激務の労働環境でしばらく働いた後、退社してフランスへ留学した時のこと。パリではめずらしく大雨が降った日、築100年のアパートで静かに窓辺を伝うしずくを眺めながら読書したりフランス映画をみた時ははじめて頭に「晴耕雨読」という平和で穏やかな言葉が浮かびました。
ふと空を見ながら「雨のパリもモノクロ写真みたいでいいなあ」なんてのんきな感想は激務の日々の中では決して生まれることのないものでした。
結局、日本へ帰国後は激務というほどではないものの、忙しい日々を送るうちにいつしか美しかったパリのモノクロ写真のような雨の景色も忘れ、ツイッターで見かける「大雨だって仕事だ」というつぶやきにおおきくうなずいてしまうのです。何もない雨の休日はフランス映画でも見てまだ心に余裕があったあの時の自分を思い出すのもいいかもしれません。

「勝手にしやがれ」（1960　ジャン＝リュック・ゴダール監督）

雨の日にはモノクロのフランス映画。ヌーヴェルヴァーグの巨匠、ジャン=リュック・ゴダールのデビュー作。それまで映画業界ではスタジオ撮影・後日録音が当たりまえ、長い下積み経験がないと監督デビューできなかった慣習を大きく打ち破った画期的な作品です。ジャン・リュック=ゴダールはカメラをもってパリの街を縦横無尽に駆け巡り音声も同時録音、台本もなくその場その場で型にとらわれず自由に即興演出をしました。その手法は後の映画製作に大きく影響を与え、一連の映画の潮流は「ヌーヴェルヴァーグ（新しい波）」と呼ばれるようになったのです。主演は当時20歳だったアメリカ人女優、ジーン・セバーグと26歳のフランス人俳優、ジャン=ポール・ベルモンド。この映画は大ヒットし、ジャン=ポール・ベルモンドを一躍映画スターの座に押し上げました。

ストーリー自体は監督自身の過去の犯罪をにおわせるような逃走劇という感じで正直たいしたことはないのですが（すいません、個人の感想です）。ジーン・セバーグのファッションがとにかくおしゃれ！フレンチルックと呼ばれるボーダー+サブリナパンツがボーイッシュでとてもかわいいです。即興で生まれたセリフがジャン＝リュック・ゴダールの本音なのか俳優の本音なのかわからないところもまた魅力ですし、いきなり観客に向かって語り掛けたりと、唐突感のあるセリフも印象的です。なんといっても何十年経っても全く変わらないパリの町のたたずまいに目が釘付けになりました。

「ロシュフォールの恋人たち」（1967　ジャック・ドゥミ監督）

以前、東京芸術大学馬車道校舎で行われたシネクラブ(主催 横浜日仏学院)で上映され、すっかり虜になってしまったこの映画。以来、何度も繰り返し観ています。カトリーヌドヌーブ主演、ジャックドゥミ監督の名作「ロシュフォールの恋人たち」。

ミシェル・ルグランの軽快な音楽にのせて、
美男美女たちが繰り広げるダンスシーン、
パステルカラーの衣装、
美人ふたご姉妹の恋もよう…。

何回見てもワクワクするし、幸せな気分になるいい映画です。
ふたごの姉役は、カトリーヌ・ドヌーブの実のお姉さんであるフランソワーズ・ドルレアック、ハリウッド映画「雨に唄えば」で有名なジーン・ケリー、「ウエストサイドストーリー」のジョージチャキリス、今も現役のフランス大女優ダニエル・ダリュー、「ニューシネマパラダイス」のジャック・ペラン等、錚々たる面々です。

当時、終わったあとは映画評論家の大寺眞輔さんによる講演があり、公開された当時はすでにミュージカルが衰退し始めたこと、この映画のためにのためにロシュフォールの街をパステルカラーに塗り替えたこと残念ながら、フランソワーズ・ドルレアックは交通事故に遭い、25歳の若さで亡くなったことなど、映画に関するエピソードを聞くことができました。

1967年に公開されたこの映画は何十年経っても、ポップでかわいいオシャレ映画として今でも輝いてます。

雨の日は憂鬱になりがちですがカラフルな映画でフランスに浸るのもおすすめですよ。

まとめ

「せっかくの休日なのに雨が降ってざんねん」と思うか、「好きな映画でも見てゆったり過ごすか」と思うか、雨の日を心穏やかにすごせるかは結局自分の気持ち次第。そりゃあ天候に左右されるアウトドア系のレクリエーションならもちろんおおいにがっかりするけれど。そうでないなら、淹れたてのカフェオレとフランスのお菓子でも用意してお気に入りの椅子に腰かけながらフランス映画を見るのもトリップできてよいのではないでしょうか。パスポートはいりません。

参考

・遠山純生著「ヌーヴェルヴァーグの時代」

・アランベルガラ著奥村昭夫訳「60年代ゴダール神話と現場」

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