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【こえ #21】群馬県にある喉頭(声帯)を摘出した方々の当事者会「群鈴会」にお邪魔した…

齊藤 憲治さん


 初めて群馬県にある喉頭(声帯)を摘出した方々の当事者会「群鈴会」にお邪魔した。初めてということもあり、当事者の方々が声を取り戻すための発声訓練テキストを齊藤さんが見せてくれた。

 最初は「ア」を一音ずつ、次に「アアー」を繰り返す。その後、二音(あめ)、三音(あたま)、四音(あおのり)の単語が言えるようにしていく。そこから広がっていく発声訓練の素材がちょっと面白い。孔子の『論語』の一節が入っているかと思ったら、映画『男はつらいよ』シリーズの『フーテンの寅さん』の口上が入っており「寅さんを思い浮かべ、活き活きとしたイントネーションで」なんて添え書きまである。一音出すだけでも時間がかかる辛い訓練だからこそ、楽しめるようにとの工夫なのだろう。資料には、東京の同じ当事者会「銀鈴会」の記載もあり、地域間でテキストを共有していることもうかがわれた。


 齊藤さんは喉頭がんを患い、5年前に(食道には及ばず)喉頭だけを摘出する「単純喉摘」手術を行い、すぐに「群鈴会」に入会。わずか5カ月で普通に喋れるようになった。しかし、最初は「コツがわからず、訓練をやめようかと思った」と振り返る。

 実は最初に挑戦する「ア」の一音が一番出しにくいのだという。そこにこだわりすぎると「つまずいちゃう可能性がある」ので、独自に考え別の一音から習得を始めた。

 また、摘出した声帯なしに自力で発声するには、口や鼻から食道内に空気を取り込み、その空気をうまく逆流させながら、食道入口部の粘膜のヒダを新声門として声帯の代わりに振動させて音声を発する必要がある(「食道発声法」)。一般的に、のどを指で押さえることで新声門を開閉させ振動を起こすのだが「のどを押さえるだけだと言葉が続かず、長く話せない」のだそうで、むしろ声を出す空気を上に送るために「腹を押さえる、腹から声を出す」ことが大事だそう。「さっき蕎麦屋でご飯を食べてきたばかりでまだ消化できていない。あと1時間もすればお腹にもっと空気が入ってもっと声が出るよ」。

 また、喉頭(声帯)を摘出すると、のどに新しい気管孔(穴)が造設される。その気管を経て肺に空気が入るのだが、「穴に湿ったガーゼを当てておくと空気が湿って、体も全然違うんだ、医学的にはよくわからないけどさ」ともご自身の経験を共有してくれた。

 そのためか、お風呂で練習することをお勧めするそうだ。空気が湿り、小さく距離が届かない声でも静かで反射する環境だから自身の声を確かめやすいからなのかもしれない。


 「スキーのストックで曲がれるようになっても、なぜかってうまく説明できないのと同じ。発声のコツもなかなかうまく伝えられないな」とおっしゃったが、こうしたヒントこそ発声のコツが掴めない当事者にとって有益ではないだろうか。

 ちなみに、喉頭がんは、大腸がんや胃がんや肺がんと比べて罹患者数が非常に少ない、群馬のような地方では東京などに比べて罹患者数はさらに少なくなる。即ち手術する医師も喉頭(声帯)を摘出した当事者も極端に少ない環境だ。

 そんな環境だからこそ齊藤さんならではのコツが積みあがっていったのかもしれない。


▷ 群鈴会


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