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【こえ #41】女性目線の当事者経験を受け取り届ける

山田 昌美さん


 山田さんは、ご自身と同様に声帯を摘出し声を失ってしまう状況に直面した女性から、こう言われた。「先生(医師)に聞いてもわからないことや知らないことが、山田さんのインスタにすべて出ていた。しかも女性目線で」。そこを共有することに「価値があるんですよ」と、山田さんは笑顔で教えてくれた。


 山田さんは、症状が出始めた頃を「自分のことを後回しにしていた」と振り返る。お母様が認知症を発症され、面倒を見るために二世帯住宅に引っ越して、バリアフリーやデイケアの対応などに忙しかった日々。花粉症もアレルギーもあった山田さんにとって、「声のかすれは、それらの延長だと思っていた」。しかし、忙しい日々の中で、「声が出なくなり、物も飲みこめなくなっていった」。

 近所の耳鼻科に行って処方薬を飲んでも症状は変わらず、書いてもらった紹介状にある大病院の名前には「がん」の文字が入っていた。「まさか自分が?」と向かった先ですぐに「下咽頭がんのステージ4」と診断された。

 「(医師から)色々と説明は受けたと思うけれど、手術して“声が出なくなる”の一言が頭を巡って号泣した」。声を失うぐらいであればこのままでいいと医師に伝えると、「放っておいたら死んじゃうよ。そのままだと、苦しくて空気を吸えず、食べることもできない。だったら(声帯を)摘出して普通の生活を送った方がいい。」と言われ、併せて「術後でも喋れるからね」と見せられたのが、『シャント発声』のビデオだった。

 『シャント発声』とは、新たな「気管」と「食道」とをつなぐ器具を挿入するとともに、気管孔を器具で塞ぐことで肺の空気を食道に導き、声を出す発声方法で、それ専用の手術が必要になる。


 山田さんは帰宅して自分でも情報を調べ、自身のインスタにも近況をアップすると、「私も同じ」といったコメントが返ってきた。その中で、喉頭がんや下咽頭がん等の手術により喉頭(空気の通り道であり声帯を振動させて声を出す働きもする)を摘出した方々の集まりである『悠声会』も紹介された。その会を訪ね、『シャント発声』をされている女性を直接見れたことで、「手術をやろうと決めた」。

 山田さんは、喉頭や食道の一部を摘出する手術を行い、また切除した食道の一部に対して小腸の一部を採取して補う形で移植する空腸移植再建手術、さらにはシャント手術も併せて実施した。


 「インスタですごく救われた」。山田さんががんと声帯摘出を宣告され辛かった時や手術に悩んだ時はもちろん、術後に『悠声会』に入会した後も同じ経験をした者同士で悩みも、そして楽しいこともやり取りできた。

 冒頭で触れたように、そして今は同じインスタで山田さんが経験を発信し、これからその経験に直面する人を助けている。「インスタを見て『悠声会』に入って頂いた方もいる」と教えてくれた。「当事者も年齢が高いと発信する方法を知らなかったり、逆に若いと仕事に戻って記録して発信しようとは思わない。何より、(声帯を摘出したことを)女性はあまり言いたがらない」そうで、その意味でも山田さんによる発信は貴重だ。

 また、声帯を摘出してから声を取り戻すには、『シャント発声』以外にも、『食道発声』(食道に空気を取り込み、喉を手で押さえるなどで、食道入口部の粘膜を新たな声帯として振動させ発声する方法)や、『電気式人工喉頭(EL)』(電気の振動を発生させる器具を喉に当て、口の中にその振動を響かせ、口(舌や唇、歯など)を動かすことで言葉にする方法)もあるが、どれが個々人にとって最適か症状によっても異なるし、さらに病院や医師によっても提案が異なるのが現状と聞いた。そうした面でも、同じ経験をした当事者が提供する情報の価値は極めて高い。山田さんは、まさにそれを実践されている。

▷ 悠声会



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