学生スポーツにおけるアスレティックリハビリテーション導入時に考慮すべきポイント

山根美桜 日本体育協会公認アスレチックトレーナー、某中高男子バスケットボール部トレーナー

スポーツ傷害が起こるのはプロに限った話ではない。プロと同じ程度の傷害が、学生スポーツでももちろん発生する。しかし市販の書籍や、今まで学んできたアスレティックリハビリテーション理論(以下アスリハ)をそのまま学生スポーツに適用していくことは難しいと感じている。これまで筆者が数年間学生スポーツに関わってきた中で、日頃の所感と考慮している点を挙げる。

①学校生活との兼ね合い

ご存知の通り、大多数の学生は日中のほとんどの時間を学校で過ごす。当たり前のことではあるが、これを考慮せずに学生スポーツでの効果的なアスリハメニューは作リ得ない。

学校で過ごすということは、規則正しく生活できるという面では良いことではあるが、逆に考えると選手自身が自由に使える時間がないということでもある。アイシングで良く使われる「1時間サイクル」も学校にいる間にはなかなか実施できない。安静にさせたくても、本来の身分である学業の一環として良い成績を収めるためには体育の授業に出席しなければならない場合もあるだろう。
そういう場合のために体育の授業を担当する講師と状況を共有し、配慮してもらうよう働きかけるのも一つの手であると私は考えている。

そして放課後や練習後の生活リズムも考えて組まなければならない。私の所属しているチームの場合、選手の約8割近くが塾に通っている。すると、選手が自由にできる時間は本当に限られてくる。食事、入浴、宿題など、こなすべき事は多数ある。持ち時間の少ない学生選手にどれだけ普段の生活の負担にならないようにアスリハメニューを組み込めるかが大切となる。

②学生生活には行事がある。

本記事をお読みの方々ももちろんご存知だと思うが、学校生活はなぜかこれでもか!という程に行事が頻繁にある。テストや修学旅行などを含めると一年で約三ヶ月程に相当するのではなかろうか。

そこで最も考慮したいのは体育祭だ。トレーナーは様々なスポーツ種目の競技特性を学んでいると思う。ただ、体育祭でやる種目の競技特性をきちんと理解している人はいるだろうか?リレーなどの走る競技は分かるとしても、綱引き、棒倒し、騎馬戦はどうだろう?

チームにいると、競技へ参加して良いか否か相談を受ける。その際に競技特性を理解していないと、誤った判断をしてしまう可能性があり、チームだけでなく選手の貴重な学生生活にも影響が出てしまうことがある。また、本題とは少々逸れるために深くは言及しないが、傷害を受けていない健常な選手が部活動停止中に運動を一切しなくなることで、身体的、技術的に鈍ってしまうことも非常にもったいなく感じる。

③チームの練習と同等の負荷

ケガをしてチームから離脱していると、どうしてもチームから遅れているという気持ちが生まれる。実際は遅れていなかったとしても、ある種の疎外感を感じてしまうのだ。悪いことをしているわけではないのに、なんだかチームメイトから冷たい目で見られているような気がする。サボっているわけではないのに、サボっているだろうと言われてしまった。そういう経験のある選手も少なくはないはずだ。実際リハビリが必要だということは当事者たち以外からは分かってもらいにくい。

そこで、考慮すべきは『チームの練習と同等の負荷をかけること』である。
それは肉体的でもよいし精神的でもよい。例えばラン系のメニューをチームがやっているのであれば、同じように下肢に負担が来るものだったり、足が使えないのであれば腹筋群を使って精神的に頑張らせたり。患部がどこかによって変わってくるが、チームから切り離されている感じをなるべくなくしてあげたほうが選手は頑張れるだろう。また、全体練習の見える、コートのすぐ横でアスリハを実施する等の練習場所の配慮も、精神面に大いに貢献する事となる。

④選手の学年、残りの期間

これを考慮していないトレーナーはいないと思うが、学生スポーツで大切なのは時期である。現在何年生で、引退までどれくらいの期間があるのか、その選手のプレーレベルはどのレベルで、今のカテゴリーで競技生活を終わらせるのか、その先まで行きたいのかなど色々な期間がある。

例えば高校3年生の選手が全治3週間と診断を受けたが、1週間後に引退がかかった試合がある。そういう場合はどうするのが良いだろう?もしそれが高校2年生であったらどうだろうか?

やみくもに、指示された治癒期間にただ従ってしまうのではなく、適切な対応はその時々に応じて刻々と変化していくということをしっかり考慮して、今がその選手にとってどういうタイミングなのかをきちんと考えてあげたい。

以上4点についてつらつらと述べてきたが、輝かしい学生生活をよりよいものにすべく、周囲の人々と状況を共有し、相互に理解し、メニューを組む際にここまで踏み込んで考えることができれば、選手も一層やる気を出してアスリハに取り組んでくれるだろう。