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『運のいいやつら』

The lucky ones
Charles Bukowski

午後6時15分高速道路で雨に降られて渋滞している
こいつらは運のいいやつらだ、
従順できちんと雇われていて、
たいていは何も考えないよう何も思い出さないよう
ラジオを大音量でかける

これがオレたちの新しい文明だ:かつて人間が木や洞窟の中に住んでいたように今は車の中や高速道路で過ごす

車のギアを2速から1速へ1速から2速へと切り替えているあいだローカルニュースが何度も何度も流される

運の悪いやつが先の追い越し車線で止まり、ボンネットを上げている、そいつは雨が降るなか高速道路のフェンスにもたれかかり新聞を頭の上にかざしている

他の車はそいつの車を迂回し強引に隣の車線に入ろうとするもその車線の車は割り込まれるのを阻止しようとしている

オレの右側を走る運転手は赤と青のランプを点滅させるパトカーに追跡されているーー少しでもスピードを上げればアウトだ

突然大粒の激しい雨が降り出しすべての車が走るのを止めた

窓を閉めていても誰かのクラッチの焼けつく匂いを嗅ぐことができる

それがオレのではないことを願うばかりだ

雨が小降りになりオレたちはギアを1速に入れる;
オレたちが家にたどり着くのはまだ遠い先のことだ
オレは前の車のシルエットと運転手の頭の形を記憶する
ヘッドレストの上にあるステッカーがオレに訴えかける
“今日子供を抱きしめてやったか?”

豪雨がまた降り始め
突然オレは叫び出したい衝動に駆られる
ラジオから流れる男の声は明日の夜は70%の確率で小雨が降ると言っている

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