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『文庫版 地獄の楽しみ方』(京極夏彦 著)

【内容】
小説家の京極夏彦が、『地獄』である現実を生きることについて、若者たちに向かって語った講演を書籍化した本。


【感想】
この本の中で印象に残ったのは…

『愛は地球を救う』というキャッチフレーズは、言葉を雑に扱うことで、なんとなく良い雰囲気にしてお茶を濁しているだけではないか…要は、『地球という親のスネを上手くかじるために、人間の都合の良い状態にしておこう』という自己欺瞞である。

『〇〇に勝つ』も要注意で、『自分に勝つ』とかといった言説も、突き詰めて行けば、仮に自分が『勝った』としても、それまでの自分は負けたことになってしまうのではないか?
そんなの自己欺瞞なのではないか…

理屈ぽい話運びで、独自のロジックを駆使した語り口と、博覧強記の著者が、ガンガンに語っていました。
ちょっと聞いた感じでは、なるほど流石という気もしたりもしますが…
『愛は地球を救う』ネタとかに関することは擦られすぎている話なので、それをティーン向けとはいえ話してしまうのは、周りの人間から祭り上げられてしまって、突っ込まれることとかなくなってきたりしてるんじゃないかとも思ったりしました。

以前、数十人の会場で著者の講演会を聴いたことがあるのですが、かなり威圧的な雰囲気で、なかなかとっつきにくい印象でした。
一時、処女作の『姑獲鳥の夏』にはまり、その後、小説や対談集、自作の漫画まで、読めるものはみんな読んでいた時期があったのですが、その時の著者の佇まいと併せて、個人的に納得するものがありました。

知識やロジックって身を固めることで、何者からか身を守っている人なのだなあと…
まあ、本人がこんなこと書いてるのを読んだら、たかだか2時間程度の講演会程度でわかったように気になっているのが欺瞞であり、人というものを理解していない証拠であるとでも言われそうですが…

とここまで書いてきて、このタイプの語り方をする人間って知ってるなあ…アニメ監督の押井守に、喋り方も、斜に構えた感じなどもよく似ているなあと…
二人の佇まいの違いはなんなのかなあと思ったのですが…
押井守の場合は一般的にブレイクしそうでしないままになってしまいましたが…
京極夏彦は直木賞を始めとした様々な小説を始めとして、作家としても行くとこまでいってので、そこら辺は話振りも自然と大先生といった感じになっているのかなあと思ったりしました。

一緒に仕事をしたり、私生活で過ごしたりするのは、なかなか大変そうな人そうだなあと思いました。
とはいえ、しばらくご無沙汰だった著者の小説はを読んでみようかなあと思いました。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000361390

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