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「不幸を食べる芋虫」SFショートショート

科学の進歩と、イモムシ自身の進化が重なり、新しいイモムシが誕生した。

それは今までにないイモムシだった。

なんと、そのわずか5センチほどの長さ、小指ほどの太さのイモムシは、人の不幸を栄養に育つらしい。

多くの人々は、そのことに半信半疑だったが、何人かが利用し、その経験談を話すと、瞬く間に世間に広まった。


人の不幸をイモムシがどうやって食べるのか。
それは、夜におでこに乗せるだけであった。

夜におでこに乗せるだけで、人々の悩みを食べて成長し、それ以外の時は小さい箱にでも入れておけば良かった。

もちろん、眠るときにおでこに乗せたままだと、寝返りを打つとイモムシが潰れてしまう。
そのため、多くの人は、20分ほど眠る前におでこに乗せたのちに眠るのだった。

それだけでも効果は絶大だった。

人々はイモムシによって不幸な事を忘れ、それによって悩みが解消され、毎日心地よい気分で過ごすことができた。

もし嫌なことがあっても、イモムシに食べさせてしまうからと、心も広くなった。

世界中の人々が、イモムシを飼った。
実はこのイモムシ、低価格で買えるのである。

安くて、効果も大きい。
人々はイモムシを飼っているのが当たり前になった。

高所得者も、低所得者も、必ず眠る前にはおでこにイモムシを置いていた。

イモムシの誕生からわずか半年で、世界中にイモムシは広がった。

イモムシの成長は遅く作られており、人々は安心しきっていた。

そして世界中にイモムシが飼われて、3ヶ月後、まず初めて世界に誕生したイモムシ達が、サナギになった。

サナギになると、その期間は不幸を食べてはくれないため、サナギはベットの隅に置いておき、みんな新しいイモムシを飼うのだった。


数日後、世界が混乱に陥った。


サナギから次々とが生まれたのだ。
そしてその蛾は、大量の鱗粉りんぷんを部屋に撒き散らした。

飼っていた人々は耐えきれず、窓を開けて、蛾を外へ逃した。

そんな人がたくさん出たため、町中はすぐに蛾の鱗粉だらけになった。

キラキラと宙を舞い続ける鱗粉。
優雅に空中を舞う蛾。
それが新しい人々の不幸そのものになった。

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