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ミニプログラムとは:スマホ業界を激変させる最新トレンド徹底解説

日本では「WeChatとAlipayで中国からのインバウンド観光客にリーチしよう!」とか言ってる段階ですが、彼らの本拠地・中国ではこの両サービス、特にWeChatが打ち出した「WeChatミニプログラム(微信小程序)」(=WeChat内で動くアプリ)が世界のスマホ業界を巻き込んだ大きな動きを生み出しています。

リリースから1年でユーザー4億人を突破した「WeChatミニプログラム」。それに引っ張られるかのように、アリババ・バイドゥ・バイトダンスといった中国のトップIT企業が続々とミニプログラムに参入を始めています。

ミニプログラムによって、ユーザーのスマホ利用はどのように変わるのか。スマホアプリを作っていたサービス提供者にどんなメリットがあるのか。そして、世界のアプリ業界を支配してきたアップルとグーグルにどんな変化をもたらすのか。

本記事では、スマホ業界を大きく揺るがす「ミニプログラムとは何か」について、WeChatミニプログラムを主な事例に、様々な視点から徹底解説していきます。

0.ミニプログラム、3行まとめ

・ミニプログラムは、WeChatなどのアプリの中で動くアプリ
・ユーザーは、そのサービスが必要な時にだけミニプログラムにアクセスする
・アプリのダウンロード不要になるため、アップル・グーグルのアプリストアに大きな影響

1.ミニプログラムは「アプリの中で動くアプリ」

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ミニプログラムは「アプリの中で様々な機能を持ったアプリを動かせるプラットフォーム」です。WeChatミニプログラムであれば、WeChatの中で動くアプリを提供する形になります。

ここからは、ミニプログラムが具体的にどのような機能を実現しているのか、それによってスマホの使い方はどのように変わっていくのかを説明していきます。

1.1 ミニプログラム=ユーザーを特定アプリに滞在し続けさせる仕掛け

LINEを使っている人はぜひスマホで開いてみてほしいのですが、LINEアプリのメニューには「送金」「ゲーム」「マンガ」など、LINEの元々の機能であるメッセージサービス以外にも様々なサービスが提供されています。

こうなると、LINEアプリの中だけで「友達とメッセージや電話もできる、マンガも読める、ゲームもできる」ので、LINE以外のアプリを開かずに1日を終える人も出てくるかもしれません。

様々なアプリがミニプログラムを通じて目指しているのもこの状態です。WeChatミニプログラムであれば、「ユーザーが開いているのは常にWeChat、その状態で友達と話したければメッセージや音声通話、ゲームをしたくなったらゲーム」とWeChat内でユーザーのすべての欲求を満たし、時間(とお金)を使ってもらうことが目的になります。

LINEとWeChatで目指す方向性が同じながら大きく違う点として、LINEが「全てのサービスを基本的に自社で提供している」のに対して、WeChatのミニプログラムは「他社にサービス提供を開放している」ことです。これにより、自社のみで提供するのに比べてスピード感を持ってサービスを充実させることが可能になります。

「WeChatは他社のリソースを使ってWeChatをより便利なサービスにする、それによりユーザーがWeChatにより長い時間滞在するようにする」

これがミニプログラムの大きな特徴の1つです。

1.2 ミニプログラム=他社の力でアプリの満足度を高めるプラットフォーム戦略

他社のサービスを組み込むことで自社製品を充実させる。

このモデルは、アップル(iOS)とグーグル(Android)がスマホのアプリストアを通じて行ってきた戦略でした。スマホ環境をさらに充実させつつ、手数料という形でアプリ提供者から売り上げの30%を受け取る、すばらしいビジネスモデルを構築してきたのです。

そんなアプリビジネスに真っ向から切り込んできたのがWeChatのミニプログラムでした。WeChatの中で完結するミニプログラムであれば、アプリストアの手数料がかからないからです。

しかも、WeChatが抱えているユーザーは10億人越えと両アプリストアに引けを取らない規模で、アプリ提供者がそちらに移行するメリットも十分にあります。

ミニプログラムが、なぜスマホアプリ業界に大きな衝撃をもって迎えたのか、少しずつ見えてきたのではないかと思います。

2. ミニプログラムに参戦した中国のメガIT企業(テンセント、アリババ、バイドゥ、バイトダンス)

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ユーザーを自社サービスにロックしつつ、アップル・グーグルに流れていた売上を取り込むことができる。スマホアプリ業界を激変させるこのチャンスに、中国の数億人レベルのユーザーを抱えた各プラットフォーマーが参戦しています。

