2022年 マイベストブック

◯はじめに
2022年も沢山本を読みました。年々1冊を読了するスピードは高まっていますが、その中でも「これは良かった」「2022年の私はこれを読んだんだ」という備忘録として書いていきます。それぞれ読書メーターに書き溜めていた感想と今回セレクトした理由みたいなものを簡単に書いておきます。

形式としては、
・作者名/作品名
読書メーター感想
選書理由
になります。

来年も良い本と出会えると良いな。それではどうぞ!



・阿部和重『クエーサーと13番目の柱』
導入部分で彼らが所属する組織だったり、そこでの行動だったりは理解しづらい部分もあるのだけど、少しずつそれが詳らかになり、雲行きが怪しくなっていく中盤以降は一気に物語の展開に引き込まれた。タイトルだったり、冒頭のダイアナ妃の交通事故だったりがきちんと伏線回収される辺りも含めて非常に読み応えがあった。ラストに余計な後日談を持ってこないで、レディオヘッドの「Airbag」で締め括るのは何だかカッコ良い。あとで聞いてみたけど、場面にめちゃくちゃハマっていた。中身もそうだけど、装丁も豪華で手元に残しておきたい一冊。


・阿部和重『ピストルズ』
上巻
『シンセミア』で起こっていた不可解な出来事の裏側にはこの菖蒲家が関わっている事が明らかになっていくあたりに、このシリーズの世界観が定まったような印象だ。前作が長い序章だったんじゃないかと思うくらいに怒涛の展開で、一気にこのシリーズに引き込まれた。
そんな物語が前作で脇役だった石川の視点から始まっていくのには驚いた。彼の田宮家を救えなかったこと、娘のSOSに気が付けなかった些細な後悔が菖蒲家の謎に迫っていくとは。そういう意外なところから物語が立ち上がっていくのも面白かった。

下巻
阿部和重作品で一番好きなシリーズだと確信するくらいグッと引き込まれた。物語も神町を出て、世界へとスケールが拡大していくその展開に夢中になった。加えて、しれっと『グランドフィナーレ』『ニッポンアニッポン』といった他作品が絡みついてくる展開に思わずニヤリとしてしまった。一方で、前作のどん底に突き落とされた田宮家だったり今作での抗えない宿命を背負わされた菖蒲家だったり思うと、ある意味で神町サーガは家族の物語としても読めるのかなと思う。

→定期的に触れていた阿部和重の作品を全部読むことになったきっかけの3冊。『クエーサーと13番目の柱』はまるでNetflixで長編ドラマを見ているような感覚で読み進めていたし、場面もくっきりと頭の中に映像として浮かんだ。『ピストルズ』は彼の過去作とのシンクロと物語の展開含めて『神町サーガ』の中で1番好きなパートだった。物語の中での登場人物とその人間関係を書き殴りつつ読んだくらいに熱中しました。


・稲田豊史『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーコンテンツ消費の現在形』
「ファスト映画って何?」という所から始まり、倍速視聴、事前にネタバレして視聴など自分にとっては信じられない事の連続だった。それでも、利便性を突き詰めていった結果としては受け入れざるを得ない部分についてはなんかモヤモヤしたな。
もちろん、人それぞれの楽しみ方はあるんだろうけれど、倍速視聴はしたくないし、余計なネタバレはしたくない。好きな作品に時間をかけて触れる事。誰かが作ったリストじゃなくて自分で良いと思った作品で、自分なりのネットワークを拡大していく事。今の自分が無意識にやっている事を当たり前に続けたい。


→映画を早送りすることに違和感を持っている自分の感性で良かったと思って、読み進めていた。でも、時代としてはそういう作品への触れ方も一つの普通になりつつある訳で。そんな普通を自分の中に受け入れたくないという意味でも、読んで良かった1冊。


・ヤマザキマリ『壁と共に生きる わたしと「安部公房」』
筆者の実体験を元にしながら、安部公房の作品解説が進められていく。客観的には捉えにくい部分もあると思われるが、その分しっかり筆者の中に彼の作品が落とし込まれているからこそ読んでいて非常に説得力があるのが良い。だが、決して筆者の自分語りで終わらず、彼の作品には現実の中で生きることの理不尽さを教えてくれ、コロナ禍で思いもよらない事が起こった世の中だからこそ、今彼の作品を読む意味が増しているのだという主張もちゃんと見えてくる。副読本として安部公房の作品に触れるのはもちろん、筆者の作品にも触れたくなった。

・安部公房『砂の女』
男を順応させてしまう砂と女の恐ろしさにグイグイ引き込まれた。特に女の描写が凄くて、特段何かに秀でている訳ではないのに、男の中の本能を引き出してしまう魔性さに、思わずこちらも惑わされてしまいそうだった。物語の展開自体も初見の時と変わらず面白かった。砂にさえ従っていれば、何も煩わしい事がない生活はある意味でユートピアだろうし、配給でしか得られない水の発見もある事を思うと、彼がこの生活を選ぶのも納得できる。初見の時はこの終わり方はバッドエンドだと感じていたが、今では砂の世界で生きるのは彼にとって最良の選択だったと思っている。

