見出し画像

【め #4】視力の数字が同じでも人によって見え方は違って…

鷹林 智子さん


 鷹林さんは、生まれつき弱視でおられる。弱視と一言で言っても「視力の数字が同じでも人によって見え方は違って、その違いは障害者手帳の等級には表れない」と教えてもらった。

 例えば、鷹林さんは、眼球が痙攣したように動いたり揺れたりする「眼球振盪(がんきゅうしんとう)」という症状をお持ちで、文字が大きくないと見えないだけではなく、「馬」など4本も5本も線があるようなゴチャゴチャした文字を読むことも難しい。


 「墨字(すみじ)」という言葉をご存じだろうか?視覚障害者が使用する「点字」に対して、点字ではない文字のことを「墨字」と言う。

 盲学校には幼稚部から通っていた鷹林さんは、小学部1年時に先生から「墨字か点字か、どっちを選ぶ?」と聞かれ、その後、カタカナなど独自で習得する努力はしたが「墨字を習うことはなかった」。

 それでも、「社会性を身につけた方がいい」というアドバイスを受けて、同様に挑戦してきた「パイオニアの先輩方がいたので、やってみようと思い」、高校は点字入試で受験し、盲学校から一般校に転じた。


 しかし、なにぶん高校生である。中学から友達グループで上がってきたクラスメイトと鷹林さんでは「お互いにどう声をかけていいかわからず、あまり溶け込めなかった」。

 鷹林さんの目はぼんやりとは見えるが、相手の顔はわからない。同じ制服が並ぶ中で「誰誰さんいる?なんて自分から口に出せず、相手の声や背の高さやいそうな場所などで何とか反応した」。

 勉強の面では、一般校の教科書を視覚障害生徒のために点字に訳してくれるボランティア組織のおかげで同じように学ぶことができた。鷹林さんはそのことに感謝を述べつつ「昔はそうしたボランティアの担い手が多かったからできたけれど、今後10年20年経ったらどうなるか」と、今度は自分に続く後輩が置かれる環境を心配されているようだった。


 社会に出られて、現在は社会福祉法人日本視覚障害者団体連合で働かれている。

 日常の中で利用しているサービスとして「アイコサポート」を紹介してくれた。スマホカメラで写した映像や位置情報を遠隔のオペレーターがサポートしてくれる。例えば、初めて行った先のビルで反対の出口から出てしまって方向を失った時や、初めての旅行先での移動手段や時刻表を案内してもらったり、また重要な郵便物を読み上げてもらうことや、textファイルにしてメール形式で送ってもらったりすることもあるそう。常に頼るわけではないが、「急にまたは時間もない中で困ったときの保険的感覚もあるかな」と聞いて、なるほどと感じた。

 こうしたサービス以前に、印象に残った鷹林さんの馴染みのスーパーのお話がある。店の中のだいたいの売り場はわかり、「お肉も牛か豚か鳥かはわかる、たまに間違って骨付きとか買っちゃうけど」とニコッとされた後に、「(操作できない)セルフレジに立つとすぐにアテンドしてくれる。コミュニケーションも使いながら暮らしていけばいいかと思える。」とどこかホッとした顔で話された。「理解してくれれば、ちょっと手を貸してくれるだけで、ずいぶん変わるんです」。テクノロジーだけでなく、社会の意識があってこそだ。

 ちなみに、障害者差別解消法でこれまで努力義務に留まっていた「事業者による障害者への合理的配慮」は来春から義務化へと強化される。まさにこれから社会の意識が試される。


 「社会に出て初めて障害者と接するなんてことがなければ、世の中は随分と変わるんじゃないかと思うんですよね」と静かにおっしゃり、障害の児童・生徒が通う「特別支援学校」の話をしてくれた。

 「知的障害があっても学活や体育や音楽などを一緒にやり、突飛なことをやってしまう子には先生に代わってお姉さん感覚で話を聞いたり、会話できない子も名前を聞けばちゃんと答えてくれたりした。誰でも子供の頃から少しでも一緒に過ごせば、普段から自然と関わり手助けできるようになれると思うんです」。


 鷹林さんには、第2話で出たタッチパネルの課題や第3話で出た音声読み上げに対応していないアプリの課題もお話しいただいた。その上で、印象に残ったメッセージがある。

 「そういう人たちがいるってことをわかってほしいんです。つくる側の人にもそれを踏まえたルールがあってもいいはず。少なくとも頭に全く浮かばないっていうのはなくなるといいなって思います」。その笑顔は希望を失っていないように見えた。


 鷹林さんの数々の表情にどう応えるかが試されている。


▷ 日本視覚障害者団体連合


▷ アイコサポート



⭐ コミュニティメンバー大募集

 Inclusive Hubでは高齢・障害分野の課題を正しく捉え、その課題解決に取り組むための当事者及び研究者や開発者などの支援者、取り組みにご共感いただいた応援者からなるコミュニティを運営しており、ご参加いただける方を募集しています。


Inclusive Hub とは

▷  公式ライン
▷  X (Twitter)
▷  Inclusive Hub


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?