社会人アメフトチームの練習環境による競技パフォーマンスと外傷の関連

柳川裕二 日本社会人アメリカンフットボールX2EAST横浜ハーバーストレーナー、NESTA-PFT、BESJ認定ピラティスインストラクター

社会人アメリカンフットボール2部チームの競技パフォーマンスと障害・外傷の関係性を考える。
社会人2部と言っても上は大学体育会系1部から、下は大学サークル部会の経験者まで揃っており、アメリカンフットボールに対するスキルや理解度はある程度の統一性を持つものの、そのレベルは様々であり、パフォーマンスにおいてもバラバラの現状です。
私が同チームを8年間見てきた中で、指導している理論に一貫性を持ち、チームメイト全員に同様のトレーニングを導入する事で身体操作スキルの向上を図りました。なによりも障害や外傷の発生が多いスポーツであることから、その受傷を極力0に近づけるべくメニューを作成し、指導してきました。

アメリカンフットボール競技の特徴として以下があげられます。
・コンタクト(接触)があること
・ヘルメットやショルダーなどといった防具(プロテクター)を装備すること
・ポジションが多数存在しポジションごとに体格の違いがあること
・1つのプレーごとに選手の交代が可能
・プレーごとに時間が止まること

また、アメリカンフットボールで起こりやすい障害や外傷として以下があります。
・頭部や頚部へのコンタクトから起こる外傷、障害(記憶障害や脳震盪またはバーナー症候群など)
・コンタクトからおこる接触性の外傷、傷害(打撲・捻挫・骨折・靭帯損傷など)
・非接触時における外傷、障害(捻挫・肉離れ・骨折・靭帯損傷・腱損傷など)

アメリカンフットボールにおける特異性
どのスポーツにおいてもそのスポーツ競技ごとに求められる能力やスキルというのは違いのあるものですが、ことアメリカンフットボールにおいて、こうもポジションごとに身体能力や体力、また体格に違いのあるスポーツは他にあまりないように思います。
また、アメリカンフットボールはプロテクターを装備しながら競技を行うため、端から見れば安全と思う方もいらっしゃいます。
もちろんそれは曲解で、大きな体格を持った選手同士が衝突すれば実際にそれだけの規模のケガが起こり得ます。

プロテクターによるメリットとデメリットの共棲
私個人としての考えでは、プロテクターをしているというのが心理的恐怖からくる抑制を払拭し、そのタックルの強度へと繋がっているのではないかと考えています。
競技は変わりますが、打撃系の格闘技においてパンチ力を測定する際、裸拳での数値よりも、グローブを着けての打撃のほうが、グローブ自体の重さによる力積の向上を考慮しても明らかな上昇値を示したという実験結果があります。これと同様の原理が前述のプロテクターにも当てはまるのではないでしょうか。

指導過程で感じた、それぞれの選手が学んできた環境の差
まずトレーニングどうこうの前に私が感じたことは、大学1部を経験している人間であれば、怪我の対応をしリハビリから競技復帰までを担当するアスレティックトレーナー(以下AT)や、トレーニングの指導からその競技のパフォーマンスの向上をサポートするストレングストレーナー(以下SC)など、その道のエキスパートが各分野にいる大学でプレーを続けられた選手もいれば、大学1部チームでもそういった専門的な分野分けがされておらず、トレーナーが数名存在するだけの環境でプレーしてきた選手や、学生トレーナーのみの環境で競技を続けてきた選手も存在します。

それが大学2部3部ともなると、トレーナー自体存在しないような部活も中にはあり、そういった部分で社会人に上がってから差が出てきてしまうこともしばしば起こります。
よって、トレーナーと関わるのは筆者が初という選手ももちろん中にはいて、まずは何をしてくれるのかがわからないなどといった声も多く聞きました。

そういった中で私自身が8年間最も気をつかったことは、そういった選手をよく観察し、その声に耳を傾け、しっかり聞けるようにすることでした。
よく、トレーナーは選手とコーチ(学生スポーツであれば選手、コーチ陣と保護者)の橋渡しになるのが役目であると言われますが、まさにそこが1番の課題であり8年経った今でもそれは毎年の課題であると痛感しています。

また、ただ単にフィジカルトレーニングやフットボールができれば良いというわけではなく、そういった環境を提供していただいているのだということを理解しながらスポーツそのものに取り組んでもらうことがなにより大事であり、人間形成や組織として成り立っていく部分ではないかと感じています。

トレーナーがいる環境といない環境での経験の差
選手によっては、その類稀なる運動能力の高さに依存する形が多く、日頃のトレーニングやメンテナンスすらほとんど行わないこともあり、その現状に慢心を持ってしまいケガに泣く選手も少なくありません。
それとは逆に、運動科学に精通しているコーチやトレーナーのいる環境でトレーニングを学んできた選手はやはり身体操作スキルも高く、活躍できるだけではなく傷害を受けにくいように感じます。

そういった教育を受けた経験のある選手はコーチやトレーナーにしっかり報告連絡相談ができる選手が多く、連携がしっかりとれるようにしておくことが怪我の防止に繋がり、何より選手生命の延長に寄与すると考えています。
フットボールではコンタクトなどの外的因子による傷害が多いと思われがちですが、筋力の強さやそのスピードに柔軟性がついてこれずに肉離れを起こしたり、そもそも身体操作スキルが低く固有受容器などのセンサーが低い選手は自ら筋肉だけでなく靭帯や腱を痛めるケースも少なくはないのが現状です。

固有受容器とは身体にかかる強い負荷から身体を守るセンサーの役割がありますが、とりわけこのセンサーが働きにくい選手が多いように感じています。この固有受容感覚を高めるべく、ウォーミングアップやトレーニングの中で、静的なフォームに限らず動的なものまで適切な動作が取れるように指示しています。
社会人ともなると過去に指導者に教わっていたり外で自分で学んでくることも見受けられます。それらを否定することなく聞き入れ、活用し、まずは自分から学ぶ姿勢を作ること自体に大きな意味があり、それらを促進しサポートすることも我々トレーナーの重要な役割に思います。

アメリカンフットボールチーム 横浜ハーバース