Hiroki Takahashi

1979年生。購入した本の記録や読了した本の感想などを記したいと思っています。

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1979年生。購入した本の記録や読了した本の感想などを記したいと思っています。

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最近の記事

 市川沙央『ハンチバック』(文藝春秋、2023)

 第169回芥川賞受賞作。7/20のTBSラジオ Session内で書評家の倉本さおりが激賞していて、興味を持った。河野真太郎さんも『文學界』の新人小説月評内で取り上げたとのことだった。Twitterでは以下のように述べている。  河野さんの言う当事者性に関して倉本さおりは読書行為自体、健常者中心の行為であることをこの作品が改めて指摘をしたことを強調していた。作品中では読書行為自体がマチズモであるとはっきりと述べられる。  以下、引用。  このように「当事者性」を呪いの言

    • 島田潤一郎『あしたから出版社』(ちくま文庫、2022)

       島田さんの夏葉社のことを知ったのは吉祥寺の百年だったはず。島田さんが夏葉社を立ち上げたのは2009年で多分その頃に百年で夏葉社のことを見かけて、絶対好きになる出版社だから安易に読み始めると抜け出せなくなると思って、夏葉社や島田さんの本を見かけても手にするのを避けてきたというあまり理解されないことを今までやってきたのだった。最近ブックスルーエで島田さんの『電車の中で本を読む』をついに購入したのをきっかけにちくま文庫版の『あしたから出版社』も購入した。本当だったら島田さんのよう

      • 滝口悠生『高架線』(講談社文庫、2022)

         むちゃくちゃ面白い。文句なしで面白い作品。寝たのに目が覚めてしまった深夜1時過ぎから空が白むまでずっとページを捲る手が止まらなかった。気がついたら朝4時40分。あまり自分が読んだものを人におすすめすることはないんだけど、これはおすすめの一冊。プロットと小説手法の両面で満足できる。  この物語は西武池袋線、東長崎駅周辺にある築50年近くのアパート、かたばみ荘を巡るものである。西武線沿線の物語というのもまた良い。このかたばみ荘はどういうわけか、そこで暮らす住人が転居する際、自

        • 夕木春央『方舟』(講談社、2022)

           この作品も読むのに一週間ほどかかった。2023本屋大賞の候補作。たしか22年末の『本の雑誌』でミステリの読むべき本として紹介されていたような気がするし、往来堂書店の高橋さんのnoteで本屋大賞の選定の際に名前が挙がっていたため読んだ。  帯の文言はいささか大げさだし、好みかどうか聞かれれば300ページのうち250ページは素朴にうーん、退屈だったと答えると思う。というのも語り手があまりに自分の語りを意識していないように思えるからだ。なんというか探偵役のサポートにもなれていな

         市川沙央『ハンチバック』(文藝春秋、2023)

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        • 読書記録
          7本
        • イギリス文学関係
          1本
        • 人文学
          1本

        記事

          千葉雅也『現代思想入門』(講談社、2021)

           ノロノロと3週間ほどかけてようやく読み終わった。なぜこんなに読むのが遅いのだ。  前半三章がデリダ、ドゥルーズ、フーコーの3名の紹介となっていて、脱構築の紹介が非常に分かりやすい。個人的にはドゥルーズを通過してきていないので、ややイメージしにくかったが、デリダ、フーコーに関しては非常に分かりやすく頭に入ってくる。後半はラカン辺りまではついていけるのだが、否定神学がどうしても頭の中に入ってこないのはこちらの頭の問題なのだが、やはりそれを思うと、前半の三人の紹介は非常に面白い

          千葉雅也『現代思想入門』(講談社、2021)

          キャサリン・マンスフィールド『キャサリン・マンスフィールド傑作短編集ーー不機嫌な女たち』(白水社、2017)

          気になったのは「見知らぬ人」(“The Stranger”)「人形の家」(“The Doll’s House”)。編訳者は芹澤恵。日本オリジナルの収録作品で女性の揺らぐ心理を扱った作品群を収録したとのことだが「蠅」も収録されている。解説は木村政則。「ガーデン・パーティ」は1922年出版で「蠅」と同年。収録作品は以下の通り。 Bliss「幸福」 The Garden Party「ガーデン・パーティ」 The Doll’s House「人形の家」 Miss Brill「ミ

          キャサリン・マンスフィールド『キャサリン・マンスフィールド傑作短編集ーー不機嫌な女たち』(白水社、2017)

          川上未映子『春のこわいもの』(新潮社、2022)

          2022年の2月に出版された短編集。コロナウィルスのパンデミック下を描いた作品群と言えるだろう(実際、コロナ文学というカテゴリーもあるそうだし)。刺激的で面白かったのは「あなたの鼻がもう少し高ければ」という作品。美容整形をするためにギャラ飲みに志願する若い女性がそのギャラ飲みをセッティングしている女性たちにすげなく拒絶されて、同じく拒絶された女性と酒を飲んでやり過ごす物語で二人の女性が何者かになれるわけではないという一種の絶望のようなものを提示する結末が描かれる。「花瓶」は一

          川上未映子『春のこわいもの』(新潮社、2022)

          宇佐見りん『くるまの娘』

          『推し燃ゆ』は未読だが、複雑な家族の環境を描く物語として惹かれた。母は記憶に問題があって(脳に疾患を抱えていて)、時折自らの心をコントロールできなくなる。父は怒りをうまくコントロールできず、時折暴力的になることがある。そんな家族に距離を取るために、三人兄妹の長兄、末弟は家を出るが、主人公であるかなこ(かんこと物語の中では語られる)は家を出ることができない。  家族に問題があるにもかかわらず、その家族を捨てることができないという物語は山ほどあるだろうし、その結末部分でその家族と

          宇佐見りん『くるまの娘』

          高瀬隼子『犬のかたちをしているもの』

          第167回芥川賞受賞者で『おいしいごはんが食べられますように』の作者が第43回すばる文学賞をとった作品。 主人公は子宮に持病があり、子供が産むことにかなり抵抗のある女性で、肉体的な関係に積極的になれないと説明される。その恋人(郁也)が大学の同級生である女性(ミナシロさん)に金銭を渡して肉体関係を持っていたのだが、酔った勢いで避妊せずに妊娠させてしまう。妊娠したミナシロは子どもを持つことにかなり抵抗感を持っていて、主人公にもらってくれませんかと提案するところから物語が始まる。

          高瀬隼子『犬のかたちをしているもの』