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アップデートとは原点を確認すること--『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

先日、岩波ホールにて、映画『ニューヨーク公共図書館』を鑑賞してきました。
なんと休憩入れての3時間40分!! こんな長い映画を観たのは初めてかもしれません。ランチにカレーを食べたあとに、真っ暗な場所で3時間以上拘束されるという構造上の問題で、ところどころ寝落ちしてしまいましたが、とても考えさせられる映画でした。私が観たときは、岩波ホールでしか上映していませんでしたが、順次色々なところで上映されるようなので、ぜひ、多くの人に観てもらいたい映画です。

以下内容について。(少しネタバレします。)

私は知らなかったのですが、図書館関係者にとっては、「ニューヨーク公共図書館」は、特別の意味を持つ場所のようです。多くの人が憧れる図書館。それは観ていてなんとなく分かりました。「図書館」という場所をアップデートし続けているんですね。「○○1.0から○○2.0」へみたいな安易なものではなく、本質的なアップデートの形がこのニューヨーク公共図書館にはあると感じました。

図書館という言葉から私たちは何をイメージするでしょうか。図書館というと本がたくさんあって、本を借りることができる場所と多くの人が考えると思いますが、この図書館はそこからスタートしません。

「地域の人々の生活をよりよりよく、豊かにするために、情報を通して、私たちには何ができるか」というところからスタートするんです。もちろん、本などを蒐集保管するという機能を担ってきた歴史があるので、それが主たる役割であることは変わらないのですが、それはあくまで一つの手段でしかない。例えば、インターネットが普及した現代において、物理的な本にアクセスできることだけでは十分ではない。しかし、ニューヨークにはネットにアクセスすることができない人たちがいる。だからそういう人にルーターを貸し出すというのも図書館のやるべき仕事だ、と彼らは考えます。「なぜ図書館がルーターを貸し出すの?」と一瞬考えてしまうけど、その背景にはしっかりとした理由がある。このように、上記の目的に照らして必要とあらば、就職活動のサポートもするし、子どもたちのプログラミング教室もやるんですね。

経営陣のミーティングシーンが何回も映し出されるんですが、そこでの発言が印象的で、みんな「原理・原則」を話すんです。まあ編集が入っているわけで、全てを真に受けるわけにはいかないものの、それでもこの人たちは常にこの原理原則の話をしているんだろうなという感じがありました。

この原理原則というか、常に目的に立ち返るというのは大切だなと改めて感じました。アップデートするというのはこういうことを意味するのではないかと。アップデートするというと、何か新しいことを付け加えるというイメージがあると思いますが、そこが本質なのではなく、「原点を確認する」ということなのではないかと。原点を確認し、それを解釈し、再定義する。そうすると原点のポテンシャルが再確認されて、打ち手の可能性がいろいろと出てくる。手段には拘らない、目的にのみ拘る。そういう姿勢が実は、アップデートを可能にするのではないか、そんなことを感じました。

あと、図書館関係者の「必要な面倒ごと」という言葉が印象に残りました。彼らには民主主義を支えるという自負がある。でもそれは声高に民主主義の大切さを訴えることではない。民主主義というのは多様な人々の間で意見を決めアクションを取ること。そこには様々な「面倒ごと(trouble )」が生じてしまう。しかしそれは彼らにとって避けるべきことではなく、「必要なこと」なんだと。それを丁寧に一つ一つ取り組むことにニューヨーク公共図書館の存在価値があるんだと。そういう発言だと私は解釈しました。

この映画を見に行こうと考えてらっしゃる方には、ぜひ、映画館でパンフレットを買うことをオススメします。監督のインタビューやこの図書館の役員のインタビューなどが読めるので、よりこの図書館のことを知ることができます。

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