_AV女優を差別したくない気持ち

“AV女優を差別したくない”という気持ちがAV出演強要に利用されていた、という話

『メディアのタブーを超える~AV出演強要問題から見えたもの~』というイベントに行ってきました。
http://peatix.com/event/229465?lang=ja

レポートです。
あまり体裁が整っていないですが、当日中に記事を書いておきたかったので。

メディア論×女性の権利、というテーマだったそうです。
“女性の権利”という、古臭いように言われているけれどめちゃくちゃイマの、超現代的な問題について
“女性の権利”という言葉そのものを使ってくれたことに、まず誠実さを感じたのでした。

1部;メディア論
 なぜ、新聞ではAV出演強要問題を取り上げられなかったのか?
2部;AV出演強要問題を、被害者支援団体の目線で語る
 人身取引被害者サポートセンター「ライトハウス」代表・藤原氏の話
3部;女子大生が聞く、女性ユーチューバーの「だまされた過去」
 くるみんアロマさんが、自身の経験をお話しされる
 後、上智大学新聞部の女性大生2名とのインタビュー形式で話を深めていく
質疑応答

という流れでした。
なおタイトルは、3部で語られた話についてです。

以下、流れに沿って書いていきます。


1部


個人的にはおもしろかったです。
新聞というメディアが壊滅的状況になり、ウェブ媒体を扱うことになったこと。
そして、なぜ新聞ではAV出演強要問題を取り上げられなかったのか。

編集長さんは「載る場所がなかったから」とまず言っていた。
事件なのか? 労働問題なのか? 表現の自由の話か?
新聞は“縦割り”体質なので、どの面に載せればいいのかわからなかった、と。

そして何より、「どこまで一般化できるのか?」という面が大きかったのでは、と言っていました。
“ただの体験談じゃないか”と。

ウェブメディア、特に“ママ向けメディア”などでは
むしろ、個人の経験・体験談は、重宝されることも多いです。
動画サイトだと個人の「やってみた」系も、すでに系統として確立されていますよね。
もちろん、ウェブ媒体でも内容によって、いわゆる一次データ・数値(数字)など、一般化して提示できるものが重要になってくるものもありますが。
(医療系記事を書くときは私も、当然ですが、行政や国の研究機関からの一次データを参照していましたしね)

それにしても、紙とウェブだとやはり感覚が違うのだなーと思ったのでした。

が、
このへんの話は、質疑応答の際に全否定されます。
めちゃくちゃ納得感高くて、なぜこの人を最初から登壇させてくれなかったんだと思いました。
それはまた、のちほど。


2部


藤原さんの話ですが、
まず、「これは被害者支援をしている団体としての目線です」ということをおっしゃっていました。

「性ビジネスで、無理やり働かされている人」を対象とした支援を行う団体としての見方である、と。

これを最初に言うのは大事だな、と思いました。
話されていた内容もそうだったのですが
いわゆる神の目線的な、道徳や規範的な言葉は一切なく
相談ケースと
そこから見えてきた(あくまで、自分たちが相談を受けている中で捉えたもの、と再度念押しされた)構図について、説明がありました。

若い女性の被害者が多いこと。(18〜25歳)
被害相談のうち、5%程度は男性であること。
など。

“普通”の女性・男性が強要被害を受けている、とおっしゃっていました。

私はこの“普通の”という言い方がとても好きではないです。
じゃあ、普通じゃない女性とか男性って
と思うからです。

重要な点なので聞き逃すみたいなことはできないですが、
とても真摯な発表だったと思います。

被害者支援に継続して関わり続け、活動されていることには頭が下がります。


3部


くるみんアロマさんの話。

彼女が被害にあうまで・あっている最中の流れを、ここで記していくのは少し難しいので
ポイント列挙みたいな形で書きます。

・「もう22歳だったから、ここを逃したら終わりだ、という思いがあった」

芸能界に夢を持っていた彼女が、脱衣を勧められ、断れなかった理由のひとつです。
芸能界を目指す年齢としては、22歳はもう“若くない”。
有名になるまで10年かかると言われたが、30歳すぎなんて“年取った”ら、もう誰かに見られたいなんて思えないかもしれない。
……そういう思いがあったそうです。

22歳といえば、大学生でいえば“シカバネ”と言われる年齢ですね。

でも22歳なんて、本当はまだ、若いなんてもんじゃない。
成人してやっと2年。
いわゆるストレートで大学まで出たとしても、卒業したてくらい。ほぼ学生。
そんな年齢で“もう自分は若くない”って思わせられて、焦りを感じなきゃいけないって、
あらためて異様な事態だよな……
と思いました。


・「あなたAV女優を差別してるの?」と言われた、という話

タイトルは、これです。
AVに出るつもりはない、というような話をした際、先方から言われた言葉だそうです。

「あなた差別してるの? (AVに出たくないなんて)職業差別だよね」と言われた、と。

差別なんてしたくない。
差別しちゃいけない。
出演しなきゃ、差別していることになっちゃうのでは。

そう思ってしまったそうです。

この話が、私には一番ショックでした。

AV女優への差別や偏見、というのは、実際にあって
それは絶対になくしていきたいもののひとつで
でもそのことと、自分がAVに出るか出ないかって、全然別の話なんですよね。
「それ関係ないじゃん!」って
距離があれば呼吸して考えることができるけど、
目の前で迫られたら、つきつけられたら、
誰だって惑うよ。
フェアでありたい、と思っている人であればあるほど。

なんて卑怯なんだろう。と思いました。

“自己決定権”という言葉をめぐる議論のことも思い出しました。

“自己決定権”という言葉・概念があるせいで、
それを理由に(性労働者やAV女優への)搾取を「彼女たちの自己責任」としてしまう人たちがいる。
だから、こんな言葉は使うのはやめよう。
という感じのものだったと理解しています。

私はその意見には反対でした。
自分の“性”の使い道を自分で決める権利は、まだまだ、少しも保証されていないです。
だからこそ“自己決定”の“権利”という言葉は必要だと思っていて、
自己責任野郎どもに奪われたのなら、取り戻さなきゃいけないと、思ったのです。
じゃなきゃ、誰かを搾取したいクソ野郎たちは
使われたら困る言葉を見つけたら、揶揄して、ふざけた使い方さえすれば
その言葉を封じられるようになってしまう。
そんなのはおかしい。
使われ方が不当だったのなら、その使い方は不当だって言った方がいい。
そうして取り戻したほうがいい。
そう思ったのでした。

「AV女優への差別や、AVへの職業差別はしてはいけません」

この言葉や考え方が、加害者たちに都合よく利用されている現状がある、ということ。
これ、業界の人も知って、受け止めて、
もっともっともっと怒っていい話なんじゃないかな、と思いました。

私は静かにガチギレしました。

・被害を相談できなかった理由

なかなか被害を相談できなかった理由として、「(事務所?の)内部の女子とは会わないようにされていたから、他の人とは話ができなかった」というのがあったそうです。

が、私が気になったのは、もう一つの方。

「被害にあったと言うのが恥ずかしかった」というものでした。

これ、スティグマの話じゃないのかな……と思ったのでした。
スティグマの話は、
『「虚像」と分断について思ったこと』
https://note.mu/tiharu/n/n90355ede3629?magazine_key=mff7d4764d9d8

とか
『スティグマの話』
https://note.mu/tiharu/n/ndb9f6df7ed61?magazine_key=mff7d4764d9d8

とかで書きました。

被害にあったことも、
それが性的なものであったことも、
恥ずかしがる必要なんて本当はなにひとつないんですけど、“恥”で、それそのものが“落ち度”であるかのように感じさせられてしまうんですね。
それは、多分に社会的な力によるものだと思っています。

やっぱスティグマは強化しちゃダメだよ……と、あらためて思いました。

・「NG項目は最初に伝えたけど無視された」

AV出演のときには、どういうプレイが大丈夫か(どういうプレイはNGなのか)細かくチェックしていく、という話を聞いたことがあって
それは海外での話だったのですが
「そうか……日本では、書面で確認してもブッチギラレルのかよ……」
ってなりました。

「ここは保証してくれるんですよね」と
何度も確認したポイントについても、保証されることはなく、騙されてしまったとのこと。

ぶっちぎられるケースがデフォルトだ、と言いたいわけではないです。

一般社団法人表現者ネットワークのAVANが
『【瀧本梨絵氏名義の告発事態を受けた問題再発防止のための提言】』を出しました。
http://www.avan.or.jp/

出演者に被害や不利益がいかなくなるような契約書のフォーマットを作る、というのももちろんですが
上述のような可視化と、後になって確認できる物的証拠を残しておく、というのは大事なのだろうなと思いました。

くるみんアロマさんがされたような
「お前が出演しないと、何人ものスタッフとその家族が食っていけなくなるんだけど、わかってんのかよ」
という恫喝をするような奴らは、もちろん水面下でするようになるでしょうから
100%防げる、とはもちろん言えないですが……。

その他
「何をしても怒られる」
「責任感でやらなきゃと思っていた、責任感でやっていた」
という言葉が印象的でした。

くるみんアロマさんは、「AV業界が悪い」とか「AV女優なんて仕事はよくない」みたいなことは一切言っておらず
むしろ、そうではない、ということでした。

ただ、「こういういいことがあるよ」と、かなえられもしないメリットばかりを並べ立てられ、騙されてしまったので
できないことやデメリットについても、明確にしてほしい、ということでした。

そういうこと(デメリット)も想定されると知った上で、
その点も加味して考え、それでもやりたいなら、やればいい。
そういう点も考慮して判断できなきゃ。
と、いうようなことでした。

個人的には
これはとても難しいことで、
メリットもデメリットも、確定しきれないことって多いと思うんですね。
何をどうメリットやデメリットに含め、伝えるかというのは、なかなか決めきれないとも思います。
思うのですが
フェアな契約のために、まずは考えてみることが必要なのかなと思います。

私などは
「デメリットもあえて伝えて自分をクリーンに見せるって詐欺の手口にもあるよね」
とかも思っちゃうわけですがね。

うまくできないものか……。

くるみんアロマさんの話は、一貫して
誠実
という印象でした。

ひとつひとつの話、言葉使いが
すごく考えられ、配慮されているな、という印象です。

それはおそらく、彼女の聡明さや誠実さ、責任感の強さからきているのだと思うのですが
この配慮されつくした感で、私は、緊張と恐怖を思い出したりもしたのです。

しっかりと隙なく、配慮し、慎重に言葉を選ばないと
誰の反感を買い、どこから刺されるか、口を塞がれるかわからない。
というような。

有象無象からの心無い言葉に、命ごとゴリゴリと削られ、すり減らされてしまうことって
性被害あるあるだと思うのですね。
そういう社会なので。
ほんとそういう奴ら全員shineって思うのですが
彼女の誠実さが、奇跡的にも、
そういうものでなかったらいいな。と思ったのでした。祈るように。

なお彼女は、
自称“AV愛好家”たちから
「AV潰す気か」
「ノリノリだったろ」
「自業自得」
「このブサイクが」
みたいなことも言われるそうです。

AVが潰れるとしたら、お前らみたいな“愛好家”のせいだからな。
と、私からは言いたいと思います。

あと
「あ、AV女優だ」
と、
まるで“社会のゴミ”だ、というテンションで言われることもあるそうです。
AV女優だ、ということで罵られ、馬鹿にされると。

自称AV愛好家たちと一緒にもげてしまえばいいのに。

「AV業界の人は、被害なんて少ないって言うかもしれないけど、でも、被害は増えています。これ以上の被害は許せません」
ともおっしゃっていました。

これについては、まず大前提として
被害の数が多かろうが少なかろうが、そこを問題にしてはいけない。
と思います。

たとえ被害が1件しかなかったとしても、
それは許されないことだし、
業界は、2度と被害が起きないよう、対策を講じる必要があるんです。
そうしなきゃいけないんです。

ただ、「強要被害が増えてる」と「強要被害なんてレアケース」というのは
これ両立する話でもあるんだよな、とかも思いました。

インターネット上に市場が広がり、非正規のものも含めがアダルトなコンテンツ市場・参入している人の数が、ものすごく増えているのではないか。とか。
つまり、分母の拡大です。
分母が拡大している分、
分子(被害者)の数が増えていても、割合としては少なく(レアケース)になる、とか
そういうこともあり得るのかな。と。

このへんは全然詳しくないので想像です。

いずれにしても、
被害の数が多かろうが少なかろうが、そこを問題にしてはいけない。
が私の結論です。


質疑応答


不謹慎な言い方かもしれないですが、面白かったです。

まず、林さんという、元朝日新聞の記者さん。
ウィズニュースで、AV出演強要問題について、1番最初の記事を書いた方だそうです。

この方が、1部での話を全否定しました。

「新聞に載らなかったのは、体験談だから、ではなく、性に関する被害だから」だと。
性やセクシュアリティに関する記事は載らないことが多い
のだそうで。

「出演強要について、社会的構造はある。その構造は、ライトハウスさんなど団体の人たちがすでに見つけてくれている。だからあとは、名乗り出てくれる当事者がいれば記事にできると私は思っていた」
「たかが体験談、ではない。構造がある以上、あとはその当事者さえいれば、と思っていた」

とのことです。

これは、どっちが正しいとか間違ってるとか、
そういう結論まで出る話ではありませんでした。
ただ、とても興味深く聞きました。

もし、ウェブでニュースを見る文化が発展したことがきっかけに
今後も性に関する被害の話や、セクシュアリティに関する話が出て来やすくなるのであれば、
いいぞ、もっとやれ!
と思います。
期待したいです。

今回のイベント、『IPPA』(特定非営利活動法人知的財産振興協会)にも声をかけていたそうですが、参加はかなわなかったそうです。
ただし“業界の人”として、観客側に参加している人たちもいました。
AV男優さんと、AV監督さんでした。

男優さんの方は
「被害を想定しない改善はありえない」と言っていました。
社会の“女性”を取り巻く構造の問題でもある。
ということでした。

これはもう、間違いなくその通りだと思います。
女性への(とは限らないのですが)性被害や性的な強要は、この社会に広く、深く存在しています。
AV業界にだけそれが存在しないなんてわけは、まぁないですよね。

「被害者がバッシングを受けている状況も、なんとかしてほしい」
「一方で、自ら選んでAVに出演している人もいる。そして、そういう人たちも被害者にはなり得る」
「被害者は若い女性、と(ライトハウスからの説明では)繰り返し言われていたが、被害者は若い人たちばかりではない」

など。

これもその通りと思いました。

AV監督さんの方は、
まずは、こうした被害があること、加害者になりえてしまうことについて受け止めなければ……というようなことを話されたあと、
表現(の自由)についての話をされました。

この場で表現(の自由)の話をしていいものか、という葛藤があるように見受けられましたが、
AV出演強要問題を発端とし、AV表現そものもが法規制をかけられそうになっている現状がある中で、それを非常に危惧している、という話でした。

「国に手綱を渡してしまうと、2度と表現(の自由)は返ってこない」

私は、出演被害を考える場で表現の自由の話を混ぜられてしまうのが
すごく好きではないのですが
出演強要問題をとっかかりに利用して規制がされそうになっていること、
それが地下化を招けば、被害がより深刻に、見えにくくなってしまうリスクさえあること、
そして、今のクソ保守政権が、そういう「浄化作戦」的な締め付けが大好きであることなど考えると、
そりゃあ言わずにもおれないよね……という気持ちにもなりました。

国に手綱を渡してはならない。

これは、常々思っておかねばならぬことだと思います。

以上です。

いろいろな人が参加している会でした。
たくさんの人の、強い感情の集まっている会でもあって、
私はなんだか耐えきれなくなってしまい
直接お話ししてみたいと思っていた人たちとそうした機会を持つこともなく、帰宅してしまいました……。

でも、今後もかかわって、考えていきます。


おわり。

以上、全文無料でした。

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