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「政治的に正しく」婚姻率を上げて持続的な日本を作る方法

少子高齢化が臨界点を超えている。
そこで現在、政府は少子化対策として「子育て支援」を拡充するための政策を検討中のようだ。

 しかしながら、こうした政策には強い批判もある。
簡単に言うと、「子育て支援は少子化対策としての効果は薄い。子育て支援と少子化対策は分けて考えるべきだ」というもの。
下記の記事を引用する。

さて、問題は、この各国が日本より高い家族関係政府支出率があるからといって、本当にそれは出生率や出生数に寄与する少子化対策になっているかどうかである。
もっといえば、子ども関連に予算をつければ少子化が解決するなどという簡単な問題なのかという点だ。
ニュースなどでは上記の数カ国だけの数字が切り取りされているが、実際に、OECD諸国全体で比較してみよう。出生率も政府支出率にあわせて2017年実績としている。

相関係数0.0036というのは無相関ということである。つまり、家族関連支出を増やそうが出生率には何の関係もないということがわかる。
「異次元の少子化対策」を検証する~子育て支援は出生率に影響するのか?
荒川和久
https://news.yahoo.co.jp/byline/arakawakazuhisa/20230106-00331642

記事中の相関図を見ると、子育て支援予算の少子化対策としての影響の小ささに驚く。
また荒川氏によれば、一人の母が生む数はこの50年で特に減っておらず、一方で婚姻率が大きく低下していることがわかっている。少子化は母が子どもを産まなくなったわけではなく結婚ができる人が減っているせいで起きているということだ。
結婚して子どもを作るフェーズに入った人を支援する、というのは順番がおかしい。結婚に至るまでの部分を強化すべきである。
ではどうすればよいか。

政府にできるのは経済・産業政策だ

 結論としては、政府による先端半導体関連企業を中心とする製造業を誘致するための産業政策の加速と防衛予算の更なる増加を求める。婚姻は個人の問題であり同時に家族の問題だ。政府が少子化対策として直接的に介入することは難しいが、上記の経済・安全保障政策により副次的に少子化対策を行うことは可能だということだ。
ではなぜこうした政策が導かれるのか。それは下記の2つの「婚姻減」の要因となっている課題を解決する必要性からである。

課題1. "男性の所得"を増やす必要性

 婚姻減少を解決する方策として非常にシンプルかつ効果的なものは「男性の所得を増やす」ことだ。
 日本全国の未婚女性414人を対象としたアンケートによれば、女性が結婚に求める条件として経済力を1番としており、また内閣府の調査においても結婚相手の条件として男性の経済力、職業を考慮するという女性は9割を誇っている。
 実際に男性の所得階層別で見ると、男性の所得が高いほど婚姻率が高くなっており、一方で女性にはそういった関係性は見られないことからも、男性の所得を増やすことが婚姻を増やすことからも重要だと言える。
 こうした考えは従来、女性が経済社会から阻害されたことによる影響であり、女性は自分で稼げるようになれば、それほど高望みでない配偶者との結婚に満足するようになると考えてきたが、最近の研究ではこうした仮定が正しくないことが示唆されている。
 メアリー・ハリントンの記事によれば、文化や国を問わずあらゆる交際関係において、女性が男性よりも結婚相手の経済的な将来性に重きをおいている事が示されており、進化心理学者は、このような選好は家父長的な抑圧による偶発的なものではなく、数千年間の間で進化した適応戦略である、と主張している。
よって、政治によって男性の所得を増やす政策が必要とされている。

 若い女性たちが魅力的な男性の少なさを嘆く記事を見つけるのはさほど難しいことではない。2012年、Forbesのラリッサ・ファウ(Larissa Faw) は、「なぜ専門職に就くミレニアル女性は、デートの相手になる男性を見つけられないのか」と問いかけた。その答えとしては、「専門職のミレニアル女性がエリートの中で男性の数を上回り、増加する低ステータスの男性を人生のパートナーにはふさわしくないとみなす傾向があるため」と言えるだろう。
The new female ascendency
thecritic.co.uk/issues/december-january-2022/new-female-ascendency/
https://note.com/1234509/n/nae0a726753d8

課題2. 経済の重心を地方に分散する必要性

 二点目は、深刻なレベルの東京一極集中の解消だ。
私は'22年10月より都内に在住しているが、三ヶ月目にしてここで子育てをするのは極めて難しいことを痛感している。そもそも人が多すぎる、子供の遊べる場所が存在しない、など例を挙げればキリがないが、最も大きな理由として上がりきった不動産価格をあげよう。

不動産経済研究所によれば、首都圏の中古マンション価格はこの10年で1.5倍近くになっており、一方で所得は増えていないことから子育て世代が住宅に手が届かなくなっている。
 共働きが基本となると、二人とも長い通勤は非合理的なので少なくとも職住近接がトレンドになる。そうすれば企業だけでなく住宅も都心にベクトルが向き、結果として一極集中を加速させる方向に動いてしまう。こうしたこともあり住む場所がない、住めても狭い、ということで首都圏にこれ以上人を集めても子育てに意識が向くことは難しいだろう。東京都は出生率も低いのだ。
地方への経済的分散が必要である。その為の政策こそが求められている。


最先端の製造業を国内外から誘致せよ

 課題1,2を解決する方策として私は、国内外から外資、日系を問わず最先端の製造業を誘致することが極めて重要だと筆者は考えている。
 その象徴的な存在が、現在重要戦略物資として認定されている先端半導体に関する生産拠点・開発拠点を更に呼び込むことだ。

 男性の所得や地方分散と半導体は関係ないのではないかと思われがちだが、まず半導体産業というのは都心では出来ない。そして男性が中心(9割)の産業。そいでもってめっちゃ稼げる
この三点を満たしている代表的存在が半導体メーカーなのだ。

地方再生に必須なのはサービス業よりも、"製造業"

 日本経済が人材・金融・ITといったサービス業中心となって久しい。しかしサービス業には一つ問題点があり、「生産と消費が同時に発生する」ことだ。これは客と生産者が同じ場所にいる必要があることを意味する。そうするとどうしても都心がビジネスの中心となってしまう。サービス業への志向は企業の都心集中を招く要因となるのだ。
 一方で、製造業は地方の広大な敷地と山から流れてくるきれいな水を活用し、スケールメリットを活かして多種多量生産を行う。地方で安く作って都心で高く売るのはビジネスの基本である。地方経済の再生には農業・工業を問わず、モノを生産することが組み込まれることで成り立つと言えるだろう。
特に半導体工場はきれいな水、きれいな空気が必須であり、多くは山の中腹などに作られる。企業によっては果樹園の隣に工場が置かれることも珍しくない。
地方こそが製造業の主役であり、大都市はそれを支える存在なのだ。日本の地方に生産力を再び呼び戻せば、人は根付いてくる。稼ぐ力こそがいちばん重要なのだ

半導体業界には「地方在住の稼げる男」がたくさんいる

図1

図1は私が就職活動中の学生('18年)の時に貰った三重県四日市市の外資系半導体メーカー「WesternDigital」の求人情報である。
 聞いた情報によればこの会社は上記に加え初年度からボーナスが100万円程度出るので、新卒一年目から年収は570万円程度を得られる計算となる。私の友人は三年目にして700万円を稼ぎ、メルセデス・ベンツのAクラスに乗っていた。現在キオクシアと合弁に向け進んでいるが、両社とも平均年収は1000万円を超えている
 この業界は大量生産でかつ各プロセスに細分化されており、更に機械の内製も盛んであるがゆえ、求人も半導体工学だけでなく経営学や電子工学、機械工学、情報工学、統計学など文系・理系を超えて大量の専門知識を得た人間を必要としている。
日本の地方に生産力を再び呼び戻せば、地方の男性の所得が増える。所得が増えれば、結婚もしやすくなるだろう。

 1つ補足するとすれば、男性だけでなく女性が半導体産業に参入するのも全く問題がない。テレワークやフレックスなど働きやすい環境は整備されている。
ただ、ドモホルンリンクルみたいなクリーン服は超ダサいし、丸の内にオフィスはない。電子移動度とかpn接合とか、仕事で扱う領域はとても抽象的だ。これらの仕事の魅力が大都市の女性たちにバレるのは当分先のことになるだろう。


政治家の仕事は、企業に「賃上げのお願い」ではなく「投資のお願い」をすること

 こうした最先端の製造業を日本に誘致するために政治家が行うべきことはなにか。電力や鉄道といったインフラ整備はもちろんとして、まずは世界の大手企業幹部に直接会って、日本の地方に生産・開発拠点を作ってもらえるよう日本の魅力をプレゼンすることだ。私はこうした動きが日本の政治家にはあまりにも少なすぎると感じている。
 このような行為は「途上国が行うこと」のように思う人もいるかもしれない。しかし海外を見れば、世界最強の国・アメリカの政治家であっても日本に来ると大抵、企業幹部に会って米国に工場を立てるようお願いしている。
 例えば、米国の親日派として知られるマイク・ペンス氏はインディアナ州知事時代から副大統領時代まで一貫して、日本へ来訪するたびにTOYOTA、SUBARU、Hondaといった大手企業を来訪し、米国の魅力、インディアナ州の魅力をプレゼンして誘致のお願いをし、雇用創出の結果を残してきた。世界最強の国の政治家に出来て日本が出来ないのはおかしいだろう。
 こうしたことをする政治家、実は少しだけいるんだけど、内閣改造で更迭されてしまったのがとても残念だったりする。

安全保障関連予算を倍増せよ

 日本政府は防衛予算を拡充することで日本を守る自衛官の待遇を改善し、地位を高めるべきだ。そして軍港・飛行場といった地方の防衛拠点をより発展させ、日本を軍事・経済の面においてもより強くするべきだ。その為には直接的な防衛予算だけでなく、通信・鉄道・道路・エネルギー・防災といった各種インフラ政策も含まれる。

現代活躍している地方都市の殆どは戦前の軍需で栄えた。

 「政治は経済に手を出すべきではない」という思想は経済学においては常識となっているが、一方で現代において魅力ある地方都市の多くは軍需を中心とした戦前の国家的な直接投資によって成り立っている。
 先程紹介したWesternDigital(現キオクシア)のある三重県四日市市はもともとは帝国海軍の燃料工廠を中心に化学メーカーが集積して発展した都市であるし、隣の鈴鹿市も工廠および海軍航空基地や陸軍の通信工作基地を中心に発展した。軍港の呉に至っては江戸時代まで地方のとても小さな漁港だったのが、呉鎮守府の開庁以降の経済投資により、大戦期には40万人の都市にまで成長している。

 こうした都市の存在こそが、国家による投資の力だ。一過性のものだけでなく、継続的に人が住み続けることに成功している。当時のインフラ投資が現代の半導体業界の誘致にもつながっているのだ。

「近代国家」は"国境"(=田舎)をこそ重視する

現代において日本ほど「首都に人口が集中している先進国」はないだろう。
各国の首都圏の一極集中度合いを調べると、上位には東京の他、ソウル、ブエノスアイレス、マニラやメキシコシティが並ぶ。

各国の主要都市への集中の現状
https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/content/001319312.pdf

 一目瞭然だが、日本以外の先進国は国家の機能が分散しているのである。これはなぜか。近代国家は前近代の国境が曖昧だった時代の国々とは違い、「国境」を明確化し、厳格に管理する必要があるからだ。国境にも人がいて、通信線が引いてあり、食料を作り、水道が通っている必要がある。
強い国力を持っていると同時に常に攻撃の危険にさらされてきた大陸の先進国は、長い歴史の中で分散の必要性を慣習的に理解し、実践している訳だ。

外国が最初に攻め入るのは首都ではない。国境線なのだ。
地方を軽視することは国防を軽視することと同様。
でも、安全保障をアメリカにアウトソーシングしているとそれを忘れてしまうのだ。

 敵国の攻撃だけではない。水害などの自然災害から国土が守られているのも、田舎と呼ばれる地方に持続的に人が住み続け、田畑や山林を守ってくれているからである。日本国はずっと自然と共にあったはず。
大都市の住民は安易に自然災害を気候変動に繋げる前に、まずは日本の豊かな自然を守ってくれている人たちに感謝すべきだろう。

岸田は現政策を加速せよ。ただし"安易な増税は不要"だ

 ここまで見てきてわかると思うが、私が重要だと述べた産業政策・安全保障政策は岸田内閣の方針と大きく変わらない
ただ一点、危惧するのはこうした政策と共に増税を早々に持ち出してしまった点だ。これは私は現段階において増税は不要だと考える。
理由は、今のインフレを解決するために必要な手段は増税ではないばかりか、もっと言えば必要なものは経済政策ですらない可能性が大きいからだ。

以下にその理由を書いてみたけど長くなってしまったので暇な人だけ読んでほしい。

 確かに日本は現在インフレの状態にあり、インフレを増税や利上げによって退治する事は経済学においては常識とされている。しかしながらそれが通用するのは需要の拡大によって発生する「デマンドプル・インフレ」であって、賃上げが伴わず輸入資源の高騰と円安によってもたらされている「コストプッシュ・インフレ」ではないため、今行うべきは増税ではなくて公的投資を増やすことで供給体制を整えることであると私は考えている。

 ミハウ・カレツキやニコラス・カルドアといった経済学者によると、現代発生するインフレの多くはコストプッシュ・インフレだという。というのも、現代の経済の仕組みにおいては一般的にプライスメーカー(大企業)は価格設定をフルコスト原理によってマークアップ方式(かかったコストから値段を決定する)で決定するため、部品や資源などの供給側の逼迫によるコスト上昇は価格に反映されやすい一方、需要拡大の課題によって発生するデマンドプル・インフレはプライスメーカーによる稼働率の調整や設備投資により短期的に、もしくは発生する前に解決されてしまうからだ。
 大量生産を行う企業においては、需要が増大したことによって稼働率が高まり、デマンドプルインフレが発生しようとすると、設備投資や生産拠点の増設といった投資を行い、規模の経済性を働かせることで解決してきた。もちろん、設備投資は、それが決定された時点では更に有効需要が高くなってインフレ圧力になる。
 しかしながら設備が稼働するようになれば供給は増加するし、新型の設備であればなおさら供給量は高いものになる。その結果需給ギャップが解消されることでインフレは抑制され、企業の投資意欲は減退する。そして大抵は不況になる
 先進国は需要が増大しても有意義な投資が拡大して割とすぐに供給不足は解決するけど、一方で有意義であるがゆえに危機を招くこともあるのだ。

 ミハウ・カレツキはこのように需要こそが供給を拡大させると考え、ケインズ理論を更に発展させたモデルを構築している。
カレツキは労働市場モデルにおいて労働経済学者の後屈曲線(賃金率が低い間は労働供給曲線が右上がりだが、賃金率が高くなると右下りになる)であるという声を反映している。カレツキによれば「労働者の給料を増やし続けないと完全雇用は維持できない」とし、放置すればすぐに失業率が高まってしまうと述べている。

要は、有効需要が常に増えていないとすぐに不況になるのだ。今のようにね。

カレツキの短期労働市場モデル

企業の有意義な投資は供給拡大によりデマンドプル・インフレを解決させる一方、供給拡大こそが需要不足をもたらし不況の原因にもなる。

一方でコストプッシュ・インフレの場合はどうか。これは結論を言うと「事象による」としか言いようがなく、解決手段は個々によって違う事がほとんどで一概には言えない。例えば流通コストが高いのであればガソリン税の減税や高速道路への公的投資が重要であるし、例えば鉱物資源や燃料など戦争や気候変動が要因のものであれば、経済・金融政策以外の領域が解決策になる。
このように現在発生しているコストプッシュ型のインフレは対策は安易には決めきれず、増税を解決手段にするのは間違っている。
故に私は現時点の増税には反対したい。


参考

結婚滅亡:荒川和久 あさ出版

世界インフレと戦争:中野剛志 幻冬舎


ポスト・ケインズ派の成長と分配の理論  カレツキ アン・モデルをめぐる議論 :池田, 毅

https://api.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/3000174/100_p001.pdf

ポストケインズ派経済学入門:マルク・ラヴォア


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