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知らない家族

前上さんは古物商の真似事をしていた。
古いものを買っては、フリマアプリや本物の古物商に持ち込み、金を稼ぐ。
ある時からはホームレスに換金すると声をかけて、協力してもらっていた。
その中のひとり、ヤスイと名乗るホームレスが持ってくるものは格別だったそうだ。
古い陶器やら細工物が多く、それらは高く売れる。
だが、ヤスイはそれらに添えて必ず何枚かの白黒写真を持ってきた。
前上さんとしては写真はあまり価値がなく必要なかったが、ヤスイが全部引き取れとうるさいので残らず買い取っていた。
量が溜まれば微々たる金額ではあるが売れるには売れる。
クッキー缶に入れて、わりとぞんざいに保管していた。
ヤスイが来るのは週に一度。その都度数枚。
気づけば1缶分、いっぱいに溜まっていた。

ーーそろそろ売るか。

写真を手に取り点検していると、あることに気づいた。
写真のサイズや質感、紙の厚さからいって撮られた時代はまばら。
なのに、映っている人間が全く同じなのだ。
祖父母、両親、息子に娘の6人家族。
そのうちの数人だけだったり1人だけだったりもするが、それぞれの顔や年齢は変わらないように見える。
缶の中にぎっしりと詰まった、とある家族の写真たち。
気味悪さを覚えた。
元よりどこから取ってきたのかもわからない古物を買い取っていたのだ。
警察沙汰になる前に、手に入れた場所を聞き出さなくてはならない。

前上さんは、もしかしたらこれは古写真ではなく、人の手によって作られたフェイクであり、何かの罠かもしれないと考えたのだ。
来週ヤスイが来たら聞いてみようと、来訪を待ち侘びた。
が、ヤスイは二度と現れなかった。

待てども待てどもヤスイは現れない。
痺れを切らして他のホームレスに尋ねてみると、山中にある廃墟で首を括っていたらしいと教えられた。
腐敗というには時間が経ちすぎていて、白骨化している部分さえあったそうだと。
この時点でヤスイを見なくなって2ヶ月しか経っていないのに、だ。

頭を混乱させたまま家に戻り、何気なしにヤスイの置いていった写真を見た。
この時初めて、写真に写る父親がヤスイとそっくりだということに気づいた。
写真の中でヤスイは幸せそうに微笑をたたえている。
このように笑う男であっただろうかと考えたが、最近のヤスイの顔を思い出そうとしても、顔だけを白塗りしたようにしか思い出せなかった。

胸の内がざわりとしたが、それ以上、前上さんは深追いするのをやめた。

前上さんは未だ古物商の真似事をして金を稼いでいる。
時折写真も買い取ってくれと言い出す輩がいて、見ればやはり同じ家族が写っているのだという。
まもなく2つ目の缶がいっぱいになるそうだが、前上さんは売るタイミングを計りかねていると話す。
「売ったら、今度は自分が父親としてそこに写る気がして」
古物商の真似事を続ける以上、今後も写真が溜まっていくのだろう。

気合いで怪異から目をそらそうとしているようにも見える彼が、恐ろしい目に遭わないようにと心からお祈り申し上げる。

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