見出し画像

四書五経『大学』が語る無為自然

能登半島地震で亡くなられた方々へ衷心よりお悔み申し上げます。 また、被害に合われた皆様にはお見舞いを申し上げますとともに、一日も早い復旧を心からお祈り致します。


四書五経と弟子規、学ぶ順序

四書五経と呼ばれる経典(優れた教えの書物)があります。四書は『大学』『論語』『中庸』『孟子』、五経は『易経』『詩経』『書経』『礼記』『春秋』からなります。これらは東洋思想においてのセット書籍で、学び、そして生きる上で入門シリーズの位置づけです。

一方で『弟子規』は、本格的な学びの前にひらがなや数字を覚えるような、基礎的な位置づけになります。東洋思想では、学ぶ順序はとても重要視されています。物事の捉え方にも、順序(本末)が常に明確にされています。

つまり強調したいのは、例えば『弟子規』を分からないまま『論語』を読んでも、意味が分からないということです。そもそもの基本概念を理解していないからです。ましては『三国志』や『孫子』に手を伸ばしても、活用できる部分は限定的になるでしょう。掛け算が分からないまま微分積分や統計学を勉強するようなものです。

学びの順序:
小学《三字経、弟子規》(文字の形、意味、発音~)
→四書《大学、論語、中庸、孟子》+《孝経》
→五経《易経、書経、詩経、礼記、春秋》
→五子《荀子、揚雄、文中子、老子、庄子》
→四史《史記、漢書、後漢書、三国志》…続く

*三字経よりまとめたもの

東洋思想の特徴

東洋思想には上記のようにたくさんの経典や教えがあり、それぞれの視点や立場でさまざまな理論を展開していますが、本質的に核となる考え方は共通するものがあります。西洋思想との違いにおいて東洋思想のひとつの特徴を挙げると「切っても切れない」という考え方があります。

西洋思想:分別(同等や対立する関係)
東洋思想:派生(一部を共有しながら異なる関係)

この世の全ては相互に影響を及ぼし合っていると捉え、物事の順序や本末や関係性などを意識することが重要です。学びの順序についても同様です。

『大学』が語っていること

前回の記事で、無為自然について「やるべきことが自然の法則に従っている状態」と定義しました。「道」つまり宇宙万物の法則を認識し、それに従って積極的に行動をすれば色々なことがうまくいくようになります。行動をする際のポイントとして『大学』の中では「在明明德、在親民、在止於至善」という三つの綱領が書かれています。

また『大学』には有名な「格物、至知、誠意、正心、修身、齊家、治國、平天下」という八条目があります(意味については以前の記事①をご覧ください)。この八条目は三綱領に以下のように対応し、より具体的になすべき行動を表しています。

  1. 明明德→格物、至知、誠意、正心(自己認識の修行)

  2. 親民→修身、齊家、治國、平天下(人間関係の修行)

  3. 止於至善→入道(宇宙万物の法則と調和する)

『弟子規』と『大学』の切っても切れない関係

ここで、やや専門的ですが『大学』の出だしの抜粋を掲載します。

大學之道、在明明德、在親民、在止於至善。 知止而後有定、定而後能靜、靜而後能安、安而後能慮、慮而後能得。(※1)  物有本末、事有終始。 知所先後、則近道矣。(※2)

古之欲明明德於天下者、先治其國。 欲治其國者、先齊其家。 欲齊其家者、先修其身。 欲修其身者、先正其心。 欲正其心者、先誠其意。 欲誠其意者、先致其知。 致知在格物。 物格而後知至、知至而後意誠、意誠而後心正、心正而後身修、身修而後家齊、家齊而後國治、國治而後天下平。

自天子以至於庶人、一是皆以修身為本。(※3) 其本亂而末治者否矣。 其所厚者薄、而其所薄者厚、未之有也。 此謂知本、此謂知之至也。

『禮記·大學』古本

※1 知止而後有定、定而後能靜、靜而後能安、安而後能慮、慮而後能得。
この部分は三綱領に従って積極的に行動すると結果を得られる、つまり学びについての因果関係を明確に示し、学ぶ人のモチベーション向上を狙っています。

※2 物有本末、事有終始。 知所先後、則近道矣。
ここは物には「本末、事には終始があり、その後先を知ることで入道に近くなる」こと、学ぶ順序の重要さを再度リマインドし、入道への秘訣を示しています。

※3 自天子以至於庶人、一是皆以修身為本。
この部分は「平天下をする天子から庶民に至るまで、みな修身を根本とする」という意味で『弟子規』はこの「修身」に特化しています。つまり『大学』の中で「修身」という部分を抽出し、より詳細かつ具体的な行動をイメージできるように説いているのが『弟子規』という関係です。

ところで、八条目の最初にある「格物」ではなく、なぜ途中にある「修身」を根本に据えているのでしょうか?それについては次回に書きますね。

車文宜・手計仁志

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?