→この2冊はセットで読んで間違いなかった。サカナクションきっかけで安部公房を読んでみたかったけど、難解さで読み進められなかったのだけど、ヤマザキマリの解説が入ることでかなりクリアに安部公房作品を読み進められた。彼女の解説があったおかげでスムーズに安部公房に入門できました。


・梯久美子『原民喜 死と愛と孤独の肖像』
あえて自殺の話題から始める事で、いかに原民喜という作家が死に取り憑かれながら、生を全うしたのかという事がクリアに見えてきた。そんな彼の死生観は思わずこちらのメンタルが引っ張られそうなくらい刺激的なものだった。それでも、彼の経歴を追いかけていく中で、様々な死と原爆の惨状を直面したからこそ、こんな死生観が芽生えていたのかに納得した。
この手の本は、書き手なり作品の読み方が強く印象に残ってしまうから作品に触れる前に読むか迷うのだけど、この死生観を知っているのと知らないとでは原民喜作品に対する見え方が変わるので、読んで正解だった。

→かねてから気になっていた原民喜を知る上では欠かせない1冊になった。ガイドブックくらいの感覚で読んではいたのだけど、あまりに壮絶かつ孤独な日々を過ごしていた彼の人生に思わず気持ちが引っ張られるくらい濃い内容でもあった。来年は彼の言葉にダイレクトに触れってみたい。


・ヤマザキマリ『歩きながら考える』
日本と海外を行き来する彼女だからこそ、日本という国に対して感じた事は何だか新鮮だった。確かに日本では安全神話が当たり前ではあるけれど、それを享受し続けることの危うさはある。ただそれを一概に否定するのではなく、安全を受け入れながらも、ちゃんと疑いの目を挟み込んでいく事がまずは大事なのでないかと感じた。
また、彼女自身が刺激を受けた作品に対する姿勢も共感できるものがあった。純粋に好きというのはもちろん、客観的にその魅力を分析して、ちゃんと咀嚼している事が分かる文章に、その作品を触れてみたいと思わせる説得力があった。ヤマザキマリの考え方に魅了された1冊だった。

→安部公房の解説をきっかけに、彼女が持つグローバルな視点に惹きつけられて手に取った1冊。日本を否定する訳ではないけど、この安全さにいつまでも浸って良いのかという危機感を抱いてしまったし、他人に対して変に干渉せず、受け入れることが多様性の一歩なのかなと思った。なんにせよ、ヤマザキマリの考え方をインプットして間違いなかった。


・久保(川合)南海子『「推し」の科学 プロジェクション・サイエンスとは何か』
推しを持つこと、推すことはいかに人間の本質的な営みなのかをここまでちゃんと説明してくれる本はなかった。加えて、推しの尊さを説いたり、推し活の魅力を語ったりするテキストはいくつも見かけるけれど、その大半が感覚的というか主観的なものが溢れていると思う。(もちろん、それぞれの言葉で推しを語るのは大事!)そんな中で、本著はいかにそれを客観的、かつ科学的に分析してくれている事で、自然と推し活を肯定されるような気持ちになったし、より一層推しを推していこうと気合が入った。定期的に振り返る事で推し活の参考書にしたい1冊だ。

→推しが好きだからやっている推し活はこんなにも科学的に実証できるのかと目から鱗だった。もちろん、衝動的に動いてはいる部分もあるけれど、僕らは生理的に推しを追い求めてしまうのかなと思った。推し活をちゃんと肯定してもらえたので、より一層励もうと思います。

・宇垣美里『宇垣美里 1st フォトエッセイ 風をたべる』/『宇垣美里 フォトエッセイ風をたべる2』
1st
宇垣さんが持っている「心の中のアウトロー」への憧れと共感が止まらないエッセイだった。今年も色々と魅力的なエッセイには触れてきたけど、以前読んだ2も含めて彼女の思考が分かる『風を食む』はダントツで良かった。きっとこれから何度も立ち帰りたくなる1冊だけど、今回でいうと、「悩み過ぎて死にたくなるけど、1年後を考えればそれはもう忘れてる。だから1年待ってみない?」という表現にはもの凄く気持ちが救われる。好きなものに対する姿勢も、生き方も宇垣さんへのリスペクトが止まらない。

風をたべる2
好きな作品を熱く語る宇垣さんの姿勢にかねてから共感していた事もあり、手に取った。彼女が「私は私」と確固たる自分を持っている強さを感じられるエッセイに、より宇垣美里という人を好きになった。芸能の仕事は華やかさもありながら、根も葉もない誹謗中傷に苦しめられる瞬間もあるだろうけれど、それでも「私」を見失わない方法を模索し続けてきた彼女の「思考」を覗けるエッセイになっているのも良かった。
そんな「思考」と同時に彼女の人柄が読めるのも面白くて、惹きつけられる表現もあった。特に、論理的思考を持っていない人に対して、「言葉を尽くせ、辞書持ってこいよ」は間違いなく名言だ。

→宇垣美里という人がめちゃくちゃ好きになった。表に立つ人だからこそ、良くも悪くも色んな言葉を投げかけられる彼女だけど、そんな中でも自分らしくいられる「心の中のアウトロー」を持っている強さが純粋に素敵だって感じた。宇垣さん、リスペクトしちゃいます。


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