2.1 ユーザー10億越えの国民的メッセージアプリ:WeChat(テンセント)

中国版LINEとも言われる国民的アプリ「WeChat」。2017年1月にミニプログラムを初めてリリースしたこの分野の開拓者です。

リリースから1年を迎える直前の2017年12月にミニプログラムによるゲーム提供を公式に発表。DAU1億人を突破した跳一跳などヒットゲームに支えられ、リリースから1年となる2018年1月にはユーザー4億人を突破するなど、ミニプログラム業界の先頭を突っ走っています。

2.2 5億人の決済状況を把握:Alipay(アリババ)

WeChatに続いて参戦したのがアリババのAlipayミニプログラムです。

WeChatミニプログラムとの最大の違いは、中国で広く普及している社会信用スコア「芝麻信用(セサミクレジット)」の情報を使用できることです。

芝麻信用のスコアに応じてホテルやレストランで異なるサービスを提供したり(優良顧客限定の情報をユーザーごとに選んで配信するなど)が予想されます。

2.3 中国の検索最大手でAIに力を注ぐ:バイドゥ

中国3大IT企業・BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)の最後の一角・バイドゥも参戦しました。

バイドゥのミニプログラムは、画像認識など同社のAI技術をサードパーティーに提供するのが特徴(2018年12月を目途にオープンソース化予定)で、より高機能なサービスが多数輩出することが期待されます。

2.4 6億人以上にニュースを届ける:Toutiao

2018年9月にミニアプリに参戦を発表したのがニュースアプリのToutiao。中国のIT企業は長らくBATの3強と言われてきましたが、ニュースアプリのToutiao、ショートムービーのtiktokなどヒットアプリを連発して台頭してきたバイトダンスが提供するサービスです。

日本でのスマートニュースやGunosyの普及状況を見れば、ニュースアプリがこの分野に参加する影響力が見えてくるのではないでしょうか。

※TikTokでのミニプログラム提供も発表されています。

2.5 中国メガアプリによる「ユーザー滞在時間の奪い合い」

中国の主要IT企業が続々とミニプログラムに参入、ユーザーの滞在時間の奪い合いを始めていることが分かります。

この流れは中国国内だけのものでしょうか、それとも世界中に広がっていく流れでしょうか。

3. ミニプログラムの本領はオフライン→オンラインの誘導にあり

3.1 必要な時だけQRコードでアクセスすれば十分

ミニプログラムはこれまでのスマホアプリと違い、アプリを端末にダウンロードする必要がありません。窓口となる各アプリから、必要なときだけクラウド上にあるアプリにアクセスするような形をとります。

この違いはユーザーにとって「スマホの画面がごちゃごちゃしない」「スマホのストレージ容量を圧迫しない」という大きなメリットがあります。

月に数回しか利用しない(銀行振込、美容院の予約など)サービスのために、アプリをスマホ端末(の画面&ストレージ)に常駐させるのはUI的にも保存容量的にも効率が悪い、こういうサービスはミニプログラムで必要なときだけアクセスできれば十分。

これがミニプログラムの強みの1つです。上記動画でQRコードを読み込んでミニプログラムを使用するように、シェアバイクの機能は自転車のそばにいるときだけ使えればいいし、マクドナルドのクーポンはマックにいるときだけ開ければいいということです。

3.2 アプリのダウンロードを無くすことで、ユーザーを「オンラインに」呼び込める

そして、この「必要なときだけ呼び出せる」機能は、アップル・グーグルが提供してきたアプリストアが苦手としてきたものでした。

皆さんの中にも、ショッピングに出かけたときに「アプリをダウンロードして画面を表示したら5%割引」といったキャンペーンを見たことがある方も多いと思います(自分も某ドーナツチェーンで先日見ました)。数十円の割引のためにアプリをダウンロードする(使い終わったら消す)作業に躊躇する人も多い、つまりこのキャンペーンはあまりうまく行っていないことが多いです。

それに比べて、ミニプログラムは必要な間だけアプリにアクセスをすることができる。これまでリアル店舗でやりたいと思っていたオンラインへの集客キャンペーンをする場合、ユーザーの負担が明らかに軽くなります。

さきほど、中国のメガアプリ「ユーザーの滞在時間の奪い合い」という話をしましたが、前提としていたのは「スマホを見ている、オンラインになっている時間」の話でした。ミニプログラムは、これに加えて「オフラインのユーザーをオンラインに連れてくる」強力なメリットを持っています。

これまでアプリを作ってきたサービス提供者、そしてアプリストアを展開してきたプラットフォーマー(アップル・グーグル)が、ミニプログラムを意識せざるを得ない理由がだんだん見えてきたかと思います。

4. ミニプログラムを取り巻く各プレイヤーのメリット

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ここからは、スマホを取り巻く各プレイヤーの視点でミニプログラムについて見ていきます。

4.1 スマホユーザー:状況に応じたサービスの提供で使い勝手が向上

さきほど説明したように、アプリのダウンロードが不要になることで、スマホの画面やストレージがすっきりします。

それに加えて、「そのとき、その場所で必要(あると嬉しい)サービス」がQRコード経由などで提供されることで、ユーザビリティが大きく向上します。

ミニプログラムは、

・多くのユーザーに
・それぞれのユーザーの状況に合わせたサービスを
・手軽に提供

を実現する、スマホユーザーに優しい“アプリの次の形”になっています。

4.2 アプリ提供者(1):プラットフォームへの支払い削減

アップル、グールグルのアプリストアでは、アプリの売り上げの30%がプラットフォーム側に支払われる形となっていました。いうまでもないですが、30%というのはとても大きな割合です。

ミニプログラムでは、新しいアプリ(サービス)を提供するときに、両者のアプリストアを経由する必要はありません。両社に代わるプラットフォームとなるWeChatやAlipayへの支払いはそれなりに発生すると思いますが、これまでの30%という暴利を取られる可能性は低いと考えられます。

WeChat Payは店舗での利用の場合は手数料が1.5%~3.5%。WeChatミニプログラム内での課金がこれを基準とした場合、5%程度に抑える可能性もあるのではと考えられます。

4.3 アプリ提供者(2):プラットフォームが持つ情報の利用

ミニプログラムは、プラットフォームとなるアプリ(WeChat、アリペイなど)が持つ情報を利用することができます。例えば、アリペイ内で起動するミニプログラムは、アリペイが提供するユーザーの社会信用スコア「芝麻信用」の情報を使用することができます。これにより、ユーザーの信用度に合わせて提供するサービスを変更するといったことが可能になります。

今後、さまざまなアプリがミニプログラムのプラットフォームとして参入を目指すと思われますが、リーチできるユーザー数以上にミニプログラムに提供できる付加情報が差別化のポイントになると思われます。

4.4 プラットフォーム:ユーザーの滞在時間の増加

プラットフォームとなるアプリのメリットは、「これまで他アプリに流れていたユーザーの時間を、自社サービスで占有できる」ことです。

これには様々な効果があるのですが、

これまで知ることができなかったユーザーの行動を知ることができる(ユーザーが他社のアプリで漫画を読んでいると「どんな漫画をどれくらいの時間読んでいるか」が把握できないが、ミニプログラム内でマンガを読んでもらえばこれらのデータが取れる)

ことが一番大きいと思います。あとは、

・広告収入が高くなる
・他サービスへの流出が防げる

といったところでしょうか。

5. ミニプログラムが変える、スマホアプリ業界の今後

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5.1 人気サービスは既にアプリストアを回避

これまでアプリメーカーがApple・Googleのアプリストアを利用していたのは、「ユーザーにリーチする方法がストア以外にない」というのが主な理由でした。

なので、「動画配信サービス・Netflix」や「オンラインゲーム・フォートナイト」など、既に自分たちが直接リーチできるファンを多く持つ企業が中心となり、アプリストアを通さずにユーザーに直接サービスを提供する試みが始まっています。

5.2 ミニプログラムはアプリストアのビジネスモデルを破壊する

WeChatは現時点で10億人以上のユーザーを持つ中国では誰もが知る国民的アプリで、リーチできるユーザー数はアップル・グーグルの両ストアに引けを取らない十分なものです。

中国での動きをきっかけに各地域で大きなユーザーを確保するメガアプリ(日本ならLINEなど)がミニプログラムに参戦、世界のスマホアプリビジネスが大きく変化していく可能性は高いのではないでしょうか。

5.3 参考:ミニプログラムの情報サイト(中国語)

中国語のサイトになりますが、ミニプログラムのポータルサイトになります。

全体メニューの「小程序」からミニプログラム全体のランキング(最新、人気)、「小游戏」からミニゲームのランキング(最新、人気)を確認できます。

(twitter:@tech_nomad_

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