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【#6】燕三条の産業クラスターの成功要因の仮説と、検証フレームワークについて

前回までの記事では、燕三条の地域が持つ先天的要素(気候・地形・食・水運・洪水/治水・祭・統治史)が、燕三条の人々に気質にどのような影響を及ぼしたのか、その関係性を明らかにしてきました。

今回の記事では、その人々の気質が、今までの燕三条の産地型産業クラスターの成功要因とどのように結びついているのか、そして、それが現代そして未来においても持続的に適用できるのかを検証していきたいと思います。

燕三条の成功要因は何か?

仮説①:忍耐強く危機を乗り越え、外からの学びを積極的に取り入れつつ、変化に対応することで、事業の転換を成し遂げられた?

私たちが燕三条の数多くの人々とお話を伺ってきてよく聞くのが、過去様々な危機や主力製品の存亡を繰り返しつつ、変化に対応し続けてきたということです。
古くは江戸時代に和釘の産地として大きく発展した燕三条ですが、その後明治に入り洋風建築が主流となる過程で、和釘の需要が減少します。その中で地域の職人は、需要が高まりつつあった刃物や鑢(やすり)、煙管といった他の金属加工製品にシフトしました。しかしそれらの製品も人々の生活様式の変化に伴い存亡を繰り返します。そこで燕三条は大正から昭和にかけてスプーン・フォーク・ナイフといった洋食器(カトラリー)の世界的産地として爆発的な発展を遂げるに至ります。

燕三条の金属加工の歴史は和釘から始まりました

そして主力製品の変遷の過程では、自分たちの職人技術のみならず、他の地域からの職人を積極的に招聘し、貪欲に知識や技術を吸収しました。例えば鎚起銅器については仙台や会津などの銅器職人が技術を広めたり、ナイフ製造には岐阜県関市の刀鍛冶職人を呼び、製造を成功させるに至りました。
このように、時代の変遷による主力製品の凋落という憂き目・危機に遭いながらも、「金属を加工する」という自分たちのコア技術を活かし、外からの学びを積極的に取り入れ、他の製品にチャレンジし、ピボットを繰り返してきた歴史を持っています。

燕市産業史料館では同地域の金属加工産業の変遷が分かりやすく解説されています
http://tsubame-shiryoukan.jp/index.html

それでは、この成功要因を支える燕三条の気質の要素は何でしょうか?
前回まで論じてきた気質から抽出すると以下のものではないかと考えます。

■燕三条共通の気質
●     我慢強さ
豪雪地帯・短い日照時間の中で、困難・苦難に対する我慢強さ、忍耐力が養われた。
■燕の気質
●     逆境での粘り強さ
度重なる洪水を乗り越え、東洋一の大工事(大河津分水)を成し遂げた「水害根絶クラスター」の価値観が形成された
■三条の気質
●     変化対応力
常に市場の要求・環境変化に敏感で、過去にとらわれず、柔軟にビジネス・立ち振る舞いを変化できる
●     吸収力
域外・専門外から新しいアイデアや知見を積極的に取り入れ、自分のものにすることができる


仮説②:地域があたかも一つの企業体であるかのような一体感と、多様性の共存により、相互連携して活動している?

町全体が一つの工場」「完全なる分業制」という言葉を、この地域の代名詞としてよく聞きます。
普通であれば一つの企業体が垂直統合ですべての工程を網羅することでトータルのコストが安くなり競争力も高まるはずです。しかし燕三条の場合、ほとんどの企業が特定の技術・工程に特化し、相互依存の関係を続けてきて地域が発展してきた歴史を持っています。
お互い別の技術やノウハウを持つ企業体の集まりが、うまく相互連携をしながら、地域として質の高い一つの製品を作り上げることができる特異さがあります。それこそが、この燕三条という地の凄みであり、成功要因の一つではないでしょうか?

スプーン一つをとっても、様々な製造工程がある。
それぞれの工程を、その工程が得意な企業が分業するのが燕三条の特徴

それでは、この成功要因を支える燕三条の気質の要素は何でしょうか?

■燕三条共通の気質
●      共存共栄・連帯感
米・海産物が豊富に取れ、何もしなくても食べ物に困らない土地柄から、「競争意識」の低さは人々の気質の特徴として言うことができます。
また、豊かな四季、食べ物の恵み、人柄の豊かさに育まれ、地域の人たちの地元愛の深さを随所に感じることができます。
その他にも、雪深い冬において、除雪作業など地域で協力してやっていくことが当たり前というマインド、地元の祭りを大切にする心、清酒消費量全国1位の新潟ならではの、人が集まって語らうことを好む風習も共存共栄・連帯感を支えるものとなっています。
■燕の気質
●      小さきもの連合の団結
洪水が影響し、藩も統治せず、力を持った地域の支配者がいないかったため、洪水や三条支配に対して集団で立ち向かう団結心が育まれました。
■燕・三条の気質の補完関係
燕気質・三条気質が共存することにより、気質の違いによる衝突が内在しながらも、両者が違う強みを持つことによる補完関係が成立しました。

産地型産業クラスターの構成要素への分解と検証

先天的要素から導かれた、これら二つの成功要因の仮説が、現代の産地型産業クラスターにおいて持続的に適用可能かどうか、また、6つの資本の存在・定義と関係性についてを明らかにしていきたいと思います。
その上で、産業クラスターを構成する必要要素を下記のように分解し、それぞれについて深堀をしていきたいと思います。

産地型産業クラスターの構成要素の全体像

A.地域エコシステム
単一企業のみならず同業種との連携、地域社会との連携により、どのようなエコシステムが形成されているか?
 
B.BtoB、BtoC
産業クラスターにはBtoB、BtoCビジネスが共存しており、どのような相互作用が働いているか?
 
C.地域ブランド
地域全体でブランドを構築し、地域全体の魅力として外部・内部に訴求できているか?
 
D.職人
産業のコアとなるのは職人の存在である。その地に職人が生まれ、定着していくような仕組みになっているか?

次の記事からは、この産業クラスターの構成要素の枠組みに沿って、同地域の持続的な成長発展のメカニズムがどのように働いているかを深堀していきたいと思います。

チーム想 髙橋佳希

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