのは少年の体の大きさと、少年の思考。

少年も大人に近付いているのだ。

そんなある日、母がまた男を連れて帰ってきた。しかし、その男は今までの男とは違った。

少年に食べ物をくれた。

少年にやさしくしてくれた。

少年は、その男に好感をもった。
男の目は真っ黒で何を考えているかわからなかったが、自分に対してご飯や優しさをくれる男に感謝していた。

その男がよく家に来るようになった。

男と少年が話すことはほとんど無いが、
いつも食べ物をくれた。

少年は感謝していた。

そんなこんなで半年ほど経った夜。

少年が真夜中に起きると、男と母の声が聞こえた。

男が言っていた。

「あいつ、飯だけ食わせとけば黙る、都合のいいペットみてぇだな」

母は笑っていた。

少年は悔しかった。
悔しくて悔しくてたまらず、歯を食いしばり、拳を握り締め、布団の中で孤独を感じた。
でも、悲しみは時間と共に薄れた。
悲しみや苛立ちが薄れていくのと共に、少年は笑みが溢れるようになった。

男と母に気づかれぬように、笑いを抑える。

朝になり、男が帰っていく。

母が眠りにつく。

次の瞬間。


少年は母の口に自分の拳を押し込んだ。
苦しむ母。母の歯が自分のにぎり拳に食い込む。食い込むと血が出る。血が出れば出るほど、少年は生きている実感が湧いた。

自分がペットでは無いと思えた。


少年がいつも食べていたにぎり飯を、母の口へと押し込む。

血で染まっていく。
まるで梅干しのようだと少年は笑った。

母が動かなくなった。

少年は笑いがこらえられなかった。


もう母がいない。
母だったモノの目の前で、笑い続ける少年は、気づけば梅干し味のにぎり飯を口にしていた。

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