見出し画像

ディクショナリー 【刺繍缶バッジ#017】

 放課後の視聴覚室。わたしたちは向かい合い、見つめ合う。
「デーツ、あなたの辞書にはどんな単語でも物語が載っているっていうのはほんとう?」
「疑うなら、アプリコット、君の辞書を開いて読み上げてみればいい。そのあとでわたしがそれを補足してあげよう」
 わたしは促されるままに手元の辞書をひと息で開く、読み上げる。

 しろつめくさ【白詰草】
マメ科の多年草。ヨーロッパ原産。江戸時代に渡来し、各地に野生化している。牧草ともされる。茎は地をはい、倒卵形の小葉三個から成る複葉を互生。夏、長い花柄の頂に白色の蝶形花を球状につける。クローバー。オランダゲンゲ。ツメクサ。

 なつめは、瞳を閉じ、少しうつむく。知っている、とちいさくつぶやく。
「探される、葉。幸運は複葉に委ねた。丸い花は容赦なく摘まれる。これから長い船旅に出掛けるのだ。旅の主役ではない、よく言えば護衛。繊細なガラスの器を護るのが仕事。詰草、もがれた首がぎっしりと詰められてオランダから辿り着く」
 ふっ、となつめは息を吐く。わたしは思わず拍手をしていた。
「いいじゃない! それはほんとうの話?」
「そう、ウィキペディアに載ってたのを読んだことがあるから、ほんとうなのじゃない? もう少し詳しく調べて、ちゃんとした台本に起こそう」
 なつめは、そう言って笑いかける。
 わたしたちは演劇部。部員は実質、わたしたちふたり。幽霊部員(ゴースト)にささえられてなんとかやってきたけれど、後輩に恵まれることもなく、今度の文化祭が演劇部最後の公演になりそうだ。演目は決まっている。
『ディクショナリー』
……

ディクショナリー
上記の短編小説の表紙から作られた刺繍缶バッジです。
「ディクショナリー」は有料noteですが、全文をお読みいただけます。
ぜひ、ご覧下さい。

ポーチに合わせるとこのような感じになります。

表面

裏面

[サイズ]:φ54mm
[素 材]:刺繍糸、布、ブリキ、鉄

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?