「君に贈る火星の」
前略 手紙をありがとう。本当ならすぐ返すべきだったが、最近は便箋を使うことも稀で、探し出すのに時間をかけ、遅くなってしまった。
いや、それは言い訳だ。君の言葉にどう返せばいいかをずっと考えていた。
答えは出た。この手紙に、火星の石を磨いて埋め込んだ指輪を同封する。受け取ってくれたら嬉しい。太陽系から離れたところに暮らす君には物珍しいはずだと思うのだが、今どき火星製かと呆れられるのではないかと、実のところ少し不安でもある。
人類が地球から離れなければならなくなった時、我々の先祖が真っ先に移住したのが火星だった。今では技術の発展に伴って銀河系のあちこちに住めるようになったため、火星はひなびた田舎町となってしまったが、中々風情があると個人的には思っている。
君もたまには休暇を取って、忙しない天の川方面から離れ、火星に羽を伸ばしに来るといい。僕はいつでも待っている。
来てくれたら、今度は手紙の答えを口で伝えよう。
草々
(空白含め410字)
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