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全身を捉えるようになる「骨盤の評価と治療」

2016/7/23、ウィリング横浜にて開催された、「進リハの集い」主催の第58回勉強会【全身を捉えるようになる「骨盤の評価と治療」】のレポートを記載します。
「進リハの集い」では、分野別のスキルアップセミナーを実施しています。さらにセミナー後には分野を超えて、意見交換を行う座談会も。プロフェッショナルな視点・分野を超えた多角的な視点、双方を学べるこの機会、ぜひご参加ください。

「進リハの集い」ホームページ http://www.shinreha.com/

臨床の現場において、骨盤の状態や動きを把握することは非常に重要である。個人差が激しく、繊細な評価が難しい部位でもあるが、骨盤を単なる一塊として評価せず、坐骨、腸骨、恥骨から構成される寛骨と仙骨の位置関係を知り、なおかつその上下の関節である腰椎と股関節を含んだ骨盤帯として見ることが大事である。

「木を見て森を見ず」。視点が限局的すぎては全体の観察が疎かになってしまう。限局的視点と全体的視点を使い分けることが骨盤の評価の第一歩となる。

骨盤が変位する要因として、頭蓋、硬膜、内臓、環境、生活習慣、産後、外傷等、様々な要因が考えられる。それぞれ一箇所のみの部位や起因に対して追求する団体もあるが、前述の通り、限局と全体の両面からの視点を持つことを推奨したい。また、「生活環境」の一因として、ベッドから左右どちら側に身体を起こすか、等の些細なことも影響するが、骨盤の状態により、実際にはどちら側に身体が起きやすいかは変わってくる。

現在、骨盤の評価は確立されたものがなく、一貫した見解が述べられておらず、骨盤機能評価に関して、現行の徒手評価の信頼性は低く、妥当性が検証された検査法は少ない。

しかしその中でも科学的根拠から確立されている部分もある。
仙腸関節は解剖学的、組織学的に可動性を有すること、体幹筋の収縮により仙腸関節の安定性が増大すること等である。また、恥骨結合は解剖学的、組織学的には運動性を有する構造に乏しく、可動性は小さい。そのため、可動性があり実際に上体の荷重を支える要となる、仙腸関節に焦点をあてての評価と治療が望ましい。

評価と治療に際し、既知の知見と主観的評価が重要となる。考え方次第では逆効果となる危険性をも含むため、必ず、施術前後に観察と触診を行い、変化を評価することを欠いてはならない。そのためには的確な触診能力が必須となる。触診が出来なければ、治療どころか評価も観察も正確に行うことはできない。

今一度、骨盤の正常なアライメントと触診の指標を確認しておこう。
寛骨においては、側面から観察した際、上前腸骨棘(以下ASIS)と恥骨結合が同一垂直面上にあることに加え、ASISと上後腸骨棘(以下PSIS)を結ぶ線が、ASISが下にある状態で水平面に対し5°以内、多くとも±15°の範囲内に収まっていることが挙げられる。

【ASIS】

仙骨に関しては、後面から観察した際、左右のPSISを結ぶ線の直角二等分線上に尾骨があれば正常なアライメントと考えることが出来る。

【PSIS】

まずはASIS、PSISを正確に触診する練習が必須である。他人のものでなくとも、自身のASISやPSISを探る事も非常に良い練習となる。また、ASISとPSISにもそれぞれ上部と下部が存在する。そのため、右ASISは上部を触り、左ASISは下部を触ってしまうと施術側が勝手に歪みを作り出すことになりかねない。極力、左右で同一部位の同一箇所を触診するよう意識しての練習を推奨する。

仙腸関節の特性
仙腸関節は平面関節であり、靭帯で結合されているため可動性を有する。仙骨のうなずき運動(ニューテーション)は、仙骨の前傾に対し、両側の寛骨は後傾することで骨盤は締まる。腸腰筋や骨盤底筋群は弛緩し、横隔膜は収縮するため、外力に依存しにくい機構である。

【ニューテーション】

仙骨の起き上がり運動(カウンターニューテーション)では仙骨の後傾に対して両側の寛骨は前傾することで骨盤は弛緩する。腸腰筋や骨盤底筋群は収縮し、横隔膜は弛緩するため、外力に依存する機構である。

【カウンターニューテーション】

これらは2°(2~3mm)程度の非常に僅かな動きであるため、その動きを観察、触知することは困難である。あくまで指標の一つとして考え、ニューテーションとカウンターニューテーションのどちらも可動性を有することが望ましい。

では、実際に骨盤の変位状態を評価していく。

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