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【め #15】視覚障害者の情報格差と高齢者全体の課題

森 きみ子さん


 森さんにお話をお聞きするまで、視覚障害とは『全盲』か『弱視(ロービジョン)』だと思っていた。実際は、大きな分け方として『盲」か『弱視(ロービジョン)』が正しく、『盲』の中で以下に分類されることが正しいと学んだ。

全盲(ぜんもう):視力が全くなく、明暗さえ識別できない状態
光覚弁(こうかくべん):明暗が識別でき、物の有無や影がわかる状態
手動弁(しゅどうべん):目の前で手を振ったときにその動きはわかる状態

 森さんは生まれつき『手動弁』で、40歳で『全盲』になられた。


 森さんから、もう一つ教わったことがある。「例えば、パン屋さんに連れていかれて、「何を買いますか?」と聞かれても、まず何のパンがあるかわからないですよねぇ。情報がないと意思表示ができないし、相談するにも何を相談していいかわからないと伝わらない」。


 どういうことか。

 森さんご自身は点字出版社に勤めて雑誌を作っていた関係で、言葉や普通の文字を点字に直す『点訳』のために新聞などにもよく目を通すなど、情報へのアンテナが高かった。現在でも、ご自宅ではスマートスピーカーを駆使されている。「午前7時にアラームと言えば音楽が鳴るし、エアコンスイッチオン、ライトスイッチオン、テレビスイッチオンなどとお喋りすればいいように、スマートホームにセッティングしている」。

 他方で、視覚障害者で「スマホやPCを使いこなしているのは1割程度じゃないか。同じ障害の中でも情報量の格差が激しい。」と話す。例え視覚障害者が日々使う制度であっても、その情報が視覚障害者の全国組織から届いたとしても、「え、使ってないの?」「知らなかったぁ」なんて会話が普通に起こることを教えてくれた。それどころか、身近な具体例に驚かされた。地元で大きな論争にまでなりニュースでも散々取り上げられた主要駅の駅名変更。近隣に暮らす視覚障害者のご夫婦は駅名が変わって1年経ってもその事実を知らなかった。


 情報のアンテナ高くITも駆使して日常生活で「それほど切迫感がある困りごとはない」とおっしゃる森さんにも、苦労することがある。それは「難しい契約の代読や代筆」である。 

 森さんは独り暮らしで、お兄様も100キロほど離れたところにお住まいで身体の不自由もあるため「たびたび呼び出せるものではない」。また、難しい契約の代読や代筆を、日常生活を支援してくれる一般のヘルパーさんで対応することも難しい状況だ。

 そのため、従来は知的障害・精神障害・認知症などによってひとりで決めることに不安や心配のある人が色々な契約や手続きをする際にお手伝いしてもらう制度である『成年後見制度』を使えないかと確認したが、「視覚障害者はそうした判断ができるから利用できない」との回答だった。


 何かの意思表示や相談をする前提となる情報入手の格差や、意思表示をするにも難しい契約等への対応は「視覚障害者のためだけではなく、高齢者全体に通じる課題ではないか」と森さんは話された。

 より大きな不便を感じている方の課題を解決することこそ、結果的により大きな範囲での便利につながるのではないか。森さんからそんなヒントを教えてもらった気がした。




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