膝関節のアスレティックリハビリテーションにおける膝関節周囲筋の機能改善の実例

斉藤尚志
玉川大学サッカー部チーフトレーナー
日本体育協会公認アスレチックトレーナー、NSCA-CPT

膝関節の傷害のアスレティックリハビリテーションにおいて膝関節屈曲筋および伸展筋の重要性は周知のとおりであるが、今回は膝関節屈曲筋であるハムストリングス、特に外側に走行する大腿二頭筋について実例を交えて考察する。

大腿二頭筋は坐骨結節に起始する長頭と、大腿骨に起始する短頭に分けられ、脛骨外側顆および腓骨頭に停止し、その機能は股関節の伸展、外旋及び膝関節の屈曲、外旋である。また、短頭が総腓骨神経支配なのに対し、長頭は腓腹筋やヒラメ筋といった膝屈曲筋や、後脛骨筋や長母指屈筋といった足関節底屈筋と同じ脛骨神経支配である。

ここからは現在活動している大学サッカー部において膝周囲の傷害に対し大腿二頭筋に重点を置いて行ったアスレティックリハビリテーションの実例と、その中で私が考える見解を述べる。

実例①
膝前十字靭帯損傷のアスレティックリハビリテーションにおいて

復帰目前に1対1のディフェンス練習を行っていた際、膝に違和感を感じ、その後自動運動での膝関節完全伸展時にひっかかりを感じるようになった。

そこで腹臥位で自動での膝屈曲動作を行ったところ、患側において下腿外旋が少ないことが分かった。
このことから、大腿二頭筋の機能不全、及び膝関節のスクリューホームムーブメントの破綻が考えれる。スクリューホームムーブメントは大腿骨内外顆部の周囲径差により発生する運動であり、OKCにおいては膝関節伸展時に伴う脛骨の外旋、反対に膝関節屈曲に伴い脛骨は内旋運動を呈する。CKCにおいては脛骨が固定されるため、相対的に大腿骨の内外旋の動作が発生することとなる。この機能による運動の妨げは膝関節にとって非常にストレスとなる。

そのため、徒手抵抗負荷を用いた膝屈曲トレーニングの実施に加え、座位でのレッグカールマシンを行う際に、下腿をやや外旋位で屈曲させることにより大腿二頭筋をメインにアプローチをした。

また、股関節や下腿の柔軟性、特にCKCにおける股関節の内旋可動域を高める目的でフォームローラーを用いて大腿筋膜張筋~腸脛靭帯、外側広筋などを緩めるようにした。
その結果、1週間でひっかかり感は減少し、2週間で喪失した。復帰後も先述のエクササイズを継続することで問題なくプレーすることができている。

実例②
膝蓋骨脱臼既往のある選手に対する慢性疼痛のアスレティックリハビリテーションにおいて

膝蓋骨脱臼の既往のある選手が、シーズンが進むにつれて患部に疼痛があらわれ、シーズン終盤にさしかかるとテーピングを巻いていても試合後には痛みや脱力感がでるようになった。
トレーニングでは、クアドセッティング※に加え、前述と同じく下腿外旋位でのレッグカールマシンの使用や膝周囲筋のストレッチを増やした。

※クアドセッティング…、パテラセッティングとも呼ぶ、等尺性で行う大腿四頭筋の筋力訓練法。座位にて膝の下に枕やタオル等を入れ、膝裏を床に押して付けるように膝を伸ばして行う。バリエーションとして立位で行う場合もある。
翌週の試合では、不安感を減少させるためテーピングは巻いたが、試合後の疼痛や脱力感はあらわれなかった。

以上の事例からみられる私の見解として、

1) 大腿二頭筋短頭と外側広筋は密な関係にあり、トレーニングやリリースを行うことで膝関節の伸展時におけるスクリューホームムーブメントが回復した。

2) 大腿二頭筋の筋力強化により屈曲時の下腿外旋力が向上し、また立位においては股関節内旋可動域及び下腿固定時の大腿骨内旋力が向上したことでスクリューホームムーブメントがスムーズに起こるようになり膝関節周囲組織の動作の正確性があがった。
以上の2点を獲得できたことが影響していると考える。
またアナトミートレイン(筋膜連結)の観点から大腿筋膜張筋や長腓骨筋、前脛骨筋などにもアプローチすることにより大腿二頭筋の機能を高めることができるため、多方面からの分析に基づきメニューを立案する事が重要である。