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秘密のカヲきゅん3

ゆかり子は話をすべて聞き終えると
「…ちょっと信じられない…」
とつぶやいた。それはトモヤにもよくわかる。トモヤ自身もまだ受け入れられないのだから。
「だよな…」
「…でも…」
ゆかり子は思った。
(もしこれがネズミが原因ということなら…)

ぜんぜん違う目的の研究から「若返り」のメカニズムを発見した
                                            ↓
詳しく調べて発表して薬作ったら「儲かる」かもしれない
            ↓
ついでにあたしも若返れるかもしれない

ゆかり子は恍惚な表情を浮かべている。
「おい…まさか、儲かるとか、自分も若返れるとか考えてんじゃないだろうな」
トモヤの指摘にゆかり子は我に返った。
「まさか…そんなこと考えるわけないじゃない…」
「考えてたな。全部顔に出てたぜ」
「ふん、考えて何が悪いのよ…でも実行はしないよ。母さんが実験体として扱われるのは賛成できない」
ゆかり子はやきとりにかぶりついた。3本のネギマが30秒もしないうちに全部口の中に消え、串だけがポイッと容器に入れられる。そしてあっという間にビールの缶がカラになる。
「確かに。俺もこの件については隠した方がいいと思う。なにひとついいことが思い浮かばないからな」
「…マウス…会社には見つかってほしくないからここでこのまま預かっててもらえる?」
「…いいけど…なんかやだなぁ」
「噛まれなきゃいいだけだよ。あとは…その…母さんの体内で何が起きているのか調べたいから…血液検査とかいろいろやんないと…」
ゆかり子はスマホをカバンから取り出すと何かを操作し、すぐにトモヤのスマホが反応した。
「アドレナリンに注意?興奮させない事?」
トモヤは意味が分からなくて顔をあげた。ゆかり子はカバンを肩にかけてソファから立ち上がった。
「私の勝手な見立てだと、アドレナリンがすべての始まりの気がする。だから母さんがなるべく興奮しないように見ててくれるとうれしい」
「よくわかんねぇけど…わかった」
「じゃ、帰るわ…」
ゆかり子はでかいあくびをしながら玄関を出て行った。

「あっ、オレのやきとりがない!!」
やきとりはおみやげではなく、ゆかり子の食料だったようだ。トモヤはチッと舌打ちした。

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