見出し画像

映画『翔んで埼玉』を観たら、笑い以外に深みがあった

GACKTがコメディに出演して、しかも高校生役ということで注目していた魔夜峰央による漫画原作の映画『翔んで埼玉』。公開されたぶっとんでいるビジュアルと予告編を観て、期待が高まっていました。

今回もネタバレを含むことがございますので、あらかじめご了承ください。

では、映画.comよりあらすじを引用します。

かつて東京都民からひどい迫害を受けた埼玉県民は、身を潜めてひっそりと暮らしていた。東京都知事の息子で、東京のトップ高校である白鵬堂学院の生徒会長を務める壇ノ浦百美は、ある日、アメリカ帰りで容姿端麗な謎の転校生・麻実麗と出会う。百美は麻実に淡い恋心を抱き、互いに惹かれあっていく。しかし、麻実が埼玉県出身であったという衝撃の事実を百美が知ってしまい、2人は東京と埼玉の県境で引き裂かれることとなってしまうが……。
映画.com

百美(ももみ)を二階堂ふみ、麗をGACKTが演じています。

本編は、あくまでも実在の地名とは一切関係ないことを、深く念を押してからはじまります。もはや、言っておくだけ。確実に実在する埼玉県ですよ。市町村名まで一緒ですから。

めちゃくちゃな“ディスり”が飛び交う前半は笑いが止まりません。例えば、次のようなセリフです。

「そこらへんの草でも食わせておけ。埼玉県民ならそれで治る」
「埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」

なんという差別(笑)。

東京に行くには通行手形が必要であること、通行手形を持っていないとしょっぴかれなることなど、荒唐無稽な設定に劇場内は笑いが沸き起こっていました。

それにしても、GACKTは容姿端麗ですね。45歳とは到底思えません。高校生役ですが、衣装が奇抜すぎるので特に違和感もないです。ちなみに、二階堂ふみが演じている桃美は男なんですよね。知りませんでした。

さらに重要な役が伊勢谷友介演じる阿久津。彼は、桃美の父である都知事の執事なんですが、実は千葉県のまわしもの。埼玉県と千葉県はライバル関係にあり、麗と阿久津はお互いの出身地のプライドをかけて幾度となくぶつかり合います。終いには、熱烈な〇〇まで……。ぜひ、劇場で○○をご堪能ください。

さて、設定からストーリーまで笑いを堪能していたところで、「アレ?」とひっかかるシーンがありました。
それは、東京都民に虐げられる埼玉県民に麗が放った言葉。

「なぜそのように自分たちを卑下する。埼玉県人は誇り高い人たちだ」
(※観てから時間が経ち、正確には違うかもしれません)

気づきました。この映画は「プライド」を扱っているんだと。どんなに周囲から悪意や冷たい視線を向けられても、自分たちにプライドさえなければそれらに押しつぶされてしまいます。

本作のように出身地ではなくても、自分の容姿や能力など、いろいろな部分で誰かと比較されますよね。比較した時に優劣しか見えなければ、そこにプライドはありません。プライドとは、劣っている部分を認めつつ、自分の特徴や良いところを見つけて肯定すること、つまり合理的な自己肯定なのだと思いました。

だからこそ、埼玉県人は立ち上がります。
「埼玉には、埼玉の良さがある!」と。

最後に特筆すべきは、本作が大ヒットしているということ。3月3日までの公開10日間で9億5820万円を突破しているということで、この勢いであれば30億円は狙えるのではないでしょう。

ちなみに、制作費等にもよりますが映画興行においては、10〜20億円で大ヒットと言われます。だから、100億円を超えた『ボヘミアン・ラプソディー』は社会現象だし、250億円の『君の名は。』は超常現象です。

配給会社は、東宝、松竹に遅れを取り、アニメーション会社と揶揄されることもある東映。コメディ映画路線で、これほどのもの(特にキャスティングが素晴らしかった)ができたことは東映にとって自信になることでしょう。

また、一般的に全国公開された映画は、都道府県で比較すると人口がもっとも多い東京都での興行がトップです。しかし、なんと本作は埼玉県が1位。つまり、ディスられている埼玉県人がもっとも楽しんでいるということ。

ディスも笑いに変えられたら立派なエンターテインメントですよね。

東映には、「はちゃめちゃだけれどちょっと親近感が湧く」ポジションで戦って欲しいものです。

ちなみに私は、6年間埼玉に住んでいましたので、“あるある感”もたまりませんでした。さらに、出身の茨城県もディスりの玉突き事故を食らいました。でも、楽しかったからOK。

都民だろうが、県民だろうが、笑いたければ『翔んで埼玉』観とけ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?