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今年の「10大リスク」に思う。

イアン・ブレマー氏率いる米シンクタンク「ユーラシア・グループ」が、年始恒例の10大リスクをまとめた報告書を公表しました。それによれば、今年の10大リスクは以下のとおりです。

1.米国の敵は米国
2.瀬戸際の中東
3.ウクライナ分割
4.統治されないAI
5.ならず者の枢軸
6.中国回復せず
7.重要鉱物をめぐる争い
8.経済的逆風
9.エルニーニョ再来
10.米国でのビジネス

第一のリスクとする米国の大統領選挙について、報告書は以下のように言及しています。

「米国はすでに世界の先進工業民主主義国家で最も分裂し、機能不全に陥っている。2024 年の選挙は、誰が勝ってもこの問題を悪化させるだろう。投票結果は(少なくとも現時点で は)本質的に五分五分であり、唯一確実なのは、米国の社会構造、政治制度、国際的地位 が傷つけられ続けるということだ。」
「2 大政党の大統領候補は、いずれも大統領に不適格だ。 ドナルド・トランプ前大統領は何十件もの重罪で訴追を受けており、その多くは在任中の行動に直接関連してい る。最も重大なのは、自由で公正な選挙の結果を覆そうとしたことだ。米国の選挙戦は現在のところ、安定し、十分に機能している民主主義国家のものからはほど遠い。ジョー・バイデン大統領は 2 期目終了時に 86 歳になる。米国人の大多数は、どちらも国のリーダ ーにはしたくないと考えている。」

今年1年をとおして世界で予定されているイベントの中で、最も重要なのが米国の大統領選挙であることは間違いないでしょう。そして今、米国の民主主義が試練に立たされているのもそのとおりでしょう。

8年前にトランプ氏が大統領に選ばれた時、選挙戦特有の誇張、暴言、「口撃」、スキャンダル暴露などはあっても、一応民主的な形で選挙は行われました。トランプ大統領の政権も、それほど滅茶苦茶だったわけではありません。周囲のまともな大人たちの軌道修正もあり、一定の成果は上げていました。北朝鮮との首脳会談などは、トランプ大統領でなければ恐らく実現しなかったでしょうし、中国を強く警戒する政策はトランプ大統領によって始められました。

しかしながら、4年前に大統領選挙に敗北した時のトランプ氏の姿勢は、自らのそのような成果に泥を塗るようなものでした。にもかかわらず、共和党員の多くは、「選挙が盗まれた」というトランプ氏の言説に同調し、彼が訴追を受けても、むしろより強く彼を支持するようになっています。共和党予備選では、すでに多くの候補が撤退し、残るはトランプ氏とニッキー・ヘイリー元国連大使のみとなりました。

民主主義を軽視するような人物を大統領に推す人々。その人たちにとっては、自らの声こそが民主主義だと言うのでしょう。まさに米国の政治・社会のシステムが問われているのだと思います。

ただ一方で、世界の抱える今年のリスクという意味では、私としては、やはりロシアのウクライナ侵略と中東情勢の進展がより重要なのではないかと思います。

ウクライナにおいては、欧米の支援疲れが不可避的に生じてきており、それが今年の戦況に影響することが懸念されます。また、ロシアと北朝鮮の軍事協力が具体化しており、国際秩序に挑戦する国同士の結束が強まっています。

中東では、対ハマス、対ガザからヒズボラ、フーシ派、イランへの戦線拡大が懸念されるほか、イスラエル・ネタニヤフ首相はパレスチナとの二国家共存にチャレンジしており、明らかにテロとの戦いの範疇を踏み越えてきています。

このように国際秩序に挑戦する動きを抑える方向に今年世界は動けるのか、そのことはより深く、より長期的に国際秩序を改変しようとうする中国の行動にも影響を及ぼすものと思います。

米国の大統領選挙は、言うまでもなく、このような国際情勢にも大きく影響します(このことは、ユーラシア・グループの報告書でも言及されています)。トランプ氏が大統領となれば、ウクライナに対する支援が大幅にカットされるでしょうし、イスラエルに対する肩入れが強化されるでしょう。
北朝鮮はトランプ氏に期待するものがあるかもしれませんが、基本的にロシア、北朝鮮、イランの連携が強まる方向に作用するのでしょう。

イランについては、一時「核合意」という形で国際秩序に参加する姿勢をしめしていたこともあり(トランプ大統領が合意からの離脱を決めたために事実上停止)、私は一方的に非難できないと思っているのですが、ロシア、北朝鮮については、完全なる国際秩序破壊者であり、これらの国が連携を強めることは懸念されます。

ユーラシア・グループの報告書第五のリスク(ならず者の枢軸)では、中国がこれらの国との間で一定の距離をとっていることが指摘されています。また、中国については経済面でのリスクに注目しており(第六のリスク)、安全保障や国際秩序の面では今回あまり言及しておらず、米中関係についても、24年は比較的安定して推移すると見ています。

しかし、過去20年くらいの中国の行動を見れば、中国はゆっくりと、より賢く動きます。24年のうちに大きな行動に出なくとも、他国の行動によって自分に火の粉がかからないようにしながら、よく観察し、世界の動きを見ています。そして自分のまわりのフィールドで、着実に現状を変更していくのです(14年にロシアがクリミアを事実上併合することに成功した後、中国は南シナ海への進出を強化し、「成功」しました)。

その意味で、世界のどこであっても、国際秩序を破壊すること、力をもって現状を変更することを認めてはならないのです。もし、国際秩序維持にかかる米国の力が弱くなるならば、欧州や日本には、より一層の役割が求められるでしょう。しかし、当然ながら各国ともリソース(特に資金的な)には限りがあり、世界は厳しい状況に置かれることになります。

いつにも増して、今年は世界にとって試練の年になりそうです。


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