スポーツ愛好家やアスリートにおける怪我や痛みをどのように対応するか

長沼郁生 柔道整復師、NSCAジャパン認定検定員 ブルザイズ東京(アメリカンフットボールXリーグ)ストレングスコーチ、埼玉工業大学ラグビー部S&C

スポーツ外傷を専門とする接骨院の元院長であり、現在はスポーツクラブでのパーソナル指導やストレングスコーチとして現場に立つ長沼氏が述べる、状態の評価をする上で考えるべきこととは。

主観と客観、両者の視点で診る。指導者側から見るとエラーや代償動作が起きているが、本人は問題ないと考えているパターンや、その逆の場合も考えられるため、必ず相互間の認識を確認しつつ、整合性をとることで正確な評価とその対応に臨むことが可能となる。以下が主なものである。いずれも全体的な視点と局所的な視点から捉えるようにし、動きの悪さはどこから来ているものかを考える。その部分に起因、帰結するのか、他箇所の影響が結果として出ているのがその箇所なのかを見定める必要がある。
主観:問診、視診、触診、動作チェック
客観:ROM(関節可動域テスト)、MMT(徒手抵抗テスト)、画像診断(X線、MRI等)
よくある「使い方が悪い」という言葉は、何を以てそう伝えているのか。実際にROMやMMTでチェックするところまで行えているのか。動作指示の際の施術者の言い方の些細なニュアンスや、テストを実施する環境によってもそれらを大きく変動させる要因となる。

スクワットにおいても、膝から曲げるスクワットなのか股関節から曲げるスクワットなのかでその患者さんの筋力や柔軟性を把握できることがあるが、ROMやMMT等の理学検査やFMS(Functional Movement Screen.動作評価法)といったふるい分けのようなチェックを行うと、患者側としても理解しやすい。

「使い方が悪い」という言葉は施術者の主観であって、客観ではない。歩行や階段昇降といった、院内での動作を観ただけで状態がわかるという技術の習得や、各々の経験に基いた評価を行うことも大切だが、競技によっては長時間の酷使により終盤で痛みが出てくることもある。それを踏まえると、特定の姿勢、動作評価法にのみ依存しすぎる事の危険性が見えてくる。あくまでそれらは有用かつ貴重なデータであるが、それが競技レベルの動作や負荷を反映できているかと言えば、決してそうはならない事をお分かり頂けるだろう。

その競技のコーチならば別だが、単純なテストや評価に終わらず、実際の現場で選手の動きを観なければわからない部分もある。その上で検査法からのデータと照らし合わせることで、より正確なデータを作成することができるのだ。チームの選手に助言したはいいが、正確に内容を理解、共有できているかを確認しないと、その選手は言われた言葉を、施術者の意図とは異なる意味合いでチームの監督に伝えてしまうこともある。監督やコーチというのは、その競技における指導のトップである。その指導そのものを否定することにも繋がりかねないため、評価からの進言、メニューへの導入は監督、選手、施術者、またマネージャー等との極めて密な連携と協力の元、正確に行われなければ成果は得にくい。

治療から現場復帰というのは、一時的なものに留まらず、長期に渡る広い視点で観ていく必要がある。それだけ対応すべきことは多角的、かつ深くなっていく。施術側もしっかりとした根拠のあるトレーニングを指導すること。そして施術側もトレーニングを実施し、筋力向上や動作の改善を自ら行い、患者側に示していくことも必要である。そのためには日々の勉強、研鑽は欠かせない。「指導者たる者、実践者であれ。」