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【短編小説】「空中散歩」あとがき

 Fly me to the moon
(私を月に連れて行って)
 Let me play among the stars
(たくさんの星たちの間で遊ばせて)

 ポルノグラフィティの『アポロ』がA面だとすれば、作中では流れることのなかった、B面に収められていたのがこの曲、『Fly me to the moon』、――とでも言うような小説が、今回の『空中散歩』です(実際、執筆中はBGMにしていました)。
 
 しかし、いくら「私を月に連れて行って」とわれても、人類の叡智えいちをもってしてもなかなか到達できない月面に、小市民の樫村かしむらが、あの「かぐや姫」を連れて行こうなどと言うのは、どだい無理な話です。それが可能なのはむしろ、かぐや姫の方でしょう。「私を甲子園に連れて行って」とは、わけが違います。

 ちょうど、この小説を書いている時に、新聞の紙面にアメリカ企業の無人月着陸船「ノバC」が、月への着陸を果たしたという記事が掲載されました。そう言えば、1月には、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「SLIM」が、月面着陸に成功し、話題となったことも記憶に新しいと思います。
 そして、2日前の26日のことでした。月面で電力が不足し、長らく休眠状態にいた「SLIM」が、何と目を覚ましたとの報道が! まるで関係者の祈りが、月にまで届いたかのようです。 

 それにしても、かぐや姫が言うように、果たして人類は、何のために宇宙を、月を目指しているのでしょうか? 作中では、樫村がポルノグラフィティの力を借りて、暫定的ざんていてきに「愛」と言う答えを導き出しましたが、本当に愛(もしくは愛のかたち)なのでしょうか。
 そう言えば、『Fly me to the moon』は愛の歌であり、夏目漱石は、それこそ「I Love you」を、「月がきれいですね」と訳したことで知られているようですが(諸説あり)、もしかしたら月は、古来より愛を呼び寄せる引力を持っているのかもしれません。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。また次回作で、お会いできることを楽しみにしております。
                         第1話はこちらから

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