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中欧をゆく 3

自分たちのアイデンティティを示すための建築、そう聞くとなんだか僕たち日本人には遠いことのように思える。

征服された民族が自分たちの誇りを保って生きていけるかどうか、そういった切実さを僕たちはどれほど想像できるか。

ヨーロッパには古来、大国のはざまに無数の小国が乱立しては地図上からその姿を消した。チェコという国もまたそういった苦難の歴史を乗り越え、生き残ってきた小国の一つだ。この国が持つ美しい文化はだれをも魅了するが、それを下支えするものは生命力溢れる民族アイデンティティなのではないか。プラハ中心部にある一つの建築を見て僕はその事を強く感じた。

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プラハ市民会館 1912年
ここ市民会館は自民族の誇りを象徴するためにつくられたチェコ文化の結晶だ。

この時代のチェコはオーストリア=ハンガリー帝国という、ドイツ語圏の帝国に属していた。このままでは自分たちの言葉すらなくなってしまうかもしれない、そんな危機感から彼らは自国語で歌う事のできる演劇をつくり、それを披露するためのホールを作ることに心血を注いだ。

照明

アールヌーヴォーの様式を持つ市民会館、エジプトやアナトリア(今のトルコ中央部)に由来するオリエンタルなデザインが取り入れられている。

市長の間

市長の間 アルフォンス・ミュシャ作

空間のすべてをミュシャが手掛けた市長の間、こんなにも贅沢な空間があっていいのか!彼が描いたチェコの歴史が広がる鮮やかな一室だ。

壁から天井にかけて、「スラヴ民族の団結」をテーマに、国民の伝統や歴史を象徴するストーリーが描かれている。また、天井に向かう柱の間にはチェコの歴史上の重要人物8人が描かれていて、その下には彼らの性格を象徴する飾り文字が添えられている。

アルフォンス・ミュシャといえば妖艶な女性がポーズを取った絵を思い浮かべる人が多いと思う。実際に彼はパリでその腕を認められて以来、広告デザイナーとして活躍していた。そんなミュシャだが晩年になると、スラブ民族の自立を目指し、ナショナリズムを鼓舞するような絵を描くようになっていく。

数年前に日本に来て大きな話題になった「スラヴ叙事詩」はそんな彼の思想を代表する大作だ。実は僕はこの展覧会に行っていなくて大いに後悔していた・・・。だから今回は何としてもミュシャの作品を本場で見たかったんだ。

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天井には人々を見守る鷲

ツアーの参加者は25人ほどだったか。みんなのお目当てはやはりここ市長の間だったようで、一斉に天を見上げて写真を撮っていたのが印象的だった。

正直、ここにいる時間はあまり写真を撮りたくないと思っていた。ツアーなので一つの部屋にいられる時間は制限があるし、できるだけじっくりこの空間を味わっていたかった。

壁画に賢人たちの名前と肩書きが描かれていると知ったのも、後になって説明書きを読んでからのこと。分かっていれば写真の撮り方も変わったね。

ホール

その他にも、一つ一つの部屋にコンセプトがあって見どころは尽きなかった。内部には入るにはツアーの参加が必要で、外国人の場合は英語ツアーに参加することになる。

英語ツアーという事で、この市民会館は外見だけ見学して中には入らなかったという人も多いかもしれない。だけど、ここは説明以上に視覚、体感で感じ入られる魅力が詰まっているし、さらに驚いたのが日本語のパンフレットがもらえて、その説明がとても詳細だったこと。だから言語の得意不得意に関わらずプラハを訪れたら是非ここ、市民会館のツアーに参加してみてほしい!

#ヨーロッパ #チェコ #プラハ #建築 #ミュシャ